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Ⅳ:冤罪による断罪 1

「アビエイス、そなたとの婚約は破棄する! 妾の侍女に愛を囁き口説いたであろう。そのような誠意の無い男など妾に相応しくないっ。可哀想に侍女はそなたが怖い、と郷里へ帰って行ったぞ!」


 リチェ王女殿下。

 愛妾の娘。国王が自分を可愛がってくれていることを分かっているために、このような愚行を犯した。


 私は千里眼のスキルで知り得た情報から起きるだろうと予測していた。ただ、その可能性がある、という現状だったから本当に行われるか、それは分からなかったが。

 一応、国王は愚行を起こさないよう、直接では無く愛妾を通して「何やら考えているのであれば、考え直すように」と伝えていたことは、当然知っている。何やら、と随分婉曲な表現だが、貴族とて証拠に証言といった裏付けがあっても慎重に期した発言をするものだ。王族なら尚更。

 だから母親経由とはいえ、国王から忠告されたのであれば考え直すものだ、王族の自覚があれば。つまり忠告されるような何かが国王の耳に届いている、と勘づくもの。

 まぁ、本来ならそのような愚行を考えて行動を起こそうとするのも、賢い者ならやらないのだが、それでも忠告によって行動に起こさなければ無かったことと同義にすることも可能。


 だが、国王の忠告を無視してやらかした。


 リチェ王女の行く末はこの日決定したな、と私は千里眼で確認しながら思う。動物が罠に気づかず罠に掛かったような気持ち程度にしか思っていないが。要するに、なるべくしてなる結果、というものだ。


 私がなぜこの愚かな冤罪による断罪騒動を見ているか、というと。リチェ王女の行く末にも弟や両親の行く末にも興味は無いが、愛妾辺りがリチェ王女の命乞いか何かを画策するようであれば、それを引き合いに出して自由を獲るか、或いは見えなかったと報告して千里眼のスキルが使えなくなったことにして、お役御免で自由を獲るか。

 難しいかもしれないが、監禁生活を返上出来ないか画策したいので、何か起きないか確認している。


「王女殿下に申し上げます」


 アビエイス、弟が静かな声で冷静に発言許可を求める姿は、ふぅんと興味を引く。身分で言えばほぼ一番下の弟が雲の上の存在に対して、臆することなく過剰に阿る(おもねる)ことなく淡々と対応出来る、というのは、家族や兄弟の情ではなく一人の人間として、関心を持つ。

 私と同じ闇を表したような黒い髪は確かに兄弟であることを示す。監禁される前に見た自分の顔は飴色の目をしていたがアビエイスも同じ目の色をしている。監禁されてからは鏡も窓も無い生活だから、青白い自分の腕がアビエイスとは違うし、顔や背丈や肉付きも多分違うだろう。

 外に出ない私は成長が悪いので、千里眼で見ているアビエイスの身長と比べると、おそらくアビエイスの肩にも届いてない。アビエイスが特別高いというわけでは無さそうなのは、リチェ王女殿下を含めた周囲の人たちの背丈から推測される。

 つまり、私が低いということ。

 多分二年くらい視界の高さは変わらないことから、私の成長は止まってしまっているのだろう。外に出される時間は月に一度あるかどうか。それもごく僅かな時間。逃亡されないように、勝手に死なないように、誰にも接触されないように、神官長が付きっきりで私の側に居られる時ではないと、外に出られない。

 ついでに言えば手洗いも風呂も神官長が見ている時間だけだ。

 不便な生活だ、と言ってしまえばそれまでだが、自死を試みた私が悪いのだから、とは神官長のお言葉。つくづく死ねなかったことが悔やまれる。

 だが、まぁいい。

 私自身の成長も千里眼スキルの成長も止まってしまったことを理解して、私を解放してくれれば。生きる望みなんて無い。死ぬときくらい、この教会ではなくどこか別の場所で死にたい。


 そんなことを考えながらアビエイスの様子を窺う。

 アビエイスは、侍女を口説いたというが仮にそれが事実だとして侍女が郷里に帰った時点で、自分が侍女を口説いたという事実は無いのと同じである、と告げる。侍女の証言も第三者の証言も無いのだから、と。


「何を言う! 妾が侍女から相談を受けたのじゃ! 妾が嘘を吐いておるとでも言うのか!」


「恐れ多くも殿下の言を疑うことをお許しください。私とて行っていないことを行った、と冤罪を着せられるのは御免被ります。リチェ王女殿下が嘘を吐いてない、と断言されるのであれば、私が口説いたという侍女をこの場に控えさせ、証言させるべきです。また第三者もそのことを知っていることが必要ではないでしょうか。それに、私が殿下の侍女を口説いたと仰いますが、私は婚約者として登城することが稀にございます。登城した際には必ず殿下付きではなく、国王陛下付きの執事に案内されております。侍女ではなく執事です。なぜなら、私が殿下に不敬を犯さないとも限らないことから、言動を控える意味も含めて国王陛下付きの執事が私の登城から下城まで常にいらっしゃるのです。その執事は私が殿下の侍女を口説いたということを訴えられたのでしょうか」


 なるほど。

 アビエイスには、登城から下城まで国王付きの使用人が側に張り付いているのか。ということは、リチェ王女殿下と茶会だかなんだかで顔を合わせている間にもその執事が居てもおかしくない。

 リチェ王女付きでは無く国王付きであるなら、完全に第三者だ。さすがに国王付きがリチェ王女に買収される等など有り得ないだろう。

 実際、リチェ王女は悔しそうに歯噛みしている。

 あーあ、ここでそんな顔をしていたら、自分の作戦が失敗した、と周囲に丸わかりだろうに。ここで嘘が暴かれても取り繕えないから、王族失格で、嫁ぎ先が気に食わない男爵家なのに。どうしようもない人だ。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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