11.プレゼント選びと疑問
ファッションセンスに自信がないのか、クリスお姉さんに似合うコサージュが決められないと言うレオンお兄さん。優秀な接客係としては、しっかりお手伝いいたしますとも!
「クリスお姉さん、どれにするか迷ってるなら、レオンお兄さんに選んでもらおうよ」
「えっ!? で、でも……」
「お兄さん、こっちと…こっちだったら、どっちがいいかな?」
クリスお姉さんにそう声をかけてから、2つのコサージュをクリスお姉さんの帽子に交互に添えて、レオンお兄さんに判断してもらう。お姉さんは帽子に付けたいって話してたからね。
黒とか赤とかのキツイ色がメインのものは、お姉さんの雰囲気に合わないので候補には挙げない。あと、帽子が白だから、白とか淡すぎて溶け込んでしまうような色も外すと、残りは20個くらい。あとは、1個ずつこうしてどっちがいいかと絞りこんでいけばいいだけだ。
「えーと、こっちかな」
「じゃあ、これとこれだったら?」
「うーん、こっち……いや、こっちもいいかなぁ」
迷った時は、両方を候補に残しておく。
レオンお兄さんは真剣に選んでるんだけど、ずっと真剣な眼差しを向けられ見つめられるクリスお姉さんは、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いている。時々チラチラとレオンお兄さんを見てるけれども。
うーん、ホント初々しいカップルだね。内心「勝手にやってろ!」と毒づいてる自分もいるけど、もっとイジリ倒してやろうか、と思う自分もいる。接客係としては後者を選ぶべきだろう。……いや、一番は見て見ぬふりだろうけどさ。
「クリスお姉さん、顔上げてちゃんとお兄さんの方見てないと、似合うもの選べないよ?「ふぇっ!」お兄さんも、帽子ばかりじゃなくてしっかりお姉さんを見て選んで「う、あ、いや、その……」ねっ!」
2人はそろっとお互いを見て、目が合うなり顔を赤くしてパッと俯いた。あー、なんかアチコチ痒くなってきたけど、これじゃあ選ぶの進まない! って、煽ったのは私か。とりあえず追い打ち……でなく、作業を進めよう。
「ほら、2人ともちゃんと見て! 決められないよ!」
「「……ハイ」」
おずおずと顔を上げる2人だが、私は「2人の態度の意味なんて何も解ってませーん」という風を装って、問答無用でさっさとコサージュ選びを再開させた。
最終的にレオンお兄さんが選んだのは、最初に私がお姉さんに手渡した、水色がメインの薔薇のような花だった。
最後まで候補に残っていたもう一方は、可愛らしいピンクのふわっとした小花を集めてリボンでまとめたもの。一つ一つの花の形は同じだけど、使ってる布が少しずつ違っているので華やかさもあるし、針金入りの茎が付いているので角度を少し変えることもできる。
ちっちゃなブーケのようなそのコサージュは可愛らしくて、今のクリスお姉さんにはとっても似合うと思うんだ。水色の方もちょっと大人っぽい雰囲気ではあるものの、よく似合っているし、レオンお兄さんの見立てもなかなかイイ線いってるね! けど、ピンクの方はちょっと子どもっぽい雰囲気でもあるため、長く使ってもらえそうにはない。そんな懸念をそれとなく伝えたところ、レオンお兄さんは少し逡巡した後に、何故だか意を決したような雰囲気で水色の花を選んだのだった。
クリスお姉さんは自分でも気に入っていた花なので、喜んで「じゃあこれにします!」と自分で支払いしようとしたけど、すかさずレオンお兄さんが支払いを済ませた。そういえば、私はすっかり「お兄さんが選んでプレゼントする」という前提でいたけれど、お姉さんは選んでもらうだけと思ってたんだよね。
「プレゼント用に包みますか? それとも今付けますか?」
店としてはそのまま付けていってもらいたい。可愛い女性が付けててくれたら、いい宣伝になりそうだし。けど、一応聞いておかないとね。
「このままでいいです」
そう言ったレオンお兄さんの顔は、なんだか緊張しているみたいだ。すごく表情が硬く、何かを決意したような真剣さに満ちている。
そして、私からコサージュを受け取ったお兄さんは、すぐにクリスお姉さんに向き直ってそれを差し出した。
「今すぐは無理ですが、いつか必ず、このコサージュと同じ色の本物の花を贈ります。それまでこの花を持っていてくれますか」
「っっ!! ……は、はい」
お姉さんは涙ながらに何度も頷き、花を受け取ってやっとのことで「はい」と返事を返した。
その瞬間、うちの母さんや従業員のアリーさん、他のお客さんを含め、近くにいた人達から歓声が上がる。
「おおー! おめでとう」
「まぁ! 素敵! おめでとうございます」
「お似合いのカップルね!」
「いいぞー!」
「兄ちゃんやるなぁ。カッコ良かったぞ!」
えっ、えっ? なんでお姉さんはそんな泣いてるの? 何この盛り上がり? なんで外野がこんな喜ぶの? 誰か! 説明プリーズ!
ここが祭りの露店の店先だということを忘れていたのか、歓声を聞いて我に返った2人が真っ赤になって慌てて俯いた。それからレオンお兄さんは私にコソっと「ありがとう。君のおかげで腹を決められたよ」と耳打ちしてから、この店に来る前に買ってきた『揚げ玉』の入った容器の1つを押し付けて、クリスお姉さんの手を引いてそそくさと退散していった。
状況が飲みこめず、しばらくキョロキョロと辺りを見回していると、当人達が去ったことでそれぞれ散っていく人達やまだ少し盛り上がっている人達、うちのコサージュに興味を示す人達、と様々に動き出した。
「あら、それもらったの? 良かったわね! 食べるなら後ろでね」
母さんは集まり始めたお客さんに満面の笑みをこぼしつつ、私に一声かけてからいそいそと接客を始める。アリーさんはしばらく目をハートにしてポワ~っとしてたけど、お客さんに話しかけられて慌てて接客に戻っていったよ。
うん、お客さんが増えたから私もいつまでもボケっとしてられないね。もらった揚げ玉を裏のスペースに置きにいくと、いつの間にか父さんが戻ってきていて何故だか呆然として固まっていた。この場にいる他の人達とは明らかに様子が違うんだけど、どうしたんだろう? うーん、さっきの自分だけ取り残された感も含めちょっとモヤっとするけど、……今は接客だよね!
それから昼過ぎまでの間お客さんが途切れることはなく、妖精の庭は接客に忙しくて2人のことを聞く暇もなかった。忙しかったのは、父さんが心ここにあらずといった感じだったせいもあるため、客足が落ち着いたタイミングで、父さんは母さんからお叱りを受けた。まぁ、母さんも怒っているというよりは心配そうな感じだけど。
「ねぇあなた? さっきからどうしたの!? 忙しいんだからシャキっとしてくれなくちゃ! タマラの方がよっぽどしっかりしてるわよ?」
「あ、ああ、そうだな。すまない」
父さんはシュンとした感じで謝りながら、それでも何か気がかりなことでもあるのか難しい顔をしている。とりあえず今この場では理由を話すつもりはないみたいだね。
「まったくもう。……もうお昼過ぎだし、今のうちにタマラと2人でお昼ご飯済ませてきて。戻ったら、しっかり働いてね」
母さんも今は無理に聞き出したり責めたりすることはなく、一つ溜め息をついて休憩を言い渡した。ついでに私もご飯らしいので、ここは私が一肌脱ぎましょうとも! ま、単に私が理由を聞きたいだけなんだけどねー。
そういうわけで私と父さんは連れだって、お祭屋台フードを求めて人ごみに突撃していった。
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