Ⅶ:公爵家の方は調停者と言うらしい
「私は調停者と言う」
公爵家の方がそんなことを言い出した。耳慣れない言葉だろう、と説明も始めた。
曰く。
公爵家の方、名をネイティアン様という。ネイティアン様が仰るにはスキルそのものが調停者というのだとか。公平で中立であることが常であり、争いを和解させる能力を持つという。
「但し、このスキルは他者に和解能力を授けることで初めて発揮される。他にも条件があるが、私自身が調停のスキルを使えることは無い。そして、スキルが公平や和解であるからなのか、付属としてスキルを使っている者を判別出来る。調停中にスキルを使用して己に有利な状況を作り出さないために、だな」
ネイティアン様の説明で、私が千里眼のスキルを使用していたことを見抜いた理由は理解出来た。
「もう一つの付属として嘘と偽りを暴ける」
なるほど。だから私の千里眼のスキルに対して真偽が見極められる、ということなのか。
「そして、調停者というスキルの特性ゆえに、特殊なスキル持ちを保護する役目も背負っている。私のスキルについては、国王しか知らん。スキルに付随するものも、な。それと、特殊なスキル持ちのみ。こうして保護をして欲しいか、されたくないか、と問う時に話す。お前はどうする、千里眼持ち」
保護というのは、特殊なスキル持ちゆえに、扱い方が酷いものに対して行われる措置だという。
例えば飲食を与えない。
例えば朝から晩まで働きっぱなしで休み無し。
例えば教育をされない。
例えば甘やかされっぱなしで愛玩動物のように可愛がられるだけ。
例えば家族や友人、婚約者など身近な者たちからの愛情を与えられない。
例えば見かけは丁重な扱いだが中身は酷い。
など。
そういった環境は全て扱い方が酷いもの、らしい。
「私も、扱いが酷い、と?」
「十分酷いな。部屋が質素を通り越して殺風景。勉強するより休みたい。そんなことをお前は言った。感情も込めずに。そういう者は得てして待遇が悪いもの」
静かに指摘を受けて、そうなのか、と他人事のように思う。自分のことだとは思えない。
「生まれた時に千里眼のスキル持ちだと判定されて、此処に預けられて以降、神官長に世話をされ会話をするだけなので、それが私の常だったので、待遇が良いも悪いも分かりません」
「神官長以外に会ったことが無いのか?」
ネイティアン様が怒っているような不思議なような分からない顔をしている。機嫌が悪いとも言えるような。後に怪訝そうな表情だ、と知ったが。
そのネイティアン様に、神官長以外の人とこうして話すのは初めてだ、と告げた。
「他にも神官がいるだろう」
「いますね。千里眼のスキルで確認はしてます。この場には神官長一人。神官が二十一人が居ます。そして私が。通いの商人が三日に一度訪れるみたいですね」
見たことを口にすると、ネイティアン様は、その誰とも話したことが無いのか、と問われる。
「ドア越しに話したことも顔を見たことも無い」
「それは、扱いが酷いと言うのだ」
「そう、なのですか」
「それで、どうする。ここから出たいか。出たいなら出られる。この国は王国だからな。神官長より国王の方が偉い。だから国王の命で出られる」
目を何度も瞬かせた。
国王の命ならここを出られる。
出て……どこに行けばいい?
「出てもどこに行けばいいのか、何をすればいいのか分かりません。金も無いし、稼ぐことも知らない。パンの買い方も見ることは出来てもやったことがない」
ネイティアン様に、出来ないことばかりです、と言えば彼は覚えればいい、と言う。
「教える者を付ける。教えてもらえばいい。行く宛は当分分からないだろうから私が場所を用意する」
「それも調停者としての役割?」
「そうだな。お前はやりたいことは無いのか」
やりたいこと。
マナーや勉強をしたい、ともっと前は思ってたけど今はもう、要らない。
「死に場所を選びたい」
「死に場所?」
「せめて此処以外のどこかで死にたい、とずっと思ってました。死にたくて此処で出される食事を食べない日が何日かありましたが、神官長に無理やり口に突っ込まれたので」
ずっと神官長の監視の下で生きて死ぬのは、嫌だと思っていた。千里眼のスキルで無ければ、こんな生活も仕方ない、と諦められたかもしれない。だが、千里眼のスキルで外の世界を見てしまっていたから。
「死に場所くらい、選びたい」
「分かった」
私の願いを、あっさりと受け入れてくれたネイティアン様。少し待ってろ、と言って部屋から出て行ったと思ったらあっという間に戻って来て
「出るぞ」
と言って部屋から出された。
えっ、と思う間もなく、本当に部屋から出た。
鍵がドアに掛かってないのが信じられない。
部屋どころか外にさえ出られていることが信じられない。
太陽の光というものを感じ、風を感じ、どこからか人の笑い声が自分の耳に聞こえることが
信じられなかった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




