35元騎士と拒絶
手持ちの魔石は少ない。
ダンジョンに潜る予定はなかったからだ。
最後の魔石が炸裂ころには路地に怪我人の山ができていた。
「弾切れぞな? なら戦闘奴隷の出番ぞなよ」
チンが手を上げ下げすると残ったボロ布奴隷が下がる。
そして新たに武器を持った小綺麗な奴隷3人が姿を見せる。
ボロ布は使い捨てってことか。
「こんなガキを殺しただけで奴隷人生から解放されるってんだ。いいご主人サマだなぁ」
「ちげえねぇ。さっさとやっちまうか」
「侮るな。どんな相手であろうと全力で挑むのだ。それが騎士というものだ」
「またかよジャスト。騎士道振りかざしてる暇があったら手を動かせ手を」
子悪党のような台詞を咎めるのはジャストと呼ばれた一際大きい奴隷だ。
2メートルを優に越える巨体についた瞳は兜の隙間からまっすぐに僕を見つめている。
ジャストが背負った大剣を構えると一帯に声が響く。
「いくぞっ!」
怪我人の山に乗り上げ正面、左右から同時に奴隷が迫る。
僕は動かずただ3人の剣が振り下ろされるのを待つ。
左右から振り抜かれた剣は僕を"すり抜け"空を切る。
正面から迫る大剣も同じようにすり抜けるがあまりの勢いに他の戦闘奴隷を巻き込んだ。
「がはっ! ジャストてめぇ……」
「す、すまない。……またやってしまった」
胴をまっぷたつにされた奴隷はたちまち光を失った。
同士討ち?
「こんなだから俺は騎士団から追い出されるんだ……。せめてこの任務は達成しなきゃ」
瞬間。ジャストからとてつもない圧が放たれる。
なんだ息ができないっ、押し潰されるっ!
「あんたに恨みはないが仲間の死に報いるためにも死んでもらうっ!」
眼前に迫るジャスト。
なんて速度だっ!
感情を読みきる前に迫ってくるっ!
横なぎに振るわれた剣は路地の壁を裂き、一瞬動き止まった。
ここだ!
魔力を帯びた拳をジャストの人中に叩き込む。
「大罪人ハルク。今こそ罰を受けるがいいっ!」
急所に叩き込んだのになんで動ける!?
思考をする間も無く壁にめり込んだ剣が折り返し僕を襲う。
頬に赤い一線が通る。
不味い。
急所への一撃に見びくともしないジャストの反応をみて義肢装具を媒介にした魔力爆破を試みたが――発動しなかった。
それどころかジャストに触れた義肢装具を引き戻すこともできなかった。
動かなかったのだ。
義肢装具が動かなくなる条件は2つ。
魔力回路が破壊された場合と
魔力が充填されていない場合だ。
そして今はなんの違和感も無く動く。
となると何らかの技能により魔力供給が妨害された可能性が高い。
そう仮定するには充分。
「今のを避けるか。罪人にしておくには惜しいがこれも正義のため」
「なにが正義だ。あんたが守っている人間の方がよっぽど悪人じゃないか」
「悪はいつも人を騙し、揺さぶりをかける。その手にはのらんっ!」
地を破壊し接近するジャスト。
先程と同じく消えたと思うほどの速度で僕の腕を切り落とした。
だが種は分かった。
「またガンバスに直してもらわないとな」
「お前その腕は作り物なのか?」
「そうだよ。勇者に切り落とされて不自由だったからね」
押し黙るジャストを余所に超速度の対策をする。
「だがお前はヤン殿の屋敷に火を放ち、罪無き奴隷を焼き殺した」
「間違ってはいないね」
「やはり罪人!」
大剣を構える。
「焼け死んだ奴隷たちの心は元から死んでいたんだ」
「戯言をっ!」
超速度で僕を真っ二つにする太刀筋で大剣が振り下ろされる。
だが既に躱した僕には紙一重であたらない。
「ばかなっ」
反応されたことなどないのだろう。
隙を見せたジャストの懐へ用意に踏み込む。
ぎょっと見開かれた目は僕を捉えていない。
「失礼するよ」
ジャストの超速度、超パワーの種は魔力差だ。
一撃を受ける変わりに検証させてもらった。
ジャストの一部が触れた場所は魔力がなくなっている。
この世のすべてに通う魔力は互いに阻害しあっている。
人体に通った魔力が無くなれば魔力による攻撃を防御できない。
空気に通った魔力が無くなれば抵抗を最小限に押さえられる。
その性質を利用したジャストの位置把握。
張り巡らせた魔力の変化によって動きの機微を捉えた。
防御に回していた魔力は全て移動速度の上昇につかった。
これが超速度への対応方だ。
あとは妨害できないほどの魔力を叩き込めばどうなるかな。
「高密度に圧縮した魔力でも耐えられる?」
握りこんだ拳に体重をのせ、がら空きの鳩尾をえぐるように叩き込むっ!
「そこにいたのか」
ジャストの瞳に苦痛は浮かんでいない。
「そんな……」
拳の魔力はすべて腕へと流れ、インパクトの瞬間には一縷の魔力も帯びていなかった。
とんでもない技能。いや反則じゃない?
瞬間。腹部を爆破されたような感覚を受ける。
ジャストの膝による一撃だ。
「ぐっ」
言葉にならないほどの痛み。
一方的な魔力に悶絶する。
魔力を乗せられない以上ダメージを与える方法がない。
毒やトラップによって無力化は不可能ではないが、なんの準備もなくできるものでもない。
「万策尽きたようだな。騎士ジャストの名の元に悪を根絶する」
ジャストの連撃の苦しさが顔にでる。
相変わらずの速度にはなんとか対応しているが躱しきれないダメージが確実に蓄積していく。
ジリ貧。
僕には決定打がない。
「なにをしている! とっとと止めをさせ!」
「申し訳ない。この罪人はなかなか底が見えない」
「お前の魔力拒絶ならハルクを完封できると思って雇ったんだ。負けるようなことがあれば……」
僕に意識を向けたままヤンへ視線が飛ぶ。
ただの商人であるヤンが耐えられるはずもなく尻餅をついた。
「ヤン殿。あまり見くびらないでいただきたい。正義は必ず勝つのです」
「なら案外僕が勝つかもね」
「戯れ言を」
ヤンから僕へ移った視線は先刻よりも厳しいものだったが活路は見えた。
路地の地を蹴り壁を蹴り立体的な動きで迫るジャスト。
大丈夫。すべて知覚できている。
少し切らせてでも大ダメージを避け、再び懐へ入る。
読んでいたのか瞬時に膝が僕をめがけて突進。
空いた隙間をくぐり抜け背後を――とった!
前回ノーダメージだったにも関わらず、きっちり魔力で防御を固めるジャスト。
「無駄だっ!」
「どうかな」
拳をつくり背を――――打ち抜いたっ!
「ガッ!」
苦痛を浮かべるジャストの目は見開かれている。
「バカな魔力が」
「どうやら2度目の予想は当たったようだね」
魔力性質。
ジャストは魔力妨害を行っている。
だが特定の魔力だけは影響を受けていなかった。
それはジャスト自身の魔力だ。
極めつけはヤンが口走った”魔力拒絶“というワード。
拒絶には意思が伴う、つまり拒絶する魔力は限定的に選択されているもしくは拒絶しない魔力を選択している。
誤って仲間を切り裂いたことから後者と推測。
選択の条件は魔力の性質で行っていると判断した。
初の試みだったが僕の魔力性質をジャストの魔力性質に魔力操作で合わせることで攻撃を通した。
「これで条件はイーブンだね」
「んー、ちょっと違うかなぁ」
僕の背後からしらない声が聞こえたと同時に残った義肢装具をすべて破壊された。
手足を失った僕はなす統べなく路地に転がる。
頭を持ち上げ見据えた先には2つの影があった。
「相変わらずスマートな手際だな。スターシャ」
「ニューインズくんほどじゃないよぉ」
勇者と勇者に瓜二つの女が僕を見下ろしていた。
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