第5話
「シーフードパスタをお願いしますわ」
「かしこまりました!」
京香はヒュウガ国にある港町で夕食を食べていた。
「景色のいい町で気に入ったぜ」
「宿屋に必ず空き部屋が1つあるのはゲームの仕様でしょうか。おかげで部屋を取るのが楽ですね」
夜景を見ながらパスタを食べていると別の客の会話が聞こえてきた。
「聞いたか? 町長の張角がやった犯罪を通報したやつが自殺したってよ」
「知ってるわ。なんでも通報した人のほうが悪いことをしてたんでしょ?」
「……今の話はクエストですかね?」
「今日はもう遅いですから明日にでも調べてみましょうか」
部屋を取っている宿屋の前で見知らぬ女性が京香に話しかけてきた。
「突然すいません……。あなたは他所から来られた方ですよね?」
「そうですけど? なにかご用かしら?」
女性は紙を取り出した。
「困っていることがあるので相談に乗ってほしいんです。ここに私の住所があるのでお待ちしています……」
女性は帰っていった。
「クエストが向こうから飛び込んできて楽だな」
「そうですわね。場所の指定がされていてわかりやすいから明日の早朝に行ってみましょうか」
次の日の依頼人宅前。
「質素なお家ね。でもここから見える海辺の景色がとてもいいわ」
「てっきり景色のいいところに犬小屋を建てた愛犬家とか言うと思ったが成長したな」
「前世の死に方がアレだったんで反省したんじゃないですか?」
呼び鈴を鳴らすと出てきた女性。
「あ、来てくれたんですね! どうぞ中に入ってください!」
応接間に通された京香。
「実は役人をやっていた夫が自殺したんです……」
「まあ、お気の毒ですわ……。なぜ自ら命を?」
女性が首を振った。
「町長の不正を通報した夫が逆に汚職の疑惑をかけられたんです。そして夫が死んだことで町長の不正はうやむやにされてしまいました。私は暗殺されたと疑っているんですが夫が死んだ理由と町長の不正を調査していただけませんか?」
「……なぜ他所から来た私に依頼を?」
女性が怯えながら窓から周囲を見渡した。
「……この町の人たちは町長の味方で私も危険なんです。だからあなたしか頼れなくて……」
「……いいでしょう。やれるだけのことはやってみますわ。とりあえず役場の場所を教えてくださる?」
依頼人の家を出た京香。
「奥さんへの仕打ちがかわいそうですね……」
「危険なら町を離れたほうがいいかもな」
「まずは職場の同僚たちに話を聞いてみますわよ」
役場に到着すると亡くなった役人の同僚たちに質問した。
「あなたたちが町長の命令で同僚を殺したのかしら?」
「とんでもない! 私たちも明日はわが身なんですよ! みんな怖がって町長に近づけないんですから!」
役人たちも怯えていたが中には怒っている人もいた。
「なんで犯罪の通報をしたあいつが死ななきゃいけないんだ……!」
「そういえば町長の犯罪ってなにをやらかしたのか教えてくださる?」
「亡くなった彼は町長が死者をゾンビにしているネクロマンサーだと言っていました」
調査のために町の外にある墓地に来た京香。
「最近はモンスターが凶暴化して危険だから墓参りに来る人はいないらしいぞ」
「……見てください! ゾンビが徘徊しています!」
「証拠がないか調べつつ倒しますわよ!」
1号と2号は覚えたばかりの火球をゾンビに撃った。
「う、あ……」
「よく効いてるみたいだな」
「変な病気をうつされたら大変ですから京香さんは気をつけてください!」
京香はゾンビとの距離を保ちつつキックで対応する。
「うがっ……」
「あー……」
順調にゾンビを倒していったが町長の犯行の証拠が見つからない。
「結局ここにいたゾンビが町長の仕業だと言えるようなものはなかったですわね」
「一旦戻りますか? 今の戦闘でレベルが上がったかもしれませんからついでに教会に行くのもいいですね」
「この後になにがあるかわからないしな」
教会の女神像に祈りを捧げる京香。
「前から思っていたのだけど美しさのステータスはないのかしら?」
「そんなものがあったらお前はそこにしか振らないだろ……」
京香の体を光が包んで女神の声が聞こえてきた。
『あなたのレベルが3つ上がりました。6ポイントを上昇させたい能力に振り分けてください』
「3つですって!?」
「さっきのゾンビにそんな大量の経験値があったのか」
「経験値の多い特別なゾンビでもいたんじゃないですか?」
自分が魔王を倒していた自覚がない京香は驚いていた。
「どう振り分けましょうか……」
悩んだ末に上昇させる能力を決めた。
レベル 5↑
腕力 6↑
体力 6↑
技 5↑
知力 4
素早さ 5↑
幸運 4
レベルアップが終わって京香を包んでいた光が消えた。
「プロレスラーっぽい能力を上げていくのか?」
「本来の私の能力に寄せるから見ていなさい」
調査を再開させた京香は役場に戻ってみた。
「ところで町長はどちらにいるのかしら?」
「それが少し前に行方不明になっていまして……」
役場に人が慌てて飛び込んできた。
「大変だ! 町長が戻ってきた! しかも数え切れないほどのゾンビを連れているぞ!」
役場を出ると町長がゾンビを操って町の人を襲っていた。
「きゃーっ!」
「た、助けてくれ! うわーっ!」
「ふははは! いいぞ! この無限の力で私が世界を支配するのだ!」
「そ、そんな……」
「動揺している場合じゃありませんわよ! 町の人たちを助けないと!」
京香は新たに覚えたショルダータックルでゾンビを攻撃した。
「がっ……」
そして転倒したゾンビにヒップドロップで追撃した。
「う、ぐ……」
「少しずつ技を思い出してきましたわ」
1号と2号も火球の魔法でゾンビに攻撃する。しかしこの間にも町の人たちが倒されていく。役人たちも戦っているが戦力になっていない。
「全然数が減っていないような……」
「倒されたやつらが次から次へとゾンビになってるぞ!」
奮闘する3人を嘲笑う町長。
「フッフッフ。お主たちが倒した数より増えておるぞ?」
「くっ……。このままでは全滅ですわ!」
しかしここで町長が語りだした。
「それにしても自殺したやつもあの世で喜んでおるだろうな」
「なんですって!? 彼が自殺した理由を知っているの!?」
町長が町の人たちを指さして言った。
「復讐だ! やつを殺したのは私を選んだこの町のやつらだ! 私は民意なのだよ!」
すでに町の人たちの半数がゾンビになっていた。
「これは……。撤退も視野に入れたほうがいいかしら?」
「苦戦しているようね……」
耳元で声が聞こえて振り返ると以前に会った幽霊の女性が立っていた。
「ああ、あなたは確か貂蝉さん!? 成仏ししたんじゃ!?」
1号と2号は恐怖で気絶していた。
「観光してから逝こうと思って……。あなたへのお礼がまだだったわね……。ここは任せて……」
「お礼って……。この状況であなたになにができますの?」
「フフフ。1人でなにをブツブツ言っておるのだ? 恐怖で混乱したか?」
幽霊の女性が町長には見えていないようだった。そして女性が魔法を唱えた。
「あ、あ……」
「うが……」
ゾンビたちが次々に倒れていく。
「なんだと!? そんなバカな!?」
「さようなら……」
女性は消えて町長は町の人や役人たちに取り囲まれた。
「お前のせいで町のみんなが……」
「よくも私たちの同僚を!」
「ま、待て! 私は悪くない! 私を選んだのはお前たちだぞ!」
必死に言い訳をする町長に誰も言い返せない。
「……」
「そうだ! 私は無実だ! あはは、うわっ!」
役人の1人が町長にかみついた。
「あなたなにを!?」
「待って! その人は自殺した同僚です!」
町長の傷は深くもう助からない。そして復讐を果たしたゾンビは動かなくなった。
「結局この町を離れてしまいますの?」
「オオスミ国の実家に帰ろうと思います。これはお礼です。ありがとうございました……」
依頼人が報酬を渡してヒュウガ国を去っていく。
「もっと僕たちが強かったら結果が変わっていたんでしょうか?」
「幽霊の姉ちゃんが助けてくれなかったらヤバかったな。他のクエストが影響することもあるってことか?」
「ブンゴ国を出るのが早すぎましたわね……。戻って学校とクエストをやっておいたほうがよさそうですわ」
京香は住人の半数が犠牲になった港町からブンゴ国に帰ることにした。




