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Ⅴ:高貴らしいお方

 茶番劇の夜会から数日。神官長がやけに固い顔をして声を掛けてきた。


「アルフォンス。まだ、スキルは使えるな?」


 使えない、という一言はまだ言えない。

 だが、神官長の問いかけには使えない、という一言を聞く気はないと明確な拒絶が示されているように思う。使える、という返事をする間もなく神官長が続けた。


「これからいらっしゃるある方が、そのスキルを所望しているため求められる分は叶えるように」


 つまり、千里眼で見えたことを求められる限り、伝えろということ。とはいえ、成長と共に見える範囲が制限されてきたという嘘を神官長は信じているだろうから、そのある方とやらにもその辺は伝えているだろう。それなら全部を伝えなくてもいいだろう。言いたいことを言って、こちらの返事も聞くことなく神官長がやがて連れてきた人物に、動揺を上手く押し殺せただろうか。


 あの茶番劇の夜会の最中、ボタンが弾け飛びそうなシャツも気にせず、優雅かつ上品な仕草で茶番劇に興味も持たずにせっせと食べ物を消費していた男。

 髪の色は金色が混じった茶色で毛先が跳ねている感じから柔らかな髪質だろうか。かなりふくよかな体型だからか柔和な印象を与えるけれど、こちらを見定めるような視線を向けてくる辺り、外見に騙されてはいけない、と本能が警鐘を鳴らす。見定めようとする目は薄い水色をしているが感情は無のように見える。


「はじめまして」


 神官長が「ある方」という表現をしていた人物だ。千里眼で見たときは食べているだけであったから、あまり爵位の高くない貴族家の子息だと思っていた。

 だが、あの美しさが損なわれない所作で食べ続けていたのだから、高位貴族の出身だろう、と予測がつかなくてはおかしかったのだろう。自分はマナーも何も分からないし、身に付いてないが。千里眼で見た王族や高位貴族の所作を思い出せば、それに通じるものがあった。

 体型と食べている姿で思い込んでしまったのは、自分が悪い。


「ああ」


 頭を下げた私に、目の前の人物は鷹揚に頷く。


「神官長から私に用事がある、と伺ってます」


「マナーが身に付いてないな」


 こちらから千里眼で何を見れば良いのか、遠回しに尋ねたのに対して目の前の人物は掛け離れた言葉を返してきた。戸惑いは一瞬。


「マナーを習う機会を得られなかったもので」


「見るだけでは覚えられない、というわけか」


 千里眼のスキルでマナーを覚えなかったのか、という意味なのだろう。


「見るだけでは覚えられません。実践して身体に覚えさせないとならないものだと思いますので」


 実践する時間はあっても実践する気は無かったし、実は千里眼のスキルを使うと心身の消耗が激しいこともあって、気力と体力を回復するのに時間を費やしたいのが本音だった。

 成長した今はだいぶ気力は兎も角体力がついたことでダウンしなくなったが、幼い頃はそこにあるベッドによく倒れ込んでたものだ。

 そういえば目の前の人物は、ベッドと一脚のテーブルと一対の椅子しかない殺風景のこの部屋に通されても、何も言わないが、不快も疑問も無いのだろうか。殺風景であることに疑問だとか、こんな部屋に通されて不快だとか。まぁ関係ないと言われてしまえばそれまでか。


「確かにな。褒められて覚え、手厳しく叱られて覚えて身体に馴染ませるものだ。学ぶ意欲はあるのか」


「意欲よりもスキルの使用は気力と体力を削がれるので回復に時間を費やしたいですね」


 どうせ外に出られないのだからマナーなんて不要。やる気も無い。


「そのスキルが本物なのか確認する」


 嘘、偽りなのかという疑い。

 確かに疑う方が正常だ。こんなスキルがあるなんて思えないのだろう。私自身、持って生まれていなければ疑う部類のスキルだ。

 残念ながら本物だけど。


 この世界は、誰しもがスキルを持つ。特殊なスキルなのか割と多いスキルなのか、それは与えられないと分からないが、誰しもが必ず持って生まれる。

 割と多いスキルの方が圧倒的に多いが、特殊なスキル持ちが居ないわけじゃない。その居ないわけじゃない方に私が当て嵌まったというだけのこと。

 スキルが選べるのなら、例えば料理人とか、レンガ職人とか、建築人とか、商人とか、使用人とか、文書処理とか、計算精確とか、音楽家とか、薬師とか、割と多いスキルや、少し特殊でも特殊持ちの間では、そんなに特殊という部類に入らないスキルが良かった。

 こんな風に疑われることは気にならない。それよりも、千里眼のスキルなんて私にとっては別に、有って良かった、なんてものでは無いから。代われるものなら代わってもらいたい。

 でも多分、代わってくれ、と頼んでも代わってもらえるようなものでは無いのがスキル。

 だから、平民なのに領地経営のスキル持ちが居たり、料理なんてしなさそうな貴族に料理人スキル持ちが居たりするのだから。

 スキルは、神が、人に与えたものって言われているが、それならどうして私にこのスキルを与えたのか、と神に問うたのも、もう随分と昔のこと。当然、神がその返事を寄越したことなんて無い。

 神官がよく神の声を代弁するとか言われているが、神官長からこの疑問に対する答えなんて、当然もらえたことなんて無い。何が神の声が聞こえる、だ。それこそ嘘だろう、と神官長に言ったら頬を思い切り打たれたのは、いつの頃だったか。かなり小さな頃だったことだけは覚えてる。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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