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12.事情聴取

父さんとお昼休憩に入った私は、お祭りでしか味わえない美味しいものや珍しいものをゲットすべく、キョロキョロしながら人ごみの中を進んだ。

広場では普段から疎(まば)らに屋台が出てるけど、お祭り中はやっぱり桁違いの多さだね。そこかしこから美味しそうな香りが漂ってくるし、すれ違う人が歩きながら食べてる物も気になっちゃうし、イロイロありすぎて目移りしてしまう。


しばらく父さんと、アレにしようかコッチはどうかと相談しながら買い歩き、2人共の両手が塞がったところで広場の端に設置されたテーブルに荷物を置いて、「ふぅ」と一息ついた。このテーブルは祭りの間だけ設置されるもので、誰でも自由に使っていいことになっている。

椅子がなくて立ち食いになってしまうためゆっくりはできないけど、だからこそ長く占領する人も少なくて、入れ替り立ち替り多くの人が使えるんだよね。ま、椅子を持ち込んで占領するマナーの悪い人もいるんだけどさ。

早速、買ってきたお祭り限定のパルマ(クレープ状の軽食)にかぶりつく。


「何コレ! うまー!!」


思わず感嘆の声が出てしまった。ふと見ると、父さんも「ウマイウマイ」言いながら夢中でかぶりついてる。

普段は安くて薄~いお肉と野菜に塩ダレの組み合わせが多いんだけど、今日のは厚切りのお肉と野菜に焼肉のタレっぽいものがかかってるんだ♪このお肉はレッドブルという、文字通り体表が赤い牛の魔物の肉なんだって。あ、食べても翼は授からないよ。

だけどこのお肉! 分厚いのに! 焼いただけなのに! 何時間も煮込んだの? ってくらい凄く柔らかく、それでいてジューシーで旨みが強い! その分いいお値段してたけどね。これぞお祭り期間だけのプチ贅沢!!


空腹と食欲をそそる匂いからひとまず食べるのに集中してたけど、大満足のパルマを食べ終えてお腹が落ち着いてくると、気になるのはやっぱり父さんのおかしな様子。朝は普通だったから、何かあったとしたら露天と家を往復してた間。もしくは露店での事が関係してるか……。

カリカリのフライドポテトを口に運びながら考えを巡らせる。

明らかに変な態度なのに、母さんにも理由を話そうとしないのはどうにも腑に落ちないんだよね~。


うーん、母さんには言えない事?

はっ! まさか、浮気(女性関係)!?

お相手の女性との間に何かショッキングな出来事が起こったとか?

誰かに一目惚れしたとか!?

だとしたら、クリスお姉さんに一目惚れした挙句に、戦わずして速攻で玉砕……

なーんて、そんなわけあるか!


結婚して8年、今でも父さんは母さんにベタ惚れだもんね。とっても仲良しでこっちが困るくらいだし、夜の性活……おっと、生活も充実してるようだし。……私も3歳過ぎるまでは、両親の寝室で一緒に寝てたんだけどね。ある時ふと目を覚ました時に、すぐ横から母さんの艶っぽい声が聞こえてきた時のいたたまれなさといったら、もう!

もちろんすぐに! 気付いた瞬間に! 邪魔しましたとも! 本格的にい(・)た(・)す(・)前だったのは、せめてもの救いでした! そんでもって数日の間をおいて、私からなんのかのと理由を付けて一人部屋にしてもらった。父さんは「まだタマラは小さいから、一緒の部屋がいいだろう」ってゴネてたけど、寝ているすぐ傍で両親の色事が展開されるなんて、(魂年齢的には)35歳の私にとっては苦行……いや、最早拷問だよね! 断固として一人部屋を勝ち取ったよ。ま、部屋は隣だから、今でもたまにそ(・)う(・)い(・)う(・)声や音が漏れ聞こえてくるんだけどね。

でもまぁ、将来お店の跡継ぎになる弟妹はいて欲しいので我慢してます。私はお店の経営よりも、気ままに物作りしてたいからねー。というわけで、早く赤ちゃんプリーズ! 毒舌イケメン残念神様、よろしく!


っと、ずいぶん考えが横道にそれてしまったけど、父さんに限って、女性関係の悩み事なんてあるはずない。これは絶対だ。だって、あの父さんが母さんにそんな隠し事なんてできるわけないもん。もし母さんに対して後ろめたい秘密を抱えてたとしたら、逆に見直すくらいのレベルで母さんに弱いんだから。


けど、お店関係のことなら母さんに相談するはずだしなー。でなければ話せない事情がある……って、

あっ、そうか。父さんの秘密でなく他人の重大事ってことか。父さんだって商売人だから、情報や秘密を軽々しく人に話したりはしないもんね。自分の隠し事はヘタクソで家族にはすこぶる弱いくせに、他人の秘密なんかは頑として漏らさないんだよね。ま、そうじゃなきゃ信用問題にもなって商売なんてできなくなっちゃうし。

それでも今回は明らかに動揺しまくっていて、それを隠してもいないから「絶対話せない」って感じでもないように思う。だったら話してしまった方が楽になるんじゃないかなぁ。ま、私は単に興味があるだけだけど。


となると、怪しいのはやっぱりクリスお姉さん達絡みか。父さんはあの二人がいた場所を見つめたまま固まってたもんね。

普通に聞いても簡単に話してくれそうにはないし、動揺を誘うためにここはド直球で確信を突いてみるかな。一応、周囲の人に聞かれないよう、父さんに屈んでもらって小声で尋ねる。


「父さん、クリスティーナお姉さんは貴族様だよね?」


「ブフっ! な、なんでタマラがそれを!?」


予想以上の反応をありがとう。でも、吹き出さないでよ汚い。


「やっぱりそうなんだー。一緒にいたレオンお兄さんは従者とか騎士様かな?」


「……」


「貴族様じゃなさそうだったけど」


「……」


黙秘ですか。それなら、ちょっとずつ声を大きくしてみよう。人には聞かれたくないんだろうし。


「お忍びで来てたのかな?」


「タマラ、デザートでも買いに行こうか?」


話題そらしが露骨過ぎるよ。そんなんじゃ事情聴取は終わりません! デザートは後で買ってもらうけども!


「貴族様も二人きりでデートとかするんだねー」


「こっちのシチューも美味いぞ! 食べてみるか?」


ぬぅ。まだ黙秘するつもりか。なら、もう少し大きな声にしちゃうぞ。


「貴族のお嬢様と従者の恋なんて、物語みたいでロマンチックだね!」


「ちょ! ちょっと待て、タマラ!」


お! さすがに口を割る気になったかな。


「ん? なぁに?」


「いや、その……」


往生際が悪いなぁもう。


「クリスお姉さんって、どこの貴「わかった! 分かったから。話すから!」


よっし! 言質はとったぞ。相変わらずチョロイ父さんです。


「じゃあ、デザート買って食べながらお話しよ!」


小首を傾げてにっこり笑って言うと、父さんは苦い笑いを向けてきた。そして諦めたように一つ溜め息をつくと、残っていたシチューをかきこんだ。



---------------


「あっははっ! 恐(おっそ)ろしい幼女だなー、おい」


タマちゃんに繋いだテレビの画面を見ながら、爆笑するアッシュ。あの父親には多少同情してしまいますが、父親を掌で転がすとは、さすがタマちゃんですね。自らの武器(子どもの無邪気さ)をしっかり活かしつつ、相手の弱点(子どもに弱い父)を容赦なく突く。そんなところもシャルを思い起こさせる一端ですね。


「まぁ、彼女の中身は35歳のおばさん……いえ、女性ですからね。世界が違うとはいえ人生経験は父親よりも上でしょう」


「3千歳をゆうに超えるお前に、おばさん呼ばわりされたくはないだろう」


「言い直したじゃないですか」


「言いつけるぞ」


「できるものならご自由に?」


「シャルが復活してから」


「そ、れは卑怯ですよ!」


「本人(タマちゃん)に聞こえないのを良いことに、好き勝手覗いて悪口言ってるヤツが卑怯とはねぇ」


「っっ! ……別に悪口じゃありませんよ。親愛の情です。それに、覗いてるだなんて人聞きの悪い。これは必要な監視なんですから」


「ふーん? ま、そういう事にしといてやるよ」


全く、この男はさっきからニヤニヤと楽しげに……。


「それで、例のアイツとは出会いそうか?」


「それが、街までは来てるんですがね。今のところどうなることやら……。祭りだというのに、未だ2人とも教会に来ませんし。これでは口の出しようもありませんよ」


「あー、そういやタマちゃんはまだ5歳だもんな。一般的には学園に入学してから洗礼を受けるんだったか?」


「ええ。別に洗礼を受けずとも、祭りでなくとも、親がお祈りに向かう時に付いて来ればいいものを。タマちゃんはまだ一度も現れないんですよ!」


「……避けられてんじゃねーの?」


「そんなわけないでしょう。タマちゃんには何も話してませんし」


「けど、タマちゃんの中じゃあ神様=オマエだろ? オマエに祈りを奉げるのが嫌なんじゃねぇの?」


「そんな馬鹿な!」


「いや、ヴァンよ。あん時別れ際に、バカとか嫌いだとか言われてたろ」


「うっ……。そっち(タマちゃん)がその気なら、妹や弟など絶対授けてやりません!」


「いや、それオマエ(智神)の管轄じゃねぇから」


「ふふ。管轄外だろうとも、イロイロとやり方はありますよ」


「アホか。シャルが復活する前に邪神化すんぞ」


「その辺はわきまえてますよ。あーもう、この前から邪神化とかなんとかうるさいです」


うんざりした気持ちを隠しもせずに言うと、呆れたような、諦めたような返事が返ってくる。


「へいへい。ま、進展があったら教えてくれや」


「わかってますよ」


適当にあしらってアッシュを追い出すと、とたんに静かになった空間に、タマちゃんの驚く声が響いた。

お読みいただきありがとうございます。

あれ、事情聴取始まってない!?(汗)


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