表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

第9話 エステル・バスカヴィルの誘い

 食事処――。

 テラス席でエステルをひとり向かいに座らせて、四人席に腰掛けた。


「そう……トレーユ先生と生き残ったんだ」


 と三年前に思いを馳せながら、ヴァルカの隣でミーシャさんは安堵の表情を浮かべていた。またひとり生存者のことを知って、喜んでいる。それはヴァルカも同じだが、どうも喜びを顔に出すことが難しい。


(そうか、トレーユ先生も生きていたのか)


 セイラム魔道学園襲撃の日、エステルはトレーユ先生に助けられたとのこと。トレーユ先生は治癒魔道以外に土属性魔道を得意としており、魔獣達に囲まれたとき咄嗟に上級土属性魔道〈ロックドーム〉を発動させ、地面から岩の壁を四方八方に生やして自分達をドーム状に覆い、敵がそれを破壊しようとしている間に足元の地面を掘って、〈ドアノッカー〉のように掘り進み、地中から外に脱出したらしい。もちろん、その地面を掘るのも先生の魔道によるものとのこと。先生が先行して掘り進める中、エステルはその後ろをついていきながら、壁を壊した敵が追ってこないよう、背後の空洞を魔道で壊すことで道を埋める役目をしていたと話す。


 そうして魔力と体力と精神力の限界を迎えながら、まずは王都リーリスの壁の外に脱出、身を隠しつつ野草や雨水で耐え凌ぎ、汚れと怪我でボロボロになりながら徒歩でオリエンス帝国のほうに逃げ延びたようだ。

 エステルのしている眼帯は、その頃の怪我が原因だろうかとヴァルカは読む。


「オリエンスの帝都エノクもいいですが、セトもいい街ですね~!」


 そんな苦労もすでに感じさせないぺかーとした笑顔で、エステルは到着したパスタ料理をすすっていた。よく女子がやるスプーンの上で一旦麺を丸める動作などせず、雑に前世でいうラーメンのようにずるずる食べている。


「ちなみに私達は、ドリス・アシュクロフト博士という人物に保護された」


「ずるずるずる……ふぁい、そのあひゃりは、こひらで調べは済んでまふ」


「食べるか、喋るかどちらかにしたほうがいい」


 そうヴァルカの指摘が飛ぶ。


「そうですね! 喋りづらいです!」


(いや、単純に行儀が悪い……)


 なんか、このクソガキ感――と言っては失礼だが、少し思い出した。そういえば当時クラス内で一際騒がしく、よくメーア先生に怒られていた青髪の少女を思い出した。


「……それにしてもだ。なぜエステルは我々のことに詳しい?」


 直後、すべき質問はこれではないなと思って、言い直す。


「いや、言い換えよう。今日偶然海外旅行先で見かけ、声をかけてきたというわけではないだろう。我々が生きていて、この街で暮らしていたことは以前から知っていた。事前に調べたとも言っていたな。今になって接触したのは、何か目的があったからじゃないか?」


 そう問うと、隣のミーシャさんははっと驚いたようにこちらを見たあと、エステルのほうに視線を戻した。


「えっと一年半ほど前でしょうか。ヴァルカさんのお噂を、オリエンスで聞くようになったんです。銀色の義手で〈タイプ:コマンダー〉を狩る、転移魔道の使い手〝銀腕〟と」


 〝銀腕〟はよく討伐者達の間で呼ばれるヴァルカの二つ名だ。最近では戦場で会う世連軍や、アウロラ正規軍の兵士から呼ばれることもある。三年前の名誉に浮かれる余裕のあった時期ならともかく、今は自身の知らぬところで名前が知られていることに、何ら特別な感情は湧かない。


「ですが、あくまで噂は噂。それも国境を越えてなら、あちこち盛りに盛られて原形すら残ってない可能性もあります。だから本当に本人なのか、もし本人であれば〝相応しい〟か……時間をかけて見極めていたんです。もし適任なら、クエストの〝要〟になるので」


「クエストの……〝要〟?」


 そう問うのはミーシャさんだ。


「はい。実は私とトレーユ先生は、今オリエンス帝国の帝都エノクを拠点に、討伐者ギルドに所属しています。ふたりとも最前線での戦闘というより、後方調査やクエストの作戦立案が主な役割ですが……。あ、ちなみに私はいわば先生の助手ですね」


「ふたりが討伐者に……」


 その事実に、少し表情を曇らせるミーシャさん。


「接触が遅れたのは見極めもあったからですが、先ほども言った〝クエスト〟の準備を、並行してギルド側で進めていたからなんです」


「……そのクエストとは、なんだ?」


 そうヴァルカが問うと、エステルはまっすぐ彼の目を見つめて、


「〝ダンジョン攻略〟です」


「……!」


 その言葉に、さすがにヴァルカも目を見開く。


「ふふ、初めて私、ヴァルカさんを驚かせましたね~!」


「そりゃそうだろう……。人類は未だかつてダンジョン攻略――制圧に成功していない。そもそも侵入できたケースも数えるほどで、いずれも全滅したという話しか聞かない」


「ええ、そのとおりです」


「……基本的に私達人類は常に受け身だ。ダンジョンから湧いて攻めてきた群勢を、対症療法的に撃退することで生存圏を守っている。遅滞戦術のような生き方しかできていない」


 それゆえにダンジョンのことは、ほとんど何もわかっていない。中がどうなっているか、どれくらいの魔獣がいるのか、最奥には何があるのか。


「それ以前に、ダンジョンに攻め込むという発想すら、多くの国、組織で持ち上がることは稀だ。やつらが現れて二十五年前後経つというが、話に聞くに実施されたのはたった数回しかない……なのに、ここで〝ダンジョン攻略〟か……」


「さすがお詳しい。〝ダンジョンに攻め込んで潰す〟――考えたことがおありですね?」


「当然だろう。根本から絶たないと解決にならない」


「でも、調べれば調べるほど、無理だった……そうでしょう? 魔獣の武器は無限にも思えるほどの〝数〟と、〝未知〟の要素の多さ。少し調査するために人員を割いても、ほとんどが〝犠牲〟になる。これだけで人類が損失を恐れて、行動をためらうには十分です」


「ああ……ダンジョンには近づくだけでも、そこを守る二十万を超える群勢を越えねばならない。そしてよしんば突破して侵入できたとしても、次はダンジョンの中の山程いるだろう群勢と、何があるかわからない未知の領域を進む必要がある。そこには莫大な費用、時間、人材が必要で、そしてその多くを犠牲にする覚悟も持ち合わせていないといけない。それらを揃えるには、国を越えた連携も必須で――何もない個人には非現実的だった」


 だからこそ、


(こそこそいくつもの戦場を駆け回って〝対症療法〟に勤しみながら、その場で足踏みするような燻りを続けるしかなかった……)


 本音言えば、戦場を巡るだけに何も意味はない。解決にならないのだ。英雄だとか〝銀腕〟だとか呼ばれようと、何の価値もない。ダンジョンを攻略して、根本から魔獣を絶たないと意味がない。


「そのとおりです。そしてそれを揃えるために、トレーユ先生はこの三年、尽力しました。先生にはそれができるんです。元々オリエンス帝国の軍事貴族出身で、親族がエノク支部の支部長でしたから」


「そうだったのか……」


 それがなぜアウロラ共和国の魔道学園で、保健室の養護教諭になっていたのか。

 気にはなるが、今はその話ではない。


「軍事貴族として受けた元々の英才教育、実家の資金力、親族の繋がり、そして何より王都リーリス襲撃生き残りの知見をフルに使い、今回〝ダンジョン攻略クエスト〟の責任者として、作戦の指揮を執っています。使えるものは何でも使っています」


「先生が……」


「はい。それで今回、貴方にもクエストにご参加いただきたいんです。〝要〟として」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ