26完全枯渇と勇者
2体の醜悪に気圧され呆然と立ち尽くす僕を化け物の手が包みこむ。
希望を失った僕は弱かった。
一度つかんだ希望の糸が切れることは、それほどに精神的ダメージが大きい。
「ハル、ク」
あざやかな赤髪が視界に入る。
リリもまた化け物に捕まっていた。
指でつまむように頭を持ち上げられたリリは小さくつぶやく。
「また、デートしようね」
リリは馬鹿だ。
またなんてない。
ふたりともここで死ぬだけだ。
しかし僕の身体はリリの言葉に呼応するように動いていた。
次の瞬間、化け物の手が破裂。
右足を代償に推進力を確保した僕はそのままもう一体の化け物へと突撃。
リリをつかむ不届きものの口内に右腕を突っ込み、再度――――炸裂。
飛び散る肉片とともに僕と解放されたリリは力なく地に落ちる。
僕に残されたのは熱をもった左腕だけ。
義肢装具はすべてくれてやった。
片腕を失った化け物は怒りと快楽の色を浮かべて迫っている。
「そう都合よく仕留めきれないよなぁ」
僕は自分の幸運を呪った。
いっそ左腕も義肢装具だったら、奴を仕留められたかもしれない。
もう一度横穴に戻るくらいは出来たかも知れない。
「ちくしょう」
「ゴロスゴロス!」
魔力はまだあるのに出力先がない。
化け物は残った手で僕をつかみあげ笑う。
すまき状態になった僕は抵抗すらできず、雑巾を絞るように握りしめられる。
痛い痛い痛い痛い!
死ぬ! 殺される!
いや、
まだだ、
無から作り出せ
手足を魔力で作り出すんだ!
身体からにじみでた紫色の魔力が手足を形成しようと動きだす。
うまく出来たのは右腕だけだった。
それもぐにゃぐにゃで腕とは言いがたい形だ。
だか確かにコントロールできる。
「できれば足がよかったけど欲は言えないな」
いちじるしい魔力の喪失に不快感をおぼえる。
嘔吐して胃が空っぽになるような感覚。
もう一度はない。
正真正銘のラストチャンス。
しかし、すまきにされたままでは化け物の口には届かない。
なんとか隙をつかないと、そう思ったときだった。
「あーしも、いいとこ見せないとね」
血色を失い紫色になった唇から弱々しい声が絞りでる。
声が消え入ると同時に剣が化け物の眼球に向かって飛び出した。
「あとは任せちゃうね」
リリは一言を残してその場に倒れた。
剣は化け物に刺さることなく毛で弾かれ宙を舞う。
「助かったよ。ゆっくり休んで」
とっさに魔力で作りだした手で剣をつかみ僕は剣へ魔力をこめる。
義肢装具ほど簡単に籠められない、魔力の入り口が狭くてつっかえているような感覚。
ならばと残った全魔力を一気に注ぎこむ。
みるみる赤く発光する剣に危機感を覚えたのか化け物は口をつむぐ。
多少の学習能力はあるらしい。
しかし無駄だ。
さっき証明された。
魔力の爆発は頑丈な毛や皮膚も破壊する。
「悪いが死んでくれ」
数分して爆発による土煙がおさまった。
僕はもうピクリとも動けない。
魔力の完全枯渇で疲労感と嫌悪感に襲われている。
ゲテモノ魔力剤が恋しくなるほどの苦痛だ。
一方リリもまたピクリとも動かない。
助けたいがどうにもならない。
そして絶望は見覚えのある姿で再びやってきた。
「まだいるのか」
ニタニタと人間と同じような口で笑みを浮かべて化け物が僕たちに迫る。
軽々とリリを拾い上げ大きく口をひらく。
「やめっ」
僕はまた失うのか。また守れないのか
苦痛を押し殺して無意味に左手を伸ばす。
化け物は気にもとめずリリを口内へ放りこんだ。
『ウィークメイク』
瞬間。
化け物の首が血飛沫とともにとぶ。
岩をも砕くリリですら傷ひとつつけられなかった首が力なく転がる。
なにが起きた?
「無事か?」
化け物の首に着地した男の剣は血に濡れている。
この男が化け物を一撃のもとに屠ったのだ。
「あなたは――――」
「俺はニューインズ。勇者だ」
勇者ニューインズ。
僕は白銀の鎧に包まれたこの金髪の男を知っている。
奴隷時代にあったことがあるからだ。
客の顔はほとんど覚えていないが青いマントを羽織ったニューインズのことは忘れていない。
いや忘れられない。
虫も殺さぬような顔で腹の中は真っ黒。
僕の手足を奪った張本人なのだから。
面白くなりそう!
更新頑張れ!
と思った方は、画面下の☆☆☆☆☆からご評価ください!
最高の応援になります!
めちゃくちゃ嬉しいです!
ブックマークも大歓迎です!
ぐんぐんモチベーションあがります!
よろしくお願いします!




