11.国境を越えていこう
国境には2重構造の門がある。
『浄化の門』犯罪者が魔法で変装してるのを見破るためにある。あと軽微な状態異常もついでに正常になる。
『魔力の門』魔力が一定以上あるものを選別するためにある。力のある人をむやみに国外に出さないようにするためだ。
「ご苦労様です」ヤンさんは朝一番に門を守る衛兵に声をかける。
「ややっ!これはこれは。我らが英雄ヤン殿ではないか。ぜひとも他の者にも挨拶をさせてくれ」
「いやいや。今日は隣国の観光に来ただけでな。そんなことよりこの行列はただ事ではないな。何かあったのか?」
「はい。ここだけの話ですが聖女様が行方不明でして。間違って他国に行かないようにとのことです」
ヤンさんは聖女様という言葉に思いだしたかのように言う。
「聖女様か。そういえばアノマラド港町で二人の女性が保護されたと聞いたが聖女様たちのことだったか」
「なんですと!詳しくご説明願いますか?」ヤンさんは門番の衛兵たちに連れていかれた。
聖女が港町で保護されたのならもうこんな厳重な警戒は必要ない。
商人たちもあまりに待たされるので切れそうになってる。
それからすぐに長蛇の列になっている馬車がゆっくりと動き出した。
シュデクさんから借りた赤毛カツラがいい仕事をした。
この国でカツラは存在してない。髪の毛は魔法で染めるのが当たり前だからだ。
異国出身、しかも劇団員だからこそ持っていたものである。
ヤンさんは「二人は劇団員で最後の大仕事をしているよ」って言ってた。
仕事ってなんだろう。サンドラ奥様身重の体で大丈夫なんだろうか。
『浄化の門』を超えて『魔力の門』にさしかかる。
「スキル生えちゃったけど大丈夫だろうか。ばれないかな」優里は内心冷や汗ものだ。
もともと魔力はゼロ。あっさりと門を通過することができたのだった。
聖女のペンダントを隠し持ったヤンさんは当然のことながら門で止められる。
が、止めた犯人がヤンさんとわかるとすぐに敬礼をして通してくれた。
軍隊を吹っ飛ばした『爆風の騎士』なら魔力反応するのが当然だからである。
門の衛兵さんたちが手の空いたもの皆で敬礼をしていた。ヤンさん人気すごいな。
◇
こちらはアノマラド港、船着き場では震える銀髪と黒髪の女性が衛兵に突き出され牢屋に入れられていた。
「私たち何もしてません。」震えながらかすれ声で言うが、王都に連行される予定だ。
手配の女性が2人もそろっているのである。間違いない。聖女たちだ。
手柄の功名を焦るバンズ捜査官は、聖女2人が揃って逃げたのだと確信していた。
念のため神殿から鑑定眼をもった神官が確認に来て、その後王都に護送されることになる。
バンズ捜査官はニヤニヤと報酬を期待していた。
「お金だろうか?それとも地位かな?勲章でもいいな。希望を聞かれたらどうするかな。
ここは手堅く王宮勤めを希望するかな。王宮で勤めることができたら出世もありえるからな」
そして当然ながらその希望は泡と消えることになる。
翌日神官が到着して一目見てため息をつく。
かつらを外した彼らは、一人は男、もう一人は妊婦であることがわかったからだ。
大恥をかくバンズ捜査官。
その後『聖女様の逃避行』という演目が上演されることとなる。
劇団員がその場にいたかのような演技が評判となる。
小さな劇団員であったシュデクさんは銀髪女形として王都でも大人気となるのは、のちのお話。
◇
もどってこちらは門を超えたアピオスの聖なる滝の前。
ペンダントを返してもらい、ヤンさんは去っていった。
私と一行は馬車でアピオスの聖なる滝である目的地へ到着した。
『ほむらの剣』一行は滝を見る前に腹ごしらえに向かった。
「エリス到着したよ」返してもらったペンダントにそっと触れてみる。
後は傍らの階段を上がって滝の上に行くだけだ。
ふわりと暖かい風が吹く。
「あの」いきなり声をかけられた。
びっくりして振り向くとソルトさんがいた。
「あれ?あの、皆さまと食事に向かったのでは?」
「ええまあそうなんですが、その、聞き忘れたなと思って」
うわどうしよう。
驚き過ぎたのかドキドキが止まらない。
大人じゃないか!落ち着け私!
そ、そんなことよりも・・・なにか忘れてましたっけ?うーん。
お互いが無言になる。
ソルトさんには本当にお世話になった。よくしてもらった。助けてもらった。
うわ。どうしよう涙がでそうだ。なぜだろう。
「ここから先は大丈夫なんですか?」ソルトさんはまじめに聞いてきた。
「はい、知り合いが来ます」
「これからどうされるんですか?」
「えっと、仕事を探して就職します。
まだまだ私は甘えていたんだと皆さんに教えていただきました。
なのでもっとがんばってしっかりとした大人になっていくつもりです」
ソルトさんは少し考えてから口にする。
「俺、いや私もあなたのいるこの国で騎士として試験を受けようと思います。
しっかりとした大人になったらお互いもう一度会いたいですね」
「ふふっ。そうですね。私も負けませんよ。素敵なレディになってびっくりさせます」
「それは楽しみだな。これはうかうかしていられないな」
お互い笑いあって握手をして別れる。
振り返りたい思いを断ち切るように、息を切らせて階段を上がっていく。
滝の上から見下ろす景色は穏やかだ。
ふわりふわりと風が吹く。
深緑の木々の間を流れる透明な川。岩の間に咲く小さな花も瑞々しい。
清浄な空気がここを満たしている。
優里に芽生えたかすかな想い。
きっとこれは異世界でのいい思い出になるのだろうなと心が温かくなっていた。
やきもきしているエリスのために、そっとペンダントに触れて最後の祈りをささげる。
◇
やっと現代に戻ってきた自分の部屋。
エリスに会う前より自分がきっと成長してると思う。
就活で見えなくなっていた自分。
砂漠で冷たい水を与えてもらったように、自分のやりたいこと、できることをしっかり思い出していた。
エリスはにこやかに「本当にありがとうございました」と何度もお礼をくりかえす。
優里も「すごく楽しかった。お礼をいうのはこちらです」と何度も言う。
お互いにお礼の言い合いっこをして、「フフフ」と笑いあう。
「あの優里さん、その、あなたのことユーリお姉さんとよんでもいいかしら?」
「もちろんよ、じゃあ私はエリス妹と呼ぼうかな?」
「発音しにくくないですか?エリスだけがいいかも」
私たちはまたお互い笑いあった。『ほむらの剣』の皆さんやお世話になった人のことを話す。
「向こうで偶然あったらさりげなく『守護』の魔法かけときますね!」
「ヤンさんだけはいらないと思いますけど」
笑いながら私たちは別れの言葉をいう。
「「ありがとう、お元気で」」
エリスさんの帰り方が斬新で、私はものすごくびっくりした。
この5階のマンションから飛び降りたのだ。
来るときもきっと傍にあったあの塔から飛び降りたのだろう。
すごい勇気だ。私にはできない。
神を信じ切るエリスさんってやっぱり聖女なんだ。
エリスさんはゲームの世界である異世界に帰っていった。
その直後部屋が少し揺れて現実の時間が戻ってきたようだ。
◇
春だ春なのだ。桜の花びらが舞い散り、萌え出ずる若葉が顔を出し、草の香りに少し湿った空気。
サラサラ流れる川の音に鳥が恋の歌を高らかに歌う。
窓を全開にして現実世界の空気をしっかりと胸に収める。
また就活がんばるぞ。
でもきちんと今度こそ自分を見失わないようにしなければ。
もう会えないけどソルトさんには負けない大人になるぞ!
皆もきっと向こうの世界でがんばってるはずだ。
私はがんばる
私は負けない
頑張れ優里、小山優里!
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