閑話
ダは、次の民家に、日が暮れるまでにつくため、馬を急がせていた。
テグウ村を出た後、ガリオン村で一泊し、一晩野宿でしのいだ後、目的の一軒家に、ようやくたどり着いた。
以前、夫婦とその妻の弟が牛を飼い小さな畑をやって生活していたはずだが、残念なことに空き家になっていた。
家の裏に回り込んで、あるはずの回復の泉を確認する。
「ああ、やはり」
数か月前にテグウ神官が回復したばかりの泉は、壊されていた。イノシシの仕業だ。
ときに、魔物ばかりでなく、普通のイノシシやシカなども、田畑を荒らす脅威となる。
「ついてなかったな」
夫婦にとっての大金を払い、維持に努めた泉を壊され、この地を離れることを余儀なくされたのだろう。
ダにとっては、来た道を戻っているわけで、地理に疎いわけではない。
仮に数時間、余計にかかっても、村から村へ渡り旅をしたほうが、結果的には速いのだ。
野宿しようと思えば、身の安全を守るために場所を探したり馬を隠したり、食事の支度をしたりと、そちらのほうが、時間がかかってしまう。夜も、二人いれば交代で警戒もできるが、一人では馬を休ませるのがせいぜいで、自分が眠ることなどとてもできない。
今回は空き家になった民家で休ませてもらうことにした。馬も一緒に家の中へ入れる。朝起きたら馬がゴブリンに食われていました……などということにならない為の用心だ。
これから先、民家はしばらくない。二日は寝れないだろう。今日はしっかり寝ておこう。
カリカリカリ……「ぎゃ?」
外にゴブリンがいる。ついこの間まで泉の加護が効いていたはずなのに、なくなったとたんにこれだ。しかし、数が多くなければこの家ならばもつはずだ。
眠らなければ……。
「ぎゃ」「ぎゃ?」
もし、テグウ神官がここにいたら
「しょうがないですねえ」
と言いながら、泉を修復に行っただろう。そして、ルやダがゴブリンを切り伏せている間に、少量であってもきちんと自分の役目を果たし、狭いながらも安全な土地を確保するのだ。
もし、コピペ神官だったら。
ダは考えて、寝返りをうった。
そう、コピペ神官だったら、けた違いに大量の水を作り出してしまうのだろう。
それは、何年にも渡って大勢の人々の生活を支え、命を守るだろう。村と村、町と町を結び、人々の交流を活性化させる。
嗜好品・娯楽用品までが人々にいきわたるのにさほどの時間もかかるまい。その生活は劇的に変わるのだ。
ブルっと震えが走った。
「……ははっ」
むっくりと身を起こした。
ヤバいな、年甲斐もなくワクワクしてきたじゃないか。
剣に手をのばす。
ちょっくら暴れて、すっきりしてこようじゃあないか。




