10.雲行きが怪しい
ユーリーはソルトに餌付けされてる気がしなくもない。
人を好きになるのって、気がついたら好きになってるものじゃないかと思ってます。
理由はきっと後から考えてくっつけているんだろうと。
10日目。
朝、すぐに出発すると思ったがどうもおかしい。
ソルトさんたちが昨日あちこち聞いたところによると銀髪と黒髪の聖女を捕らえるため、女性があちこちでつかまっているそうだ。
何それ怖いから。
そんなわけで私は部屋から一歩も出られない。
とりあえずもう少し情報を集めるからと『ほむらの剣』さんたちは出払っていた。
困った。
まさかここで足止めをくらうとは。
ソルトさんが急いでいた事情は、このことなんだと合点がいく。
隣国アピオスへ入るとすぐに聖なる滝が巡礼地としてあるので、本来ならそこで入れ替わる予定だったのだ。
そちらに神殿や遊ぶところもあるので、ここセルベス国側はあくまで税関のためにある商人の待機所のような存在だ。
なので肝心な神殿がない。
これではエリスに相談もできない。
・・・・・詰んだ。
◇◇
所変わってここは聖女養成学院。
自力でなんでもさせるんじゃなかったのかと貴族たちからの苦情に学院長は正直に答える。
「本来は全て自分たちでこなせるように教育はしてるのですが、一部違反者がおりまして学院でも困っております。
父兄の皆様もご協力をお願いできればと存じます」
学院の責任ではなく自分の娘のワガママだと言われたようなものである。
もともとここの学生は結婚する以外役に立たないものがほとんどである。
聖女になれないのなら家に帰ってくるなと強く言われて泣き出す学生もいた。
そしていなくなった学生『エリス』の捜索は一向に進まない。
学院の反省室である高い『物見の塔』。
優里が初めてこの世界でみた建物だが、『エリス』はそこにいじめとして閉じ込められていたのだ。
学生の一人が「閉じ込めて反省してもらうはずだった。すぐに助け出す予定だったのに」と泣いた。
メイドは引き上げてしまい、学園を訪れるのは日用品を運ぶホセさんのみ。
貴族の中にもドレスをやめて平民の着るのと同じ制服を着るものが現れだした。
制服は丈夫な布なのでゴシゴシ洗っても破れたりしないのだ。
ソラ・マラ・ミドの3人に洗濯の仕方まで教わっている。
プライドは捨てざるを得なかった。臭すぎるのだ。
掃除や配膳などまじめにやる学生も出だしてやっと聖女養成学院本来の姿を取り戻していった。
◇
所戻って国境にある、隣国アピオス手前の『待機所』となる街。
なんの進展もないまま夜を迎える。
暇なので皆さんと一緒に料理に挑戦する。
意外と使いやすいコンロだ。
芋・人参・玉葱・お肉。食材は大量にある。
日本からもってきたスパイスが大活躍をする。
最後だし出所はばれないだろう。
めいめいがつくる地元料理に交じって『カレー春巻き』を作ってみる。
ヨーロッパ系はアドさんが得意なので、アジア系&インド系をつくってみた。
こちらの材料がよくわからないので似たようななんちゃって料理だ。
ユーリは思い出す。
私はこうやって皆と何かを作って喜んでもらうのが大好きだった。
そうだったわ。
忘れてたけどこうやってワイワイ生きて行きたいんだわ。
もうすぐ護衛の約束期限を過ぎてしまうので食事後、思い切って優里は提案した。
「護衛はここまでで結構です。隣国に入れない以上皆様にご迷惑をかけるわけにはいきません。
護衛終了のサインをしますので書類をください。本当にありがとうございました」
このまま皆を拘束してはいけない。優里はこの先どうするかも決めていなかった。
別のルートを探すにしても期限オーバーになるので、ギルドで別の人を紹介してもらわないといけない。
『ほむらの剣』代表のダンカンさんが差し出した書類に依頼完了のサインする。
「本当にありがとうございました」もう一度頭を下げる優里。
ダンカンさんが皆を見回してからユーリに話し出した。
「これで俺たちの依頼は完了したわけだ。皆で相談したんだが俺たちも休息をとることにしたんだ」
「隣国の聖なる滝って巡礼コースなんでしょ?すごくきれいなとこらしいよ」レースさんがいう。
「一緒にいくと恋が成就するって噂もあるわよ」アドさんものってくる。
「キャー!ほんと?絶対いきたいわぁ」
女性陣が盛り上がる。男性陣も負けていない。
「近くの街の食事がすごくおいしいらしいぜ。名物がてんこもりらしいぜ」
「異国の食べ物か。それはたべてみたいな」
「ユーリさん、そういうことだから。アピオスまでは一緒に行こうぜ」
優里はポカンとして次第に涙目になっていた。
その時、馬車の置いてある庭でどさっと大きな音がした。
「まさか!もうバレたのか?」皆が焦って庭にあつまる。
そこにいた大柄の男性はニカッと笑って麻袋を差し出した。
「ユーリお嬢さんに手土産を預かってきた」
優里&ソルトは同時にハモる。「「ヤンさん?」」
◇
どうやらあきらめなくてよさそうだ。
ヤンさんを加えて改めて手はずを考える。
「門番のやつらはわしが話して時間を稼ごう」
「そうですね。今思い出したけどヤン殿はもしやあの『爆風の騎士』ヤン・ヨーデル様でしょうか」
「昔はそう呼ばれていたような気がするが、今はただの爺じゃよ」
ダンカンさんはヤンさんを知ってるようだ。
昔、敵軍団を爆風で吹きとばした英雄なんだそうだ。
「手合わせまでしてもらっちゃったよ」などとソルトさんまで緊張してる。
軍団を吹きとばせるなら私なんて国境を越えちゃうよね。いやいや、それじゃ着地ができないじゃない。
優里はふと思いついたがあわてて否定する。
口に出てしまったようで皆に笑われてしまう。
うぅ。恥ずかしい。
「それと孫が気になること言ってたんじゃが、ユーリお嬢さんのペンダントをみせてくれるかね?」
「はい?どうぞ」
ヤンさんがしばらく眺めてから「これはまずいな」という。
魔力のこもったペンダントは魔道具として『魔力の門』が反応する可能性があるという。
「このペンダントは門を通過するまで預からせてもらってもいいかね?」
「はい。ですがヤンさんはどうするのです?」
「わしならこれを持っていても何のお咎めもないはずだ」
なぜだろう?よくわからないが、ヤンさんがそういうのならそうなのだろう。
ヤンさんは信用できるし、ペンダントをお願いする。
夜遅くまで皆で作戦を打ち合わせる。
決行は明日だ。
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