24ダンジョンと初デート
「あんたねー、タイミングってもんがあるでしょ?」
「ふざけている場合じゃないんです!」
髪を振り乱す女の剣幕にリリは一歩ひく。
額の汗をぬぐい肩で息をしている女は呼吸を整えながら用件を話しだす。
「Sランク冒険者が失踪しました。それも初級のダンジョンで」
「穏やかじゃないわね」
「リリさんに調査……できれば要因の排除をお願いします」
リリに依頼の話をもってくるってことはギルドの関係者だろうか。
いやそれよりも分からないことがある。
「Sランクに何かあったならSランクに頼むべきなんじゃないの?」
「誰ですかあなたは、関係ない人と問答している時間はありません」
「あーしの彼ピッピなの、邪険にしないで」
リリの眉間によったシワを見た女はしぶしぶといった様子で口をひらく。
「Sランクは特異性や特殊な実績で選ばれるので、Aランクより全てが優れているという位置づけではないんです」
「リリってほんとにすごいやつだったんだね」
「みなおした?」
ニカッと笑うリリは僕に隠そうとしている、依頼への不安を。
「さあ早く!」
「どーせ断れないしちょっといってくるね」
「待って、なんで断れないのさ」
眉尻をつり上げた女が向き直ると同時に平手打ちがとんでくる。
素人の一撃が僕にあたる道理はない。
空を切った平手は悔しさを握りつぶすように丸くなる。
「緊急依頼は強制なの! もし逃亡すれば今後冒険者としての活動はできなくなるのよ!」
「なんで君か悲しい顔をするのさ」
女を包んでいるのは悲しみの色。
想定していなかった脅威に対しての不安ではない。
大切なものを失うかもしれないといった喪失や哀愁の色だ。
「リリ姉さんに行ってほしくないからよ!」
「ほらほら泣かないでよ。死ぬと決まった訳じゃないんだし」
リリが女の涙をぬぐい優しく抱きよせる。
「お願い姉さん。この街から逃げて」
「あんたがそれを言っちゃダメでしょー。それにあーしは街をでない。結構気に入ってるんだ、この街」
ふたりは理不尽に振り回されている。
ちゃんとした職業を持っているであろう人間ですら、あえぎ悲しんでいる。
やはり心を殺されないために必要なのは力だ。
「じゃあ、行ってくるね。ハルクはここで待ってて」
命は大切だ。
絶対に失うわけにはいかない。
でもボトムズ師匠が死んだあの日知った。
そして決めたんだ。
大切な人を失うことは心の死を意味する。
僕は命も心も殺させはしない。
そのために強くなったんだ。
「リリ。僕もついていくよ、いないよりはマシだろ?」
「いいの? 死ぬかもしれないよ?」
「死なないよ。なにがなんでもね」
◇◇◇
岩と土に囲まれた空間。
時たま天井にたまった水滴が自重に耐えきれず落ちて弾ける。
「冷たっ。上に水源でもあるのかな?」
「魔水よ。飲んでみたら?」
リリに言われるがまま天井から落ちる水滴の下にまわりこむ。
「まずっ。これ魔力剤だ」
「空気中の魔素が集まると魔力剤の元、魔水になるの。加工してないから効果は薄いけど、たくさん飲めばほんの少しだけ回復するわ」
「壊滅的な不味さは変わらないのに効果は薄いなんて詐欺みたいだ」
「お、詐欺の被害者が現れたみたいよ」
リリが指を向けた先からゴブリンが姿を現す。
濃い緑色の身体についたヤギのような目玉と視線があう。
「僕がやるよ」
「あはっ、彼ピッピやっさしい!」
リリの軽口とは対照的に僕はゴブリンをじっと見据える。
殺されたら死ぬ。
当たり前の恐怖に足が震える。
ゴブリンは人を殺すことに躊躇いを覚えない。
師匠はそうやって殺されたんだ。
恐怖が悲しみに変わり、やがて怒りに変化する。
「もう逃げない」
僕の一言を開戦の合図とでも思ったのだろうか、ゴブリンが一直線に突っ込んでくる。
こん棒は躊躇いなく振り下ろされる。
しかし僕に掠りもせず濡れた土を叩きこんだだけだ。
遅い。
あまりにも遅い。
色を読むまでもなく見てから避けられる。
がら空きの背後へまわり隙だらけの頭と顎をつかむ。
そのまま勢いよく時計回りに首を回転させると、緑色の身体は糸が切れた人形のようにその場で倒れこんだ。
「こんなに弱かったのか」
「ハルクが強くなったんだよ」
身に宿した力の一片を知る。
師匠が敬遠していた魔物狩り。
これで薬草採取より稼ぐこともできるだろう。
「ほらほら次だよ」
3匹。
断末魔もあげさせなかったのに同胞の死を知る術があるのだろうか、ゴブリンがすぐに集まってきた。
念のため腰にぶら下げていた剣を抜き、今度は僕が先に動いた。
義足に魔力をこめ強襲する。
ゴブリンは目で僕を追うこともできない。
緑色の血飛沫があがり、ひとつ首が転がる。
「弱すぎる」
状況の整理もできていない残り2匹の首が胴体から離れるまで3秒とかからなかった。
「ハルクめっちゃ強くなったね!」
「リリのお陰だよ」
確実に強くなっている。
大切な人だって守ることができる。
師匠も守ってあげたかったなぁ。
「へへ、そーいってくれると嬉しい」
明るい笑顔が僕の暗い気持ちを照らしてくれる。
絶対に生きて帰ろう、そう思った矢先。
足元に確実な死があった。
「なんだ?」
「離れて!」
身体中を引き裂かれた冒険者の死体だ。
頭と腹部、そして脚がない。
「オリハルコンでできたプレート。こいつが失踪したSランクね」
「ご感想は?」
「思ってたよりも刺激的な初デートになりそう」
リリの額に汗がにじみ、呼吸が荒くなる。
恐怖、不安、警戒、緊張。
さまざまな色が入り交じっている。
「これは撒き餌。いるわ近くに。クレイジーなやつが」
「違うそいつだ! 死体から離れて!」
死体の胸部から毛におおわれた手が伸びる。
飛び退いたリリの胸には3本の傷。
「リリ!」
「大丈夫。かすっただけ」
死体から――いや死体の下からうっすら見えた色は喜び。
遊んでいるつもりか。
「エゲゲゲ、ゴロスゴロスコロスゥウ!」
地中から這い出したそれは獣のように全身が毛におおわれている。
しかし開いた口には人間と同じような四角い歯がズラリとならび糸をひきながら確かに人語を話した。
瞬間。
体長4メートル程度の化け物の頭上までリリは跳ねていた。
どうやら僕との組手中は本気じゃなかったらしい。
リリの剣は化け物の肩間接を狙う。
風切り音をあげながら一気に縦断――――できない。
毛ひとつ切れていない。
弾かれた剣は勢いよく回転し岩を砕く。
「岩よりよっぽど硬いってことか」
「ハルク無理っぽい! 逃げるよ!」
リリが撤退の指示をだすと同時。
指示をかき消すように轟音が響く。
「ニガザナィゾ~」
化け物が毛だらけの腕で僕たちの帰路を破壊したのだ。
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