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第10話 〈セイラム・ダンジョン〉攻略クエスト

 ヴァルカはエステルに、ダンジョン攻略参加を求められ――、


「〝見極め〟とやらは、合格だったわけか」


「ええ! 調査によって噂が本当だったのはもちろん、私の尾行にもしっかり気づきましたからね! 最後の最後で、この目で実力を確かめてやろうと思ったんです!」


 そういえば、尾行を止めた際、〝合格〟と言われた気がする。


「……一度言ったが、あの尾行ならD級討伐者でも気付けるぞ」


「うぐ……しゅ、修行中の身ですので……」


 その見極めとやら、本当に信頼できるのだろうか。


「だが、ひとつ疑問は残る。なぜ私なんだ? 英雄と呼ばれるような逸材は他にもいるだろう。それこそオリエンス帝国のS級討伐者を筆頭に、パーティを構成すればいい」


 ――と、そこまで言って気づく。


「……そういえば、帝国にS級討伐者はいなかったか」


「ええ、現在はギルドの裁量によって、存命する五人のS級討伐者はそれぞれ別の国に身を置いています」


ちなみにそこにはアウロラ共和国も含まない。


「彼らに協力を頼まなかったのか?」


「ヴァルカさんに断られたときのセカンドプランドとして、一応は。ただ支部を介して連絡したところ、本人に伝わる前に無下に断られました。ダンジョン攻略クエストの成功を祈るとしつつも、現在彼らが担っているクエストからおいそれと動かせないと」


「それもそうか。仮に最前線に置いているとして、そいつがいるからこそ魔獣相手に拮抗できているような状況の場合、いくらダンジョン攻略のためとはいえ動かしてしまえば、途端に防衛線は崩壊してしまうだろうしな」


 ダンジョン攻略も大事だが、S級討伐者としては目の前のクエストだって誰かに引き継げるものでもない。むしろS級なら、そういった代替できない仕事ばかり背負わされていることだろう。


「そのとおりです」


「なら、私以外のA級ではダメだったのか?」


 そう問うと、エステルは顎下に指を添えて、


「そうですね……。求めているのは〈タイプ:コマンダー〉を確実に撃破し、かつ生還できる実力者です。転移魔道〈シフト〉は珍しい魔道ですが、案外探せば戦闘に使っている方は、少ないながらも存在します。ですが、〝使いこなしている〟方となると話は別です」


「私とて、使いこなせているわけではない。五メェト前後……これが転移距離の限界だ」


「距離の長さなんて、些細なことでしかありませんよ。大事なのは自身の不得意を把握した上で、工夫によって得意を最大化できることです。それを私は〝使いこなす〟ことだと考えています。ヴァルカさんは〈限界変換量〉の少なさを、その膨大な〈最大貯蔵量〉による魔道の〝連続発動〟で補っており、結果的に長距離転移を可能としています。さらにその義手の機能により意図的に〈オーバードライブ〉を引き起こし、敵の体内に膨大な魔力を変換した〈ファイヤーボール〉を〝転移〟、そして内部から焼き尽くすという戦術を実現しました。こんな戦い方をする人は、他に知りません」


 さすが、よく調べていると思った。ヴァルカとしては、そうするしか選択肢がなかったという認識で、使いこなすという考えはなかったが。


「他の〈シフト〉を使う魔道使いは、一度の転移距離はヴァルカさんより長くても、魔力の貯蔵量的に何度も使うことは難しく、総合すると足元にも及びません。緊急回避やちょっとした移動に使うくらいでしかなく、戦闘スタイルに組み込んで攻撃的に活用するなんて不可能です。私に言わせれば、ヴァルカさんは世界一の〈シフト〉使いですよ」


(過大評価だ……)


 しかしこの魔道に関してそれだけ使えていたとしても、魔獣を世界から殲滅できてない――ダンジョンをすべて滅ぼせていないのだから、何の意味もない評価だと思った。


「……それが私を選んだ理由か?」


「いえ、もうひとつあります。……むしろ、こちらのほうが理由としては大きいです」


「……?」


「意志の力です」


「意志……か」


 はい、とエステルは頷く。


「言い換えれば、感情――心の持ち方、でしょうか。結局のところ、どれだけ人類の武器が鋭くとも、〝勝つ気〟がなければ勝てません。その原動力たる心を重視するなら、三年前の襲撃で生き延び、私達のように魔獣を強く〝憎む〟モチベーションが必要なんです」


 彼女は視線をテーブルの上に落とす。しかし見ているのは、食べかけのすでに冷めてしまったパスタではなさそうだ。その瞳は遠く、そこにすでにないものを見ていた。


「それに私も先生も、ヴァルカさんもそしてミーシャさんも、みんな三年前に囚われたまま、前に進めていません。進むためにも、必要なんです。今回の〝ダンジョン攻略〟が」


 そこまで言われると、さすがにヴァルカも〝どこの〟ダンジョンなのか察しはつく。


「ということは、そのダンジョンは――――」


 とヴァルカが言いかけると、「はい」とエステルは頷く。


「ヴァルカさん、ご協力いただけませんでしょうか。オリエンス帝国エノク支部とアウロラ共和国セト支部、そしてオリエンス帝国正規軍とアウロラ共和国正規軍、世界連合軍共同で行う……セイラム魔道学園――いえ、〝〈セイラム・ダンジョン〉攻略クエスト〟に」


「〈セイラム・ダンジョン〉攻略クエスト――――」


 ヴァルカはエステルの言葉を、反復する。


「魔獣への強い復讐心――とりわけ、世界で今もっとも新しいダンジョン――〈セイラム・ダンジョン〉に向けた意志の大きさでは、他の英雄様ではヴァルカさんに遠く及びません。これがふたつ目の……ヴァルカさんをお誘いした、もっとも重要な理由です」


 その瞳はまっすぐ、いつになく真摯に訴えるように。


「クエストの〝要〟――少数精鋭で構成する、ダンジョン攻略パーティーのリーダーとして、ともに魔獣拠点領域ダンジョンを攻略し、過去を断ち切りませんか?」


 気づけばミーシャさんは、こちらから目を逸らし、何も言わずヴァルカの服の裾を指で強く摘んでいたのだった――。


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