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サムライ異世界に往く ~死に場所を求める最強の剣神、うっかり規格外の無自覚無双をしてしまう~  作者: 戯言の遊び
④星降奇跡 編

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第36話 耐熱の外套と、星降る頂 

「ほれ、これを持っていきな」


 バルバスの工房に戻った千代女たちの前に、分厚い布の塊がドサリと投げ出された。

 それは、火竜の皮をなめして作られた特製の『耐熱外套(マント)』と、火山ガスを防ぐための厚手の覆面だった。


「おお、これはありがたい。……ん? 親父殿、お主も着替えてどこかへ行くのか?」


 千代女が首を傾げた。

 目の前のバルバスは、自分用の耐熱マントをすっぽりと被り、背中には巨大なハンマーではなく、特殊な鉱石を砕くための分厚い『ツルハシ』を背負っていたのだ。


「決まってんだろうが。俺も一緒に行くんだよ」

「親父が!?」


 リオンが驚いて声を上げる。


「当たり前だ! 『星の鉄』は、ただ石を割って持ってくるような簡単なモンじゃねェ。どこの部位が刀の修復に一番適しているか、ドワーフの大鍛冶師であるこの俺が直接見極めねェと意味がねェんだよ!」


 バルバスは鼻息を荒くして言い放った。

 職人としての意地と、伝説の素材を自分の手で採掘したいという執念だ。


「ガッハッハ! 良いぞ、親父殿! ならば案内と石拾いはお主に任せた! 某は心置きなく、あのデカい竜と斬り合えるというわけじゃ!」


 千代女は大笑いし、マントを羽織った。

 こうして、千代女、ソフィア、リオン、そしてバルバスの四人は、マグメリアの街を背に、噴煙を上げる活火山へと足を踏み入れた。

     

 火山の道中は、バルバスの警告通り、過酷を極めた。

 足元は靴底が溶けそうなほど熱く、時折、地面の裂け目からシューッと高温の有毒ガスが噴き出してくる。


「あつぃぃ……。もうダメです……私、ここで干からびます……」


 ソフィアは涙目で杖にすがりつき、自身の風魔法で冷気を口元に集めながら、なんとか歩みを進めていた。

 リオンも滝のような汗を流し、無言で急斜面を登っている。


 バルバスはドワーフ特有の熱への耐性で平然としているが、重いツルハシを背負っているため息が荒い。

 そんな中、千代女だけは、まるで近所の山を散歩するように軽快な足取りだった。

 無駄な力みが一切ないため、体力の消耗が極端に少ないのだ。


「ほれ、ソフィア、リオン。足元がおぼつかんぞ。強敵を前にしてバテてどうする」

「姐さんの……体力が……おかしいだけだ……ぜ……」


 リオンが息も絶え絶えにツッコミを入れたその時。


「……着いたぞ。ここが、火山の頂上。マグメリアの大火口だ」


 先頭を歩いていたバルバスが、足を止めた。

 巨大なすり鉢状になった火口。

 その底には、ドロドロと煮えたぎる赤い溶岩の海が広がっている。

 そして、その溶岩の海の中央。

 黒く固まった小島のような場所に――『それ』はあった。


 周囲の熱気とは明らかに違う、青白く冷たい光を放つ巨大な岩の塊。

 それが、天から降ってきたという『星の鉄』だ。

 だが、千代女の視線は、石ではなく、その上に乗っている巨大な影に釘付けになっていた。


「おおおおおっ……!!」

 千代女の口から、歓喜の震え声が漏れる。


 隕石の上に、とぐろを巻くようにして眠っていたのは、バルバスが描いた絵よりも遥かに巨大で、凶悪な姿をした魔物だった。

 全長は十メートルを軽く超える。

 鋼よりも硬そうな漆黒の鱗が、まるで夜空の星のようにキラキラと輝いている。


 背中には巨大なコウモリのような翼が折りたたまれ、太い鼻息が漏れるたびに、周囲の空気がビリビリと震えた。

 Aランク指定の凶悪魔物。

 星喰いの竜(メテオ・ドラゴン)


「おい……冗談だろ。あんなデカいバケモノ、人間の武器が通じるのか……?」


 東の大陸で数々の猛者を見てきたリオンでさえ、その圧倒的な質量と威圧感を前に、思わず足を一歩後退らせた。

 ソフィアに至っては、恐怖で声も出ず、バルバスの背中にしがみついている。


「……バルバス殿」


 千代女が、静かに口を開いた。

 先ほどまでの上機嫌な態度は消え失せ、極限まで研ぎ澄まされた冷たい殺気を放っている。


「良い石じゃ。あれならば、某の『無銘』も喜んでくれよう」


 チャキッ、と。

 千代女が、刃こぼれした愛刀をゆっくりと鞘から抜いた。


「某があのデカブツを惹きつける。お主らはその隙に、あの光る石をかち割ってこい」


 その抜刀の澄んだ音に反応したのか。

 ズズン……と、隕石の上で眠っていた巨大な竜が、ゆっくりとその凶悪な頭を持ち上げた。

 金色に輝く、爬虫類特有の縦長の瞳孔。

 それが、侵入者である千代女たちを真っ直ぐに見据える。


「さあ……踊ろうか、デカブツ」


 煮えたぎる溶岩の海を前に。

 最強の剣士と、星の鱗を持つ巨竜の、文字通り命を削り合う死闘の幕が切って落とされた。

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