そして
スマートフォンの目覚ましアプリが、私の目を覚まさせました。毎日同じ時間に設定してあったため、今日は寝坊せずに済みました。化粧は何とか昨日のうちに落とせましたが、お風呂に入る気力も体力もなく、そのまま寝てしまっていました。通勤電車の走る音、車の音がどこからともなく聞こえてきます。
メールの着信はありませんでした。私の方からおはようと送ることもありますが、たいていは、彼のほうからメールをくれます。充電が残り少なくなっていました。出発するまでに100%まで充電するのは無理だけれど、できる限り充電ができればと思いました。
私は、ベッドから起き上がりました。お風呂に入っている時間はなさそうなので、シャワーで済ませることにしました。その後、朝食を食べ、身支度を整えて、仕事に向かいました。
「どうしたの?顔が死んでいるわよ?何かあったの?」
更衣室で同僚が声をかけてきました。いつもの私とは違うと気が付いてくれたようです。
「そう?いつも通りだけれど」
私は、同僚に心配をかけたくはないと思い、普通の態度を装いました。
「ふーん、怪しい」
同僚は目を細めて私の顔を見ます。私は目を反らしました。
「何かあったでしょ」
「な、何もないわよ」
「私を騙せるとでも思ってるのー?」
「だから何もないって」
「彼氏のことでしょ」
「・・・・・」
「ほら、当たりー!」
同僚は、私の鼻を人差し指で付きました。私は観念しました。そして考えを変え、このもやもやとした気持ちを少しでも解消できればと思い、昨日のことを話すことにしました。
・・・・・・・
「なによ!それ。あなたの彼氏、優しそうだけどいつもはっきりしてないから、前からちょっと心配だったのよ。女の気持ち少しもわかってない。男として情けなさすぎる!」
同僚は、とてもはっきりと言いました。
「それで、別れたの?」
「い、いや」
「なんでよ」
「なんでって・・」
「そんな、男として情けない人なんて、この先も同じよ。きっと後悔するわ。私、そんなはっきりしない人嫌い。いらいらするもの。私なら一度呼び出して、おもいっきりビンタしてから振ってやるわ」
「そんなことない」
「・・・えっ?」
「そんな人じゃないのよ!!」
「・・・・あっ、ごめん。ちょっと言い過ぎた・・かな」
「・・あっ、いや・・ごめん。そんなことじゃなくて、・・ちょ・・ちょっとお手洗いに行ってくる」
そう言って私は着替えをすぐに終え、更衣室を出て、化粧室に向かいました。同僚は、私の気持ちをはっきりと言葉で代弁してくれました。そう思いました。
目の周りの化粧が少し崩れていました。なんで、涙が出てくるの?同僚が言ったこと、その通りじゃないの?そうよ。ちょっと、あまりにもはっきりとした言葉だったから、驚いただけよ。私は、目の周りの化粧を直し、鏡の前で笑顔を作りました。
「ごめん。私ちょっと言い過ぎたかもしれない」
同僚は戻ってきた私に、申し訳なさそうに言ってきました。
「ううん。ありがとう。すっきりした。私、彼を呼び出しておもいっきり振ってやろうと思うの」
私は笑顔を作りました。
「そう。分かった。また教えてね」
「うん。ありがとう」
私は、今日の仕事を精一杯の笑顔で努めました。
次回、第一部最終回




