34火事と真犯人
欠損した家具が並ぶリリの宿で本を投げ捨てる。
「完全に化け物じゃん」
穴の開いたベッドで跳ねた本に記された勇者の活躍や技能に、新調した安物の義手で僕は頭を抱えた。
『過去、魔王によって支配された人間を憐れんだ神は特出した力を持つものを創造した』
『神に作られし者は山に陣取った数万規模魔物の軍勢をたった一人で山ごと消滅させ、人々は尊敬の意をこめて"勇者"と呼んだ』
『勇者は人間に危機が訪れるたびに産まれた』
『勇者の技能でもっとも協力と言われるものは三つ』
『勇者の運命、あらゆる確率が都合のよいほうへ分岐する』
『勇者の身体、その肉体はあらゆる攻撃を無効化する』
『聖剣共鳴、聖剣での一撃は何人たりとも防御できない』
「やっぱり無理かも」
半ばやけくそで放りなげた本に救いはなかった。
リリが取り乱したのも今なら納得できる。
「それでも不老不死ってわけじゃないんだ。活路はあるハズ」
頭を抱えた義手をほどき気を取り直す。
ため息をつき2冊目に視線を落としたところで扉が壊れるほどの勢いで開いた。
「ハルク、店が燃えてる!」
「え、どういう……」
「いーから来て!」
リリの褐色の手に掴まれ強制的に連れ出される。
空には不穏な黒煙が広がり、青空を蝕んでいるのが見えた。
焦げ臭い匂いは角を曲がったところで強くなる。
「そんな……」
心理士の店は僕の目の前で崩れ落ち、焼けた木材へと姿を変えていた。
水系統の技能持ちが消火にあたっていたのだろう、疲労にさいなまれた人たちが座り込んでいる。
「ハルクさんですね。早速ですみませんが消火対応等の支払いはカードから差し引きますのでご承知ください」
焼けた店を確認していた見知らぬ男が寄ってきて冷酷に告げる。
襟元のバッヂをみるにギルド員か。
しかし、おかしい。
店に火気は一切なかった。
火事などおこるハズがない。
「放火の可能性があります。調査をしてください」
「ご自身で放火をしたのに調査もなにもないでしょう?」
「え?」
まの抜けた声がでてしまう。
「『義肢装具の人が火をつけていた』と複数の証言があります」
「そんなばかなっ!」
「有力者からの証言も多く信憑性が高いとギルドは判断しました」
ギルド員に嘘の色はでていない。
間違いなくハメられている。
いったい誰がなんの目的で?
「ちょっとまってよ。ハルクはずっとあーしの宿にいたよ? 宿の人間なら証言できると思うよ!」
「なるほど。では明日朝、裁判を行うので証人をお連れ願います」
ギルド員は一礼するとくるりと踵を返し焼けた店の状況確認に戻った。
「裁判上等! 正面から叩き潰してやるっつーの! 証人集めはあーしにまかせてね!」
「ありがとう、リリ」
おそらく証人を集めたとしても僕の有罪は免れないだろう。
大きな力によって無理矢理事実をねじ曲げにくる。
贖罪金を払ってやりすごすか、真犯人を捕まえるか。
僕に残された選択は2つにひとつだ。
「ありがとう。僕は真犯人を探すよ」
「犯人探し? ちょー楽しそうなんですけど」
「くる?」
「いく!」
となればまずは『感情把握』
野次馬たちのほとんどは好奇心か嫌悪の色だ。
そして、嬉々として現場を眺めるローブの人がひとり。
技能になった僕の感情把握ならローブで顔を隠しても読み取り可能だ。
あいつは真犯人につながっている。
顔を拝んでやろうとローブの下を覗き込むとそこには見知った顔があった。
丸鼻に弛んだ頬は忘れもしない――――奴隷商人ヤンだ。
ヤンはぎょっと目を見開くと一目散に逃げ出した。
追うと大量の野次馬が間にはいる。
ヤンの背中はどんどん小さくなっていく。
「くそっ、どいて!」
「あーしにまかせて!」
リリを中心に透明ななにかが広がり、僕以外の人間は押し出されるように弾かれる。
リリの結界だ。
「ありがとう!」
「いーから行って!」
だいぶ距離があいちゃったな。
手近にあった鉄板を盾に足元で小さな魔石爆弾を炸裂させ僕は鉄板ごと宙へ跳んだ。
「いた」
ヤンは路地へ逃げ込みなおも走り続けている。
空中でもう一度魔石爆弾をつかい加速。
空気を切り裂きヤンの目の前に降りたった。
「ヤン。あなたが放火したんですね」
「さあてなんの事ぞな?」
見え透いた嘘だ。
そして今もまた何かを企んでいる。
「なにをしたって無駄ですよ。僕はもう自由だ」
「ワシは正式にお前を買ったぞな。勝手に逃げ出して自由だ? 商人なめちゃいけないぞなよ」
チンが指をパチンとならすとボロ布を着こんだ20人程度の男女が現れる。
「舐めているのはそっちでしょ」
集団に向けて小さい魔石を放り、炸裂。
多少傷は負うだろうが死にはしないだろう。
「次ぞな」
上か。いやそれだけじゃない。
数人が飛び降りてくると同時に前後からも人が押し寄せる。
四方になげた魔石を同時に炸裂させるが人の波がおさまらない。
「いったい何人用意しているんだっ」
「お前を調べたときは驚いたぞなよ。なにもできないことが取り柄の奴隷ハルクがAランク冒険者でも倒せない魔物を爆殺していたんだから」
手の内は筒抜けってことか?
どこまで知られている?
魔石爆弾や自爆、せいぜいその辺りか?
いや楽観は危険か。
「だが個人の力なんぞ知れている。力は数! 数は力! さぁて爆弾はいつ尽きるぞなぁ?」
チンがニチャァと笑うと歯が糸をひき生暖かい息を吐いた。




