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サムライ異世界に往く ~死に場所を求める最強の剣神、うっかり規格外の無自覚無双をしてしまう~  作者: 戯言の遊び
③緑の獣と王の脅威 編

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第20話 アクアリアギルドでの騒動と、真面目な弟

 眩しい太陽の光を反射する、白亜の石畳がどこまでも敷き詰められた、活気あふれる巨大港町アクアリア。

 千代女(ちよめ)とソフィアの二人は、海風の香る大通りの中心に堂々と建つ、一際大きくて重厚な造りの建物――冒険者ギルドのアクアリア支部へとやってきた。


 石造りの圧倒的な外観と、ひっきりなしに出入りする多種多様な冒険者たちの熱気にソフィアが圧倒され、立ち止まっていると。

 ギルドの入り口付近の壁に寄りかかってたむろしていた、酒臭くガラの悪い数人の男たちが、ニヤニヤとひどくいやらしい笑みを浮かべて近づいてきた。


「おいおい、見ねぇ顔だな。しかも、その尖った耳……ハーフエルフじゃねぇか」

「ひっ……」


 先頭に立つ、顔に醜い傷を持つ巨漢の冒険者が、ソフィアが深く被っていたフードを強引にめくり上げた。

 ハーフエルフは人間からもエルフからも「不浄の血」として疎まれる存在だが、その神秘的で整った容姿から、裏社会の奴隷市場などでは愛玩用として高値で取引されることもある。

 巨漢の男は下品に舌舐めずりをし、恐怖にすくみ上がるソフィアの細い腕を力任せに掴もうと、汚れた手を伸ばした。


「こんなデカい港町に、珍しいオモチャがいるじゃねぇか。おい、逃げるなよ。俺たちがたっぷりと、この街の『歓迎』をしてやるよ」

「や、やめて……っ!」


 ソフィアが恐怖に顔を引きつらせ、新しい杖を抱きしめて後ずさった、まさにその時だった。


「ほう」


 千代女が、心の底から嬉しそうな、弾むような声で二人の間にスッと割り込んだ。


「名乗りもせずに初対面で、いきなり立ち合いの申し込みとはな! なるほど、この街の歓迎というのは、死合の事であったか! 気にいったぞ!」


 ――ズガァァァァァンッ!!


 男が「は?」と間抜けな声を漏らした瞬間。

 千代女は目にも留まらぬ神速でスッと腰を落とし、抜刀すらもせず、愛刀『無銘』の鞘の尻――いわゆる『鞘当て』を、巨漢の分厚い皮鎧ごと鳩尾(みぞおち)へと無慈悲に叩き込んだ。


「グッ、ブェェェェェェッ!?」


 武器を抜く、あるいは防御するどころの話ではない。

 まともに大砲のような衝撃を食らった巨漢の男は、一瞬で白目を剥き、まるで重力の向きが横に変わったかのように宙を一直線に吹き飛び――ギルドの分厚い両開き扉を木端微塵にぶち破って、建物の中央へと派手に転がっていったのだ。


 メシャァァァンッ!!


 木片が飛び散る轟音。

 先ほどまで、大勢の都会の冒険者たちでやかましいほどの喧騒に包まれていたギルド内が、扉を粉々に突き破って白目を剥き、口から泡を吹いて転がってきた男を見て、一瞬にして水を打ったように静まり返った。


 何百人という冒険者たち全員の視線が、ポッカリと空いた壊れた扉の向こう――逆光の中、入り口に立つ見慣れぬ異国の女へと一斉に向けられる。


「たのもう!!」


 千代女は、周囲の完全に凍りついた空気や、自分に向けられた無数の驚愕の視線など一切気にすることなく、木片を踏み越えて堂々とギルドの中へと足を踏み入れた。


「ファルサの長から、このギルドの長宛てに手紙を預かってきたぞ!」


 そのあまりにも堂々としすぎた、まるで城に乗り込む大将のような道場破りの態度に、居合わせた都会の腕利き冒険者たちは毒気を抜かれ、誰一人として声を出すことができなかった。

 すると、その尋常ではない騒ぎと扉の破壊音を聞きつけたのか、ギルドの二階の奥から一人の男性が足早に姿を現した。


 パリッとした上質な仕立ての服を隙なく着こなし、神経質そうに銀縁の眼鏡をかけたその男は。

 床で気絶している巨漢と、真っ二つになった入り口の扉、そして、千代女がこれ見よがしに掲げている、蜜蝋の封がされた見覚えのある封筒を交互に見て、頭痛を堪えるような深大で重い、重いため息をついた。


「ファルサのギルド長からですか……ふむ、またあの馬鹿兄貴は……とんでもなく癖のある人を寄越して……」


 男はズキズキと痛むこめかみを指で揉みほぐしながら、階段を降りて千代女の真正面へと歩み出た。


「申し遅れました。私、このアクアリア支部でギルド長を務めております、ガイルスと申します。ファルサのギルド長、グレンの弟です。……宜しくお願いしますね、千代女さん」

「ほう! あのギルド長の弟であったか!」


 千代女は、ピシッとしたガイルスの顔をまじまじと至近距離で見つめ、腕を組んでうんうんと納得したように頷いた。


「あんまり似ておらんの~。兄君(あにぎみ)は、酒臭くやる気の無さが全面に出ておったが、お主はずいぶんと真面目そうな、お堅い顔をしておる」

「ち、千代女さんっ! 初対面のギルド長になんて失礼なことを……!」


 背後から慌てて追いかけてきたソフィアが、真っ青な顔で千代女の袖を力いっぱい引っ張る。しかし、ガイルスは苦笑いを浮かべてヒラヒラと手を振った。


「いえいえ、よく言われます。あんなだらしない昼行灯(ひるあんどん)と一緒にされては、真面目に仕事をしている私としても困りますからね。それで、千代女さん。兄からの紹介状には、あなたが『一人で飛竜を両断する規格外のバケモノ』だと書かれていますが……本日はどのようなご用件で?」


 ガイルスが眼鏡を押し上げながら問いかけると、千代女は待ってましたとばかりにパァッと顔を花のように輝かせた。

 そして、極上の獲物を見つけた猛禽類のような、美しくも鋭い笑みを浮かべ、腰の刀の柄にウキウキと手をかける。


「それでだ、真面目なギルド長よ! この巨大な街の周辺には、某を満足させる強い『強者(もののふ)』がウヨウヨいると聞いて来たぞ。さっそくだが、手合いを申し出る!! 誰から斬ればよい!?」

「だーかーらー、千代女さん、到着早々に騒ぎを起こさないでって言ったじゃないですかぁ……!」


 必死に止めようと背中からしがみつくソフィアの涙声は、戦闘狂の耳にはまったく届いていないらしく、潮騒の音の中へと虚しくフェードアウトしていく。


 新たな街でも初日からフルスロットル、周囲を完全に置き去りにする最強侍を前に。

 真面目な弟ギルド長・ガイルスは、兄とまったく同じように、深く深く頭を抱え、胃薬の必要性を痛感するのだった。

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