10-2 私のターニングポイント
②
『陛下!!しっかりしてくださいまし!!』
皆が沈黙している中で少しだけ久しぶりのような懐かしい口調が聞こえてきた。
「ホロ!無事だったんだね~」
『当たり前でございます。このホロケリィゴデス、そう簡単に死んでしまうはずがないでしょう!』
むんと小さな体で精一杯大きく胸をはったピンクペンギンのペン子は、魔王さまの前に行くと小さな手(羽)で魔王さまを指しながら怒った口調で話し始めた。
『先ほどから聞いていればなんですか!陛下はこの魔界の王なのですよ!嫌なことは嫌、したいことはしたいとはっきり命令してくださいまし!!それにトウドウ様!』
あのトウドウさんLOVEのペンギンが珍しくトウドウさんにも喰ってかかっていた。
『このヘタレで優柔不断でヘタレな陛下がやりたいなどとおっしゃるわけないことは貴方様が一番よくご存じでしょう!!』
「ヘタレ二回言うたで?」
「ガーン」
ペン子は事実を正確に言っただけであって、悪気は全く欠片もない分余計にダメージがきたのだろう。魔王さまが崩れ落ちた。
「やりたい言うわけないんはようわかっとる。ただ・・・・・・・・・・いい加減このやり取りに飽きてもうたんや」
やっぱり私の考えは間違いではなかった。
私の尊厳丸無視で飽きたから早く決断させたかっただけみたいだ。
苛立ちを抑え、四苦八苦しつつ無理矢理前王さまを押し込めてようやく前に出てこれた。若干だけどコツが掴めた気がする。
「わーいペン子久しぶり~!」
『わっのばな様!?今は大事な話の最中ですよ!降ろしてくださいまし!』
「うんうんやっぱりペン子はこのうざい口調でなくちゃね~」
『うざい!?わたくしのどこがうざいのですか!こんなに立派な使い魔はこの広い魔界を探してもわたくし以外いませんよ、絶対!』
どこから来る自信なのか。だが、いつもであればものすごくうざく感じるその言葉も、今は懐かしく感じにやけてしまう。まあ懐かしく感じると言っても、ペン子と前王さまが入れ替わってから一日も経っていないけど。
「こほん、皆聞いてほしい。・・・・・ホロありがとう。皆、僕を魔王と認めてくれているのであれば命令する。のばなちゃんの魂はのばなちゃん一人のものだ。よってこの件は全て本人にゆだねることにする。他は一切口を出さぬよう、ファーレ様もいいですね?」
ここにきてようやく魔王らしい一面を見せた魔王さま。いつものヘラヘラ顔ではない真剣な表情で私の中にいる前王さまさえ圧倒していた。
そして何故か私の中の前王さまは、怯えるでも怒り狂うでもなくうっとりとした表情で魔王さまを見つめていた。
『(ああん、スィエロったらやっぱり良い男!そういう表情の方が燃えるわぁ)』
「・・・・・・・・・・前王さまに異論はないらしいでーす」
つっこむ気にもなれない私は代理でそう答えておいた。死神さんは無表情ではあるものの少し不満そうだったが、しぶしぶ納得してくれた。
しかし、私に結論をゆだねてくれたところで結果は変わらない。魔界の住人になるなんてまっぴら御免被る。
「はーい絶対嫌でーす!一度しかない人生を魔界で過ごすなんて絶対嫌!無理です!」
「・・・・・・」
「だよね~、ということでこの話は無かったことにして早く儀式を「陛下ちょい待ち」ううう、どうしたの?トウドウ」
早く終わらせようとしてくれた魔王さまのセリフを遮ってトウドウさんが前に出てきた。ものすごく嫌な予感しかしない。