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39クローンと次の魔王

【失踪聖女リリ視点】



 ここは……。

 そうだ、あーし勇者に……ぐっ。


 刺された横腹に激痛が走る。

 血が流れ出さないのは聖女の力だ。

 刺されてからどれくらいの時間がたったのかもわからない。


 気絶している間に連れ去られたみたいね。

 両腕からのびた枷は屈強そうな柱に巻き付いていて外せそうもない。


 ろうそくの淡い光がぼんやりと照らす洞窟にあーしと例の奴隷商人の2人きり。


 あーしが起きていることにはまだ気づいていないみたい。

 状況を整理しなくちゃ。


 結界はまだ張ってある。

 なのになんで連れ去られたか。

 決まってる、勇者だ。


 刺された時は確かに展開されていた結界。

 だけどまるで散歩でもするように侵入してきた。

 理解できないけど勇者に結界は通用しない。


 目的はなんだ。

 勇者ならハルクを追おうと思えば追えたはず、なのにあーしを捕らえたことを考えると目当てが変わったってこと?


 となると聖女だとばれた可能性が高い。

 聖女の身体は特別製って聞いたことがある。

 何に使うつもりなのか知らないけど、今殺されてないのならしばらく手出しは無い。



「ねぇ、あーしを逃がしてくれない?」

「やっと起きたのか。結界は……まだあるぞいな」



 自分の手が結界に触れたことを知覚して奥歯を噛む奴隷商人。

 あーしの結界がきれるのを待っているみたい。


 ハルクがどうなったか知ってるか聞きたい。

 けど人質にとられたらやっかいか。

 なんとか逃げ出さなくちゃ。



「話し聞いてる? 逃がしてよ」

「バカめ。逃がすわけ無いだろう」



 まあこうなるよね。

 でも下衆は単純だから揺さぶってみよう。



「何のために勇者に協力しているの?」

「黙ってニューインズが来るのを待っているぞな」

「金でしょ?」



 伏していた視線があがる。

 一度欲望に満ちた目はそう簡単に戻らない。

 エサにつられてよってきた。



「あーしはAランク冒険者。つまり結構もってるの、逃がしてくれたら全部あげる」

「い、いくらぞな」


「命と金がつりあうと思うのなら好きにすればいい」



 突如として奴隷商人の背後から放たれた冷たい声。

 勇者ニューインズだ。



「ワ、ワシはあんたの奴隷になった覚えはない。それに約束のハルクへの復讐も叶わなかったぞな!」

「復讐を約束した覚えはない。むしろ俺は依頼者だ、依頼を取り下げて金はやった。なんの不満がある」

「……」

「その聖女は俺のものだ。所有物に手を出されて俺が黙っている理由もないだろ?」



 ハルクは逃げきれたみたいね。

 よかった。



「まだ結界はあるのか。強情な聖女だな、そろそろあきらめたらどうだ」

「あーしは聖女なんかじゃない」



 なんで聖女だって知ってるんだ?

 ハルクにしか話していないはずなのに。


 目の前の男は余裕を口の端に浮かべながら口を開く。



「勇者と聖女は互いの技能の影響を受けない唯一の存在だ」

「それがどうしたの、あんたはあーしに技能を使っていないじゃん」

「スターシャの技能の影響を受けていない」

「あんたバカなの?」



 言っていることが支離滅裂だ。

 いったい何が目的なの?

 あーしはこんなことをしている暇はないのに。


 懐疑の視線を浴びせるとニューインズは気にもせず傍らに立つ女を一瞥する。



「スターシャは俺の複製品だ。技能自体は別物だが存在は同じなのさ」

「複製品? なにそれ。仮にあーしが聖女だとして、何をするつもりなの?」

「そうだな君になら教えてもいいだろう。英雄計画を」



 ニューインズは奴隷商人を追い出すとあーしの前に座りこむ。

 口元に子供のような笑みを浮かべ計画を話しはじめた。



「魔王を倒した勇者はどうなると思う?」

「英雄になるんじゃないの?」

「一瞬だけだ。――――最期は忘れられるのさ。あれだけ助けて救ってとすがっていた愚民や貴族どもは全て忘れ、勇者は一般人以下に成り下がるのさ!」



 可能性はあるけどそんなのは妄想だ。

 その後の身の振り方次第でもあるだろうに。



「妄想かなにかだと思っているんだろ。これは実現する未来だ。俺は神に見せられたんだ、未来を」

「そんな……」

「だから! 次の魔王を俺が産み出すのさ。俺の薬で人格は崩壊しディーナーとなる。人々は怯え、喚き、助けを求める。そう! 勇者に!」 

「そうすればずっと英雄でいられるって? 笑わせないでよ。アンタは勇者なんかじゃない魔王だ」


「違うな。次の魔王はお前だ聖女」



 刺すような視線であーしを見ている勇者に戸惑いや躊躇なんて感じない。

 イカれてる、まじでやるつもりなんだ。

 

 結界がある間、あらゆる毒は無効化される。

 イカれた薬だって例外じゃない。

 勇者もそれを知って結界が切れるのを待っているんだ。


 だめだもうすぐ結界がきれる。

 なんとか隙をつくらないと。



「もうそろそろだな」



 液体を内包したビンを片手にした勇者との距離がゆっくりと縮まる。


 そして無情にも結界の効果時間は終わりをむかえた。

 ニューインズの手によってあーしの顎は持ち上げられ、鼻をつままれた。

 呼吸ができずに苦しむがあっけなく口は開け放たれる。

 


「進化の時だ」


 あーしを見つめる喜びに満ち崩れた顔は次の瞬間には苛立ちを覚えた。


 脅えていればよかったのに。

 逃げていてほしかった。

 なんで来ちゃうのよ。



「リリを返してもらうよ」


面白くなりそう!

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