32昇格と大金
リリ蹴りによってドンクの身体は完全崩れ落ち灰となった。
「ハルク! 死なないでポーションあげるから」
古ぼけた小さな鞄から取り出されたポーションは僕に振りかけられる。
飲ませてくれなきゃ効果がないんだけど……。
「あ、かけても意味ないんだった」
鼻にまで入れられたポーションは僕を癒やした。
鼻の痛みは残っているが。
「ありがとう。次はちゃんと口に入れてほしいかな」
「細かいことは気にしないの!」
あっけらかんと笑うリリの髪はふり乱れ、身体も煤だらけだ。
「それよりハルク。なんであーしを置いていくのよ。まだあーしを信用できないの?」
「違うよ。もう誰も失いたくなかったんだ」
「……あーしだってっ! ハルクを失うところだったよ!」
声をあらげるリリの瞳はまっすぐ僕をみつめている。
そうか、そんなこと考えもしなかったな。
心配されるなんて久しぶりすぎたからか。
「ごめん」
「じゃあ、次からは呼んでくれる?」
「ダメだ。それでも呼べない」
「じゃあ、あーしもハルクを呼ばない。ハルクのために先回りしてぜーーんぶ片づける」
腕を大きく動かしてジェスチャーをするリリは僕の額に自分の額を合わせる。
「なっ」
変な声でた。
「それが嫌ならちゃんと呼んで。きっと力になるから」
「わ、わかった。呼ぶよ」
「ならよし! 帰って事件を報告しよ!」
◇◇◇
「ハルクさんはCランクに昇格となります」
がやがやと喧騒に包まれるギルドで、理解しがたいひと言が飛び込んできた。
「えーと、いま登録したところなんだけど」
「認めたくはありませんがハルクさんには二度大きな実績があります。特に今回の薬物騒動は領主様からも依頼がありましたので大きな功績となりました」
唇を尖らせながら話すのはリリ好きのギルド員だ。
「よってCランクに昇格です。リリ姉と肩を並べるにはおこがましいランクなのでリリ姉には近づかないように」
「そんなルールないでしょー。ごめんねハルク、この娘他人にすぐ突っかかるんだ」
リリに両頬を引き伸ばされているギルド員は涙を流しながら頬を染めている。
あんまり関わりたくないなぁ。
「まあなんでもいいけどCランクになると何か良いことがあるの?」
「そんなことも知らないんですか? これだからお邪魔虫は」
だんだん遠慮がなくなってきたな。
「一度しか言いませんからね。見られる依頼が増えます」
「受けられる、じゃなくて?」
「ええランク別に依頼板がありますのはご存じですよね。あなたはCランク依頼板をみる権利が与えられます」
2回言ってくれた。
依頼板ってランク別だったんだな知らなかったや。
実力に不相応の依頼は見ることすらできない。
でも、今回の僕みたいにたまたま依頼を達成すればきちんと報酬はもらえるシステムつてことか。
「その代わりギルドからの緊急依頼も増えるよ」
「身の丈に合わない依頼がきたら受けないから大丈夫だね」
ため息をひとつついたギルド員はカードを一枚カウンターに置いた。
「こちらにハルクさんの今回の報酬を記録しています。必要であればギルドで一部もしくは全部の引き出しが可能です」
「ありがとうございます。ちなみにいくら記録されているの?」
「白金貨が100枚分です」
「そんなに!? 白パンを数えきれないくらい食べられるじゃないか!」
飛び付くように手にしたカードによだれが滴り落ちる。
「肉だって食えるよ。早速あーしと夕飯デートする?」
「肉デートするする!」
「ちょっと! リリ姉とデートだなんて馴れ馴れしいわよっ」
もうカードはびちゃびちゃだ。
結局三人で肉を食べてリリの宿『とりのねぐら』へと帰った。なぜか全部僕のおごりだったけど。
相変わらず欠損した家具しかない部屋。
明日の食事も気にせずくつろいでいる。
奴隷のころには考えられない生活だ。
「これも師匠のおかげだな。……ねぇリリ」
「なーに?」
「僕、勇者ニューインズを倒さなくちゃならない」
「――――なんでそうなるの!?」
目を丸くするリリにディーナー事件の裏にいた勇者の話をした。
勇者は師匠の仇。
「勇者はディーナーって化け物より化け物な化け物なんだよ!」
驚きのあまり変な言葉遣いになっているよ。
「いますぐって話じゃない。もっと強くなって勝算がもてたら挑む」
「そ、そっか。その時は絶対あーしも呼んでね」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
窓からさしこむ静かな光に決意を誓い。
夜の闇へ意識を溶かした。




