34話 それぞれの役目
翌日
目が覚めるとルナとルシアがいつものごとくハルトに引っ付いて寝ていた。
夜の間にいつのまにかルシアも潜り込んできていたらしい。
この状況にも慣れてきたハルトは二人を起こし、皆がいる屋敷の方へ向かった。
既にライラやセバスは朝食の支度を始めているようで中に入ると食欲をそそる匂いが漂ってきた。
その匂いでまだ眠そうだったルナもルシアも目を覚ましたようだ。
「よう、今日は早かったな」
後ろからロンドが話しかけてきた。
「まぁね。昨日は早く寝れたからね」
階段を下りてきながらハルト達に気が付いたナターシャも声をかけてきた。
「おはようハルト♪」
「お、おはようナターシャ」
「うー!!」
ルナは昨夜のことはあまり覚えていないようだが、何故かナターシャのことを激しく警戒していた。
「ん?なんかあったのか?」
「い、いや!なんでもないよ!」
ハルトはロンドに感づかれないように慌ててごまかした。
その様子を見てナターシャはくすりと笑っていた。
「ふふっ♪」
「お!ハルトさん達もうきてたのか!それにしてもこの屋敷のベッドはすごいな!!」
「ええ、もうふっかふかでここに泊まったらリーザスの宿のベッドでは寝られそうにありませんね。ふふ」
「そうか?寝れたらどこでもおなじだろう?」
「あんたホントバカなの?ノウキン戦士!」
「ははは、朝から騒がしくてすみません」
ルッツ達は相変わらずにぎやかだった。
皆が起きてきたようだがまだレイラの姿が見えない。
ハルトがきょろきょろしていると厨房の方からセバスが出てきた。
ハルトが姿の見えないレイラのことを探していると察したのかセバスが説明してくれた。
「レイラさんなら朝早くに起きられて、畑の方を見てみたいとおっしゃられていたのでユキとシンが案内しております。もうすぐ戻られると思いますよ」
「そうか、んじゃいる者たちから先に朝食の済ませてしまおうか」
朝食を取りながらルッツ達と会話を進めた。
「ライラさん達のご飯を毎日食えるとかいいなぁ~」
「またいつでも来るといいさ」
「ってもハルトさんが居ないとこっちには来れないじゃないか。まてよ?いっそのこと俺もここに住むって手も?」
「何バカなことを言ってるんですか。冒険者の仕事はどうするんですか?」
「そうですわ。私達は戦うことしか出来ませんしここに居ても手伝える仕事はほとんどありませんよ」
「俺は畑さえ手伝ってもらえるなら居てもらっても構わないけど――」
「ほんとか!?だったら――」
「ハルトさん!リーダーを甘やかせてはいけません!」
ハルトの言葉にルッツが食いつこうとした瞬間間髪入れずにフィルが阻止した。
「ガハハ!俺は戦いが無い生活というのはちょっと退屈だから勘弁だなぁ」
「ここの料理も部屋も悪くないから私はいてあげなくもないわよ?」
うーん。
俺としては別にいてもらっても構わないけど、ルッツ達に毎日畑仕事ばかりを手伝ってもらうためにここに置くのは流石に気が引けるしなぁ。
リーザスの街の優秀な冒険者をここに縛り付けるとなるとライナスにもどやされそうだし……。
「ねぇ。私も畑仕事を手伝えばいいの?」
「そうだなぁ……」
あれだけの実力があるナターシャに畑仕事だけを手伝わせるのはもったいないよな。
何かもっとこう、別にないかな。
「ナターシャには別のことを頼もうかな?」
「別の?あら?夜のお相手……とかかしら♪」
それを聞いてルッツは飲み物を吹き出し、エレンとフィルは顔を赤くし、ミリルは不潔と叫んでいた。
ローガンとロンドは笑っている。
「ち、違います!!ナターシャさんは一流の戦闘技術をもっているので、この街の人に戦闘の手ほどきをしてもらえないかなと」
「なーんだ、そんなことか」
ナターシャは少し残念がっていた。
ルナは話の意味は理解していなかったようだが、雰囲気でナターシャがまたよくないことを考えてると察し、ハルトの側立って尻尾の毛を逆立てていた。
「俺も含めてこの街の住人は戦闘の経験がほとんどないんだ」
「上位魔族の私やキール、アガレスまでをも圧倒しておいてそんなこという?」
「ルナは無意識に以前からスキルを発動できるようだが、意識してスキルを出したりはまだうまくできないみたいなんだ。俺もこの世界に来るときに得た加護の力と特殊なスキルのおかげで今まではやり過ごせてきたけど、身体能力が高いだけで戦闘の技能だけでは恐らくルッツ達はおろかロンドやライラさん達にも劣ると思う。だから近接も魔法もこなせるナターシャには、この街の住人を鍛える先生になってほしいんだ」
「先生ね。悪くないわね♪生徒であるハルトと組んずほぐれず♪」
やっぱこの人に頼むのは間違いだったか……。
「ふふっ♪冗談よっ。いいわ、引きうけてあげる」
「助かるよ」
「でも私は魔法の方は使えるってだけでそれほど得意じゃないわよ?猫ちゃん達にも魔法適正の方が高そうな子もいるみたいだし、そっちのほうは別で指導者を探した方がいいと思うわ」
そういいながらナターシャはエレンとフィルの方を見た。
そうか。
ちょうどいいことに属性魔法師と回復魔法師がいるじゃないか。
「二人とも頼めるか?」
「え、ええ。私で良ければ何でもお手伝いできますけど……」
「僕も構いませんが……?」
「ちょっと!なんで二人だけなのよ!?私も一応属性魔導士なんですけど!?まぁ……私は魔法より弓の方が得意だけど……」
ミリルが自分をないがしろにしてフィルとエレンに白羽の矢が立ったことに不服を感じ怒っている。
「まぁまぁ。今回は魔法の指導ってことだから」
ミリルを落ち着かせながらルッツは2人と顔を見合わせた。
「二人が居ない間は俺らは簡単な依頼をこなしてるから問題ないよ。ハルトさんの頼みだから是非協力してやってくれ」
「……ふんっ!二人が居なくたってキラーラビットくらいなら余裕なんだからねっ!」
「頼られることはいいことだ!存分に教えてやれ!」
この二人だけをここに拘束するのもさすがに申し訳ないな。
あ、そうだ!荷運びをギルドを通して依頼として出せばルッツ達にもきちんと対価を支払って仕事を頼めるんじゃないか?
「ルッツ、ミリル、ローガン。三人もナターシャでは教えられないことができたときには教師を頼むかもしれないからよろしく頼む。それと、今後は3人には荷運びを依頼しようと思うんだが――」
ハルトは交易について考えていることを皆に話した。
「なるほど、確かに悪くない話だが、依頼はまずいだろ……」
「やっぱバカなの?」
「流石にそれは俺でもわかる」
「え?なんで?」
「いやいやいや!ギルドを通した依頼なんて出したら、この世界と俺らが繋がってることがバレバレになるだろ!!もしリーザスの街にナターシャ以外の潜伏者が居たり冒険者でマナリスに加担してる奴がいたら一発アウトだぞ!?」
「あ、そうですね、ははは……」
「ではこうしたらどうかしら?」
そう告げて、ナターシャがある提案をした。
キャトランは希少種族でこれだけの数が居ること自体あり得ない話だという。
そこでキャトランが多く住む秘境から交易のための荷運びを個人的に依頼されてきた体にするというものだ。
店員にキャトラン数人配備するなら、その秘境から出てきて珍しい作物や希少鉱石をキャトラン自身が売買していると思わせられるし怪しまれないのでは?とのこと。
なるほど。
ありもしないキャトランの集落をでっち上げて、そこと交易をしていると思わせるのか。
たしかに最強種と言われるキャトランの集落を無理に探って危険を冒す者はまずいないだろう。
それに個人的な依頼となれば、ギルドを通してないからこの街との繫がりがばれる心配も少ない。
ルッツはシーフなので周辺探査能力や隠密に長け、万が一尾行をされても発見できる可能性も高いからキャトランの集落の場所を探ろうとする者が出たとしてもこの街の存在がバレる可能性は減らせるか。
だがそうなると、街からある程度距離がある特定の場所を決めて、そこに扉を設置してカモフラージュする必要があるか。
毎回違う方向から街へ荷を運ぶわけにもいかないからな。
とりあえず場所は今後検討するとして……。
「……その意見採用!」
こうしてナターシャの案で話がまとまった。
店に常駐するのは当初から希望していたレイラ、そしてセバスの次にしっかりしているユキの二人。
荷の運搬はルッツ達とシンとマリアで行い、残りのメンバーはスポットで店や運搬、畑を行き来してもらうことにした。
話し合いをしているうちに畑を回っていたレイラが戻ってきた。
ハルトの顔を見るなりレイラが急に頭を下げてあることを懇願してきた。
「お願い!ここに薬草の菜園を造らせてもらえないかしら!!」
「はい?」
「ここの土は素晴らしいわ!!ここで育てた薬草ならもしかしたらエクストラポーション……いえ!エリクシルさえも作り出せるかもしれない!!」
「なんだって!?」
ルッツとエレンがそれを聞いて立ち上がった。
「なんだそんなに驚いて」
「いや?エクストラポーションとエリクシルですよ!?どちらも製法が途絶えた超高級アイテム!それが作り出せるなんて聞いて驚かない方がおかしいって!」
「そう言われても……自慢じゃないが俺はポーションすら使ったこともないしよくわからん」
ルッツが呆れながらポーションの説明をしてくれた。
ポーションはライトポーション、ポーション、ハイポーション、メガポーション、エクストラポーションと5種類に分けられるそうだ。
基本的に冒険者の間で流通しているのは安価なライトポーションかポーション。
これらは軽い怪我や切り傷程度を治せるレベルだそう。
メガポーションになると切断された四肢を持って振りかけるとつなげられるほどの治癒力、エクストラポーションは失った体の部分を再生できるレベル。
さらにその上にあるのがエリクシル。
エリクシルは伝説のアイテムで存在すら確認されていないが、伝承によるとどんな傷や怪我も一瞬で治療できる万能薬らしい。
「なるほどなぁ。まぁいいよ?畑はすぐに広げられるし、あとでユキに言ってどのあたりに作りたいか伝えといてくれるかな?」
「既に概要はお聞きしてあるので食事の後にシンとレナ、ヒナタを連れてさっそく作ってきますね」
うわー。ユキちゃんもセバスに劣らず優秀でほんとにたすかる♪
それに比べて……。
ハルトは横で楽しそうに食事を取るルナとルシアを眺めて笑みを浮かべた。
この二人は他と比べてもとても優秀だとは思うんだが、こういったことを任せるのには若干不安があるんだよなぁ。
まぁ適材適所だな。
二人には向こうで色々助けてもらってるし、戦闘に関しては誰よりも信頼できそうだしな。
「?」
自分を見て苦笑いするハルトを見て不思議に思ったルナはルシアを顔を見合わせて、フォークを咥えながら首を傾げていた。
ひとまずこれからの動きは決まったと思うからさっそく商店開店に向けて動き出すとするか。
ルッツ、ミリル、ローガンは一度リーザスに戻りギルドに顔を出すというので、ついでにセバスを同行させギルドへの登録と商店の準備を任せた。
念の為、セバスにはロンドに預けておいたコネクトオーブを渡しておいた。
レイラは薬草畑を作りたいので出店の目途が立つまではここに残るそうだ。
こうしてマナリス襲撃の件が片付き、その報酬として商店の確保。
新たにアルレンセスの住民も増え、元猫8人、ドワーフ一人、スライム一人。人間種4人、更にサキュバス一人と行き来する冒険者数名となった。
何もないところから始まった世界だが、ハルトの人望を慕い徐々に人が集まっていく。
近いうちにリーザスの街だけでなく王都でもこの先徐々にこの街の噂が広がっていくこととなるだろう。
噂が広まり始めたことで、後にこの街が幻の虚構都市として人々の中で永年語り継がれていくことになるのだが、今はまだ誰も知らない。
※ ※ ※
王都ベルセリア 王宮にて――
現王クライスに謁見するエラルド。
「してアイデンリヒトからの書状の内容は事実なのか?冒険者エラルドよ」
「はっ。私もこの目で見てまいりました。アイデンリヒト様の言葉に嘘偽りはございません」
「そうか、わかった。マナリスか……。わかった国の方でも至急手を打つとしよう」
マナリスの動きには今後、十分気を配るとして。
辺境の街リーザスに突如現れたキャトランと謎の中年新人冒険者か……。
このまま大人しくしてくれているのならばいいのだが果たして……。
王都に来ることがあればそのときは……。
一応父上と母上にもこのことは報告しておくべきか。
キャトランの存在を知ったら父上は黙っていないだろうしな。




