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プロフェテースロンド~元暗殺者とダメ王子は、竜のスキルで国を牛耳らせていただきます~  作者: 天崎羽化
Anadysis~エドガーの懐古~

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竜を殺せるのは竜だけ


 「殺し屋‥‥」


 ヒルメスとノクティスの青ざめた顔色を横目に、目の前では王然とした佇まいで射すように自分を眺めるディルハルトの姿に思わず噴き出した。


「ははっ‥‥既成事実を作るのか?人殺しの罪を犯させ、投獄されたふりをして、わたしを国外追放するために?傑作だが、そんなことをしなくても、わたしはいつでも腹を裂く覚悟がある。なんなら、ここで今、自害してもいい。さぁ、剣を持ってくるがいい」


 流暢に事を進めるエドガーの姿に、ディルハルトの顔が怒りで染まっていく。


「お前ひとりの命で解決する問題ではない。おまえが国家転覆を図っていたと判断された場合、おまえの名代、使用人、クレメンツ家と関って利益を得ている貴族すらも芋ずる式に断罪する。言葉は、慎重に選んでもらおうか」


 その場にいる全員が、部屋の空気が冷ややかに変わったことを察知していた。エドガーは、ディルハルトが自分の存在を区別したのだとはっきり自覚した。目の前にいるのは、親友でも、同級生でもなく、数百万の民を有する国の王だ。この事実にエドガーが気づいたときには遅かった。情すら浮かべない儀礼的な王の表情に自分の胸が軋んでいくのがわかる。


「わたしの提案を飲むならば、一家の借金の話はなかったことにするし、国家転覆を疑う家臣たちの申し立ても治めてやろう。城内においての王直属の魔法使いという地位の格下げにも目を瞑ってやるし、諸々ももみ消す」

「いいのか?そんな‥‥簡単に」

「いいさ。きみはぼくの親友、だからね」


 蠱惑的な笑みを浮かべるディルハルトの姿にエドガーの背筋に嫌な感覚が走った。帳消しにできるわけがない。そんなに事態は軽くない。そう、ディルハルトの目の奥が自分に警告しているのが見て取れるからだ。怯える眼差しに変わった親友の顔色を見て、ディルハルトはエドガーに機嫌のいい笑顔を注いだ。


暗殺者(アサシン)としての報酬は払う。その金を借金返済に充てたまえ」

「しかし‥‥わたしは、人を殺したことなど‥‥」

「ない?そうだったね。この国は、戦争をしたことがないから。魔法使いも、騎士も、血生臭い戦いを経験していない。だがこれからは、戦争が起こる可能性が出てきたんだ」


 ディルハルトは真剣な面持ちで王族の面々を眺める。不安そうに瞳を揺らすヒルメスと、その横で決意の眼差しで返すノクティスの瞳に向かって柔らかな笑顔を返した。その先に佇む天蓋式のベッドを視界に入れたあと、エドガーを睨み据える。


「わが妃が不治の病にかかったのは知っているな?」

「はい。存じております。突如倒れられ、そのまま目を醒まさず眠ってしまっておられると」

「そうだ。我が国の賢者たちの調査の結果、これは魔法使いがかけた呪いだと判断された」

「‥‥呪い」


 呆気に取られたエドガーの口元がぱくぱくしながら開いていく。ヒルメスは目に涙を溜めながら零さんと堪えているし、ノクティスの顔は苦痛に歪んでいる。三人の顔色に気を配りながらも、ディルハルトは、力を込め忌憚なく告げた。


「賢者たちには、魔法をかけた術者を探させている。だが、妃の噂は他国に広がっていてね。流布しされた中には、妃に術を掛けられるほどに国王も、そして国も脆弱になりつつあるという国難級の噂があってね。ご丁寧にも、どこかの国の偉いやつらがわたしたちの首に賞金まで出したようでね。今のところは目立つような所業はないが。今朝、わたしの元に手紙が届いてね」


 ディルハルトが差し出した手紙は角が立った真新しいもので、最近届けられたものだと察せられた。剥がした後があるものの、封蝋の形はしっかりと見て取れるもので、その刻印を見たエドガーの体が硬く強張った。


「‥‥竜の‥‥刻印?いや違う。これは、蛇竜(ファフニール)?」


 流れるような胴体を包む鱗の意匠が細かく刻まれている。真っ赤な蝋の中に混ざった金がその身に荘厳さを加えて様に美しくきらめく様はさながら竜のように見えるが、地を這うような蜷局を巻いた尾は竜のそれではない。エドガーの言葉を聞いたディルハルトが首肯する。


「お前は竜の眷族。その中でも、天と神に愛された天竜(ガルダ)の寵愛を受けている。そのクレメンツ家と対になる一家は、この世に一つしかない」


 額からこぼれる汗を拭う事も忘れて手紙の字に目を走らせていた。確信したエドガーが震える唇を開く。


「‥‥アルコスの一族です」

「そう。そして、代替わりし、お前と同様に一家の主となった男の名は?」


 封蝋を剥がして中の手紙を開いたそこには、見慣れた「彼」の字が流れるように記されていた。


「アルコス・カサンドラ。蛇竜(ファフニール)の眷族です」

「きみが天の竜ならば、彼は地の竜というわけか」

「はい。言い伝えでは、そう記されています」


 ディルハルトは、胸元から丸めた羊皮紙を取り出したその瞬間に見えたサインの数々が賢者のものであることに、三人ともごくりとつばを飲む。


「きみたちは1000年に渡って喧嘩しているそうだね?仲が悪いんだ?」

「その様です」

「竜の一族はあと1つあるようだけど?」

「はい。天、地、海の竜の眷族がありますが、交流はありません」

「一族同士は疎遠。だけど、エドガーの遠い親戚にあたるわけだね?」

「はい。ですが、血を分けてはいません」

「そうか。だとしても、性質(たち)は同じだ」


 庇うことなく否定したディルハルトの言葉にエドガーは押し黙ってしまう。指から手紙を抜き取ると、ディルハルトは愉快げに口端を上げた。


「この手紙の封蝋を解いた瞬間から、我々の攻撃は始まっている。降伏し、国を明け渡せ。さすれば、国民の命は保障する」


 読み上げたディルハルトは、エドガーの眼前へと手紙を押し付ける。エドガーを見つめる王の瞳に映っているのは怨嗟だ。そう直感から理解させられたエドガーの顔が緊張で固く強張っていく。


「国内で市民の変死体が上がってる。昨夜は、王子を殺そうとする刺客まで現れていてね。これが戦を始めるという序章なのか。ただの事件なのかを調べてほしい」

「しかし‥‥」

「竜を殺すことができるのは竜だけだそうじゃないか?もし、主犯が竜の眷族ならば、彼を殺せるのはきみだけだ」


 ディルハルトの射貫く目から逃れられなかった。かつての親友は、恨むようにエドガーを見据える。


「聖堂に賢者たちを集めてある。彼らの叡智を借り、今後の策を練りたまえ」


 あしらうように手をかざすと、ディルハルトは天蓋ベッドの方へと歩いていく。その背中を眺めながら、エドガーは扉の方へと歩いた。


「エドガー」


 低い声に呼び止められて振り返ると、申し訳なさげに顔を不安に染めあげたノクティスがいた。ヒルメスも小刻みに震えつつエドガーを見ている。幼い頃から成長を見守ってきた彼らがいる国の平和が脅かされている。そのことが、エドガーの胸に火を灯していた。


 エドガーは、彼らの視線を優しく見送りながら部屋をでると、賢者たちの待つ聖堂を目指した。

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