Ⅵ:スキルの真偽
「構いませんが、どうやって真偽を鑑定するおつもりですか」
私の質問に相手はニヤリ笑う。何か宛がある。だがそれを私に教える気はない、といったところか。
「それを君に教える気はない。だがそうだな。別のことを教えてやろう。私は公爵家の人間だ」
公爵家。千里眼で見えた事柄から察するに王族に次いで高い爵位の家だったか。
「私の予測が間違っていなければ公爵という爵位は、王家に次ぐ地位でしたっけ」
私の質問に公爵家の方は怪訝な顔を見せる。
「そうだが、知らんのか」
「そうですね。千里眼のスキルで見て来た事柄を合わせて予想を立てた、というところですか」
尤も興味が無いと言えばそれまでだが。
「学ぶだろう」
「誰から何を?」
私は不思議に思って尋ね返す。爵位の順でも習うのだろうか。いつ、誰から?
公爵家の方は言葉が出てこないのか、口を開閉してから、一転して厳しい顔つきで口をグッと引き結ぶ。
「我が国の公爵家がどういった存在か聞いたことはないのか」
「神官長からは特に。神官長が気になるのは、私が見えた事柄についてですから。私の知る公爵家というのは、王族が臣下として爵位をもらって生まれた家か、侯爵家が昇進して公爵家を賜ったか、という形ですがどちらの形ですか」
何も知らないことを今更恥ずかしく思っても仕方ない。だからどうせなら、と千里眼のスキルで知り得た情報を持って、この国の公爵家の成り立ちを尋ねてみれば。
その方は細めた目をさらに細めてから、息を吐き出した。
「我が国の公爵位を賜った家は全て王家から分かたれた家だ。臣籍降下した方だな」
「そうなのですか。臣下として爵位をもらうことを臣籍降下って言うんですね」
公爵家の方に教えてもらったことに頷いて、序でに耳にした臣籍降下という言葉を繰り返す。千里眼のスキルではそんな言葉を口にした人を見たことがなかったのだから仕方ない。でも一つ語彙が増えた、と嬉しくて臣籍降下という言葉を小さくもう一度繰り返す。
「お前」
公爵家の方がそんな私を見て首を傾げた。
「はい」
「マナーも出来ておらず、言葉も知らないな。だが最低限のことは分かっている。知らない様子だと思っていると知っている様子でもある。なんなんだ、その一貫しない姿は」
「一貫しない。ええと、基本的に何も教えてもらっていません。ただ、千里眼のスキルで見たとき、貴族の人は自分のことを私と言うらしいので、私と言っています。平民は俺とか僕とか自分とか言うみたいですけど、一応貴族出身だから私の方がいいかと思って」
公爵家の方が何を尋ねたいのか分からないので、取り敢えず疑問に思っていることはなんだろう、と見当をつけて伝えてみるが、「そうじゃない。そういうことではない」と否定される。
じゃあ何を尋ねているのだろうか。
それにしても、不思議な方だと思う。
私は神官長としか接したことが無いからだろうか。私のスキルがどんなものか知っているはずなのに、そしてそのスキルの真偽を知りたいと言っていたのに、全然スキルを使用するように言わない。それどころか私に関することを尋ねてくる。
神官長は私の考えも気持ちも尋ねて来たことは一度も無いのに、この人は私自身について、尋ねてくるのだから。不思議だ。
「分かった。お前が無知であることは理解した。これは神官長の怠慢だ」
「たいまん」
「神官長が行うべきことを行わなかったということ」
「そうなのですか。たいまん。ああ怠慢というのですか」
公爵家の方が怠慢、と初めて聞く言葉をまた口にするから、繰り返す。意味を説明してもらった後で、千里眼のスキルを使用してみる。確か、王城に隣接する図書館で働く人の中に、毎日語彙を増やすため、と言って辞書を開く人がいるのだ。
その人は辞書に書かれた言葉を紙にたくさん書き付ける。メモ書きというやつ。そのメモ書きに怠慢という言葉が無いだろうか、と千里眼のスキルを使ってみた。その人は、必ず書いたメモ書きを最初から最新まで振り返る癖がある。今までは気にしたことが無いけれど、今はその癖に助けられて、怠慢という言葉を正式に覚えることが出来た。
「今、スキルを使用したな? なんのためだ?」
公爵家の方がスキルを使用したことが分かったらしい。それがなぜなのか、そっちの方が気になるけれど多分訊ねても答えてもらえないだろうから、質問に答えることにした。
「怠慢という言葉をきちんと知りたかったので」
そして図書館で働く人のことを話せば、公爵家の方は、あああいつか、と頷く。知っている人ということなのだろう。
「なるほど。別のことを見てもらおうかと思ったが、その必要は無さそうだ。あいつのメモ書きのことを知っているのは、それこそ図書館で働く者か身内くらいなものだ。私は身内ゆえに知っている」
つまり家族か親戚ということらしい。
そして、千里眼のスキルを別のことを見てもらうことで真偽を確認するつもりだったらしいけれど、何となく使用したことで真偽がついたみたいで。
「その千里眼のスキルは真実だと判定する。まさかこんな意外なことで判定することになるとは思わなかったが、あいつのメモ書きを図書館で働いてない、身内でもないお前が知ることは難しいからな。図書館を利用している者は絶対に知らない。何故なら、あいつはそのメモ書きの存在をなるべく他人に知られないように、図書館の奥の休憩室でしか使わないからだ。利用者には見えない。だから働いている者しか知らん。身内の場合は、小さな頃からメモ書きをする癖を知っているから、そうだろうな、と納得しただけだ。つまりお前の千里眼のスキルは本物である」
公爵家の方がはっきりと言い切った。
まぁ自分が嘘ではないことを知っているから、今更とは思うけど、でもそうか。神官長以外の人から、千里眼のスキルが本当だと認められたということか、と初めてのことに気づく。気持ちについてはちょっとよく分からないけれど、神官長以外の人と初めて話すこともなんだか不思議で仕方ない。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




