Ⅳ:冤罪による断罪 3
「そこまでにして下さい、リチェ様」
宰相が静かに厳しい顔付きでリチェ王女の前に立った。ホール内がザワついたが抑々このパーティーって国王主催のものだからそんなに騒つくものか? 王族登場シーンの前から居るリチェ王女がどれだけ残念な王女なんだろうな、と私は思っていたが。
誰もその辺は気にして無かったのか? いや、考えてみればあの王女の言動も素行も知られているんだから誰も気にしないどころか、最初から残念な王女、としか思ってないのか。
普通、こういうパーティーって確か招待客は名前を呼ばれて入場して、そんで主催者を待っているものみたいだし。どこの国のパーティーもそんな感じだったからなぁ。つまり国王主催とはいえ王族であるんだから、リチェ王女も王族の一員として主催者側に立って入場するものだよな。ほんと、残念な王女だ。
「宰相、なぜ止める」
リチェ王女、宰相が目の前に立ったことで危機感を覚えて……ない。全く危機感無いね。やらかした自覚ゼロか。いや、それに気づくなら抑々こんな冤罪被せた断罪劇なんてやらないな。そりゃそうだ。
「止めます。リチェ様、本日は陛下主催の夜会です。であるにも関わらず陛下の顔に泥を塗るような愚かない所業はさすがに看過するわけには参りません」
愚かな所業、とハッキリ言っている辺り、国王がリチェ王女を見限ったことが分かるな。うん? というかリチェ王女の敬称が「殿下」ではなく「様」と変化している辺り、もしかして王族籍を除籍されているとか?
宰相が口にしている以上、国王の意思を反映していると見做して良いわけだ。王族籍除籍、なんていくらこの国が王政でも絶対では無いから、おそらく除籍のための会議でも行われて採決を取っているはず。いくら国王でも独断専行でリチェ王女を除籍するなんて出来ない、はず。いや、あまりの態度のリチェ王女だから独断で除籍でもしたのか?
全く興味ないから千里眼で確認する気も無かったのだが。まぁいいか。
「何をご大層な。お父様の顔に泥を塗る、などとそのようなこと妾はしておらぬ」
苛立つような口調のリチェ王女は、宰相が自分を呼ぶ敬称が違うことにも気づいていない。甘やかされて育った我儘傲慢さが、自分の立場が危ぶまれている状況に気付けない、か。そうであるなら、愛玩動物のように可愛がるだけだった陛下と愛妾にも問題がある。親としての責務を放棄したようなものだからな。
「いえ。陛下主催の夜会にこのような騒動を起こすこと自体が、顔に泥を塗る行為でございます。リチェ様の発言は聞いておりましたが、婚約者に相応しいか相応しくないか、婚約続行か破棄か。全てはリチェ様がお決めになられることではなく、陛下がお決めになられること。リチェ様は陛下に婚約に関する意見を奏上し、陛下のご裁可をお待ちするのが正しい姿勢です」
宰相の渾々とした説明にリチェ王女は「でも」や「だって」を口にしながらも、きちんとした明確な反論が出ない。これでもう、この場は宰相が仕切り冤罪による断罪劇は呆気ない幕切れで終わった。
アビエイスことボルグ男爵子息は、場が宰相預かりとなって溜め息を吐き出した。
「後で改めて場を設けます。その際は同席願います」
宰相がアビエイスに告げる。宰相から指示されてリチェ王女の周囲は騎士が囲んでこの場から立ち去るように促す。リチェ王女は「妾は出て行かぬ」とゴネていたけれど宰相から「リチェ様」と低音で呼びかけられ鋭い視線を向けられ、これ以上は得策では無いと理解したのか渋々立ち去る。
「今の出来事はこれより先、無かったこと、です。間もなく陛下と殿下方がお目見えになられ、夜会が開始します」
宰相が特に声を張り上げることは無かったが、人の耳に言葉が入るような柔らかく且つ強い音で、茶番劇を無かったことにし、夜会を楽しむように皆に伝えている。前から王城内を千里眼で見通していて思っていたが、やはり国王よりこの宰相の方が手強い。
この国は宰相が居ることで歯車が円滑に回っているかもしれない。
取り敢えず、冤罪からの断罪劇は閉幕した。この後のことは別に興味が無いから千里眼のスキルで見ることを止めた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




