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Ⅷ:感覚で分かっていたこと 2

 ネイティアン様と話していたはずなのに、目が開いた。多分、寝てしまっていたのだ。教会を出て直ぐに意識を失ったし、ネイティアン様と話している最中なのに、寝てしまった。おかしい。体力は昔よりもだいぶ付いていたはずなのにベッドから身体を起こせない。起き上がりたい、とは思うのに身体が思うように動かない。なぜ。


「目覚めたか」


 その声にそちらを向いて、初めて気づいた。

 ライトが眩しい。


「今、夜、ですか」


 ネイティアン様が座っている。

 ジッと私を見ている。


「ああ」


「とても明るいライトなのでまだ太陽が出ているのかと思ってました」


「だから、扱いが酷い」


 なるほど。それすらも酷い扱いになるのか。でも、教会のあの部屋では昼も夜もすることなんて、千里眼のスキルを使用するか寝るか、どちらかだったから気にしたことも無かった。


「酷い扱い、なんですか」


「あの部屋にライトは無かっただろう」


 確かに。千里眼のスキルで見たことがあるが、夜は誰しもがランタンというものを持って移動したり、シェードランプというライトで灯りを確保していた。私の部屋にはそんなものは無かった。目が覚めても月明かりが頼りだった。


「月明かりが頼りでした」


「そうであろうな」


 ネイティアン様は、あまりにも物が無いことを何も思わなかったのか、と尋ねてきた。


「本を、読みたい。と十歳にもならない頃、神官長に言ったことがあります。でも、字が読めないのに本を読んでどうする、と言われて諦めました。千里眼のスキルでは誰かが本を読んでいても、私は文字を知らないから分からなかった。色や形などは、千里眼のスキルで様々な人や場所を見て覚えました。最初はベッドや椅子すら言葉を知りませんでした。それもスキルのおかげで、寝るときに使用する物がベッドだ、と覚えました。カトラリーというのは、食べるときに使用するとか。でも文字は覚えてないのです。文字は見るだけ。文字を知らないから分からない」


 ネイティアン様が大きく息をついた。


「本当に神官長の怠慢だな。国王陛下に奏上せねば」


 ネイティアン様は、続ける。


「特殊なスキル持ちを引き取ったのなら、その養育は引き取り先に任せられる。勉強やマナーや最低限の生活保障は養育義務に入る。アルフォンスの場合は、教会の義務。もっと言えば神官長の義務だ。つまり義務の放棄をしていたことになる」


 義務というのは、しなければならないことを意味するのだとネイティアン様。私に勉強やマナーを学ばせることは教会側の義務。そのトップである神官長の義務ということ。そう、ネイティアン様が仰った。


「それに、体調が悪いだろう」


 ネイティアン様に言われて、首を捻る。


「体力は随分と付きましたが」


「体力が付いたのは、子どもの頃と比べて、だろう」


 それもそうだ、と頷く。

 そして思い出した。

 千里眼のスキルを使い過ぎて倒れたときと同じような状態だということに。

 ああそうか。

 私は体調が悪いのか。

 いや、感覚で分かる。


 自死を選ぶまでもない。

 私はあまり長くない。


「体力はついても、それは昔と比べて、でした」


「そうだろうな」


 私が自分の身体のあちこちに想いを巡らせると、思っている以上に身体の良いところを見つけられないことに気づいた。それを体力が思ったより無かった、と言えば、ネイティアン様は静かに同意する。不意に理解した。ネイティアン様は、私の身体が深刻であることを知っている、と。


「あと。やっぱり願いは変えます。死に場所を選ぶ、ではなくて。あの部屋以外で死ぬこと、に。だからもう願いは叶いました」


 私があっさりと願いが叶った、とネイティアン様に言うと、ネイティアン様はまた一瞬だけ泣きそうな顔をして、それからもう一度静かに「そうか」と同意してくれた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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