終話 終わりのはじまり
あの後私は無事に元の家に戻された。詳しいことはよくわからないが、私が死んだ後の魂は魔王さま預かりとなるようだ。そして死神さん封印の力を持つ前王さまはというと、最後まで私に力を渡すのを渋っていた。自分がオッケーだしたくせに渋るなんておかしいよね?ね?
けど、ここで私が口をはさむと前王さまの金切声が100倍になって返ってくるため、知らん顔して魔王さまに任せた。
で、任せた結果私が死んだ後に力を注ぐことで渋々承諾となった。そんな渋々なら私別にしなくていいんですけど!?って言ってみたけど睨まれて終了した。前王さまがお帰りになる際も全力で睨まれた。美人の狐顔ほど怖いものはないな、うん。
そしてお別れの時、大号泣している魔王さまと悪人顔をしているトウドウさん、勉強道具を大量に抱えたペン子に見送られ・・・主にペン子を見た途端にさっさと家に戻してと懇願して帰宅したのだった。
懐かしの我が家に帰ってくると何日も経っているはずなのに、最初の説明通り日にちは経っておらず初日の夜へと戻っていた。
気づかないうちにホームシックになっていたのか、懐かしのお母さんを見つけた瞬間はその胸にダイブした。が、うっとおしそうに払われあげくテレビのつけっぱなしを怒られた。テレビは私のせいじゃないのに・・・。
こうして私の一歩も城から出ることのない大冒険が幕を閉じたのだった。
なんやかんやで私は高校三年生となり受験という名の戦争を迎える年となった。
あの冒険からだいぶ時間は経ったものの私の中ではつい最近のように思い出せることの一つだ。ものすごく濃い時間だったからっていうのももちろんあるけど、それだけではなく、
「ちょっと魔王さまテレビに近いよ!離れて離れて」
「ああごめんね~、夢中になるとついつい」
『そうですよ陛下!そんなに近づかれるとわたくしが見えなくなってしまうではないですか!!』
そうこの会話でお分かりですよね?おかしいですよね?さよならーってして次会うときは死んだ後だね(笑)(笑えねーよ!!)みたいな会話もしたのにお別れしたのはわずか一日だけなんですよ?
久々に学校行って帰ってきたらペン子と魔王さまがテレビ独占してメミコさん見てたんだよ?思わず魔王さまにヘッドロックかましちゃったよ。
なんでもペン子曰く、魔王さまにメミコさんの話をしたら興味を持った魔王さまが私の部屋のクローゼットと魔界を繋げちゃったんだって。
てへって感じで言ってきたからむかついてテレビの線引っこ抜いてあげました。いい感じのところだったから魔王さま泣いてたけどね。
そういうわけで暇さえあればほぼ毎日こちらに来ている状態です。まあ向こうからすると一か月ほど間をあけて来てるらしいんだけどね。でも関係ないけどね、こっちじゃ毎日だもん。はっきりいってうざいよ本当に。
「そういえば魔王さま、あの悪魔はどうしたの?」
「悪魔?・・・ああトウドウかい?トウドウは今日魔界の辺境の視察でね来れないんだ。ごめんねのばなちゃん」
「いや全然大丈夫。むしろありがとう視察」
「そう?」
よかった、今日は来ないらしい。毎日あれの相手をするのはものすごく精神力を消費するので勘弁してほし「陛下、毎度こっちくるんやめてもらえます?」・・・・おかしいなあ、視察って言ったじゃん。こないって言ったじゃん。
「よお嬢ちゃん元気しとったか?」
「貴方がくるまで超元気だったんですけどねハハっていたたたあたたっ」
「元気そうでよかったわ、あっはっは」
包帯悪魔もといトウドウさんが現れた。のばなは脱出に失敗した。
ものすごい怪力でヘッドロックをかましてくる。さっき私が魔王さまにしたのとは比べ物にならないぐらい痛いよ。
「で、トウドウさんは辺境の地に旅立ったんじゃなかったの?」
『違いますよ、辺境に視察に向かわれていたのですよ。のばな様』
つい本音が出てしまった。魔王さまの背後に立っているトウドウさんが指をバキバキ鳴らし始めた。怖い。
そういえば封印が終わった後にトウドウさんはまたしても包帯男へと戻ってしまった。なぜか尋ねると「俺の美貌で女どもがよってきよったら陛下の仕事の邪魔やろ」とさりげなく自慢してきたためスルーしておいた。もちろんその後に思い切りどつかれたが。
「今日は嬢ちゃんにせないかん話があったもんやから早めに切り上げてきたんや」
「え、何?」
とても嫌な予感がする。
「あんな嬢ちゃんが死んだ後は陛下が魂を回収するやろ?」
「うん、不本意だけど」
「で、その回収した魂なんやけど、どこに入れよかって話になってな、どこがええ?」
「・・・・・・はい?」
何その軽いノリ。どこってどこ?わけがわからず私は魔王さまを見つめた。
「あはは・・・トウドウその言い方だとわからないよ。ホロ説明してあげて」
『はい陛下。いいですかのばな様、陛下が魂を回収した後もちろんわかっているとは思いますが、のばな様の肉体はもうありません。ですので新しくこちらで用意しなくてはならないのです。が、ここにきて少し問題が発生しまして・・・』
「どうしたの?」
『陛下は魔王ですが、何もないところから人間を作り出すことはできません。ですからのばな様の依代として候補を挙げるならば1機械、粘土人形、2わたくしと同じ使い魔になる。この二種類になるのです』
「ふーん?それが何か問題なの?」
確かに人間じゃないっていうのは問題だが、魂抜かれてる時点で普通じゃないし私としては何も問題はない、はずだ。
「大ありやと思うけどなあ」
ニヤニヤしながらトウドウさんが言ってきた。
「のばなちゃん、怒らないで聞いてね?ね?」
怯え顔の魔王さま。そんなに私を怒らせる問題なのか。聞きたくない気がしてきた。
「まず、2を選んだ場合はホロと同じく獣の姿になっちゃうんだ。そして1を選んだ場合は人の姿を得ることはできるけど、代わりに・・・・・・・・・物が食べられなくなるんだ」
部屋の中に静けさが訪れた。
「え?」
「せやから動物になって食事するか、人の姿で何も食べずに生きるかどっちがええか聞いとるんや」
「はあ!!?いやいやいや私がそっちに行く条件知ってるじゃん!!食事だよ?私は豪華料理を食べにいくためにそっちに行くんだよ?1なんて絶対に選ぶわけないじゃん!!」
何を言い出すかと思えば何も食べられないなんてありえない。それだったらペン子のようにペンギンになってでも食事をした方が全然マシだよ。若干マスコットキャラみたいに見えなくなくもないし。
「え、でも、あの・・あー」
口ごもる魔王さまにしびれを切らしたトウドウさんが口を開いた。
「陛下ちゃんとゆうてやらんとなんや勘違いしとるみたいですし。ええか嬢ちゃん、使い魔っちゅう生き物はあんなペットみたいな成りしとるとは限らんのや」
「あはは・・・ごめんねのばなちゃん。作り出す使い魔はどんな姿になるのか出してみないとわからないんだ」
「えーーということはペン子のようにマスコットになる場合もあればキモイ姿になる場合もあるってこと?」
「まあそういうことやな。一度魂を入れてしまうと変更きかへんからな。そん時の運次第っちゅうわけや、なはは」
笑いごとではない。そんな賭けに出てもし万が一きっしょくわるい生き物に入れられてしまった場合はどうしてくれるのか。食事どころの話ではなく一生引きこもり決定だし、なんなら生きる気力も失ってしまうよ、死んでるけど。
『さ、のばな様どちらがよろしいですか?』
「説明はしたんやし選び放題やで?」
「あーははごめんねのばなちゃん。どっちがいい?」
「いやいやいや絶っっ対にどっちもやだーーーーーーー!!!!!」
過去最高の詐欺にあった気分だ。やっぱり甘い話には罠があるもんだと私草場のばなはここで改めて思い知るのだった。
そして私がどちらを選ぶのかはご想像にお任せってことで。どっちも選ばない可能性もあるけどね!
終わり