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プロフェテースロンド~元暗殺者とダメ王子は、竜のスキルで国を牛耳らせていただきます~  作者: 天崎羽化
Anadysis~エドガーの懐古~

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暗殺者決定




「それで」


 アウレリウスの言葉に、12人の賢者たちの気が机上へと移ったのが分かった。会議が始まる。そう感じ取ったエドガーも彼らと同じ方向を見るが。


「エドガー・クレメンツ」


 自分の名前を呼ばれたことに跳ね上がった心臓とともに椅子から体を規律させる。突然立ち上がった自分に注目する13人の賢者の視線に緊張しつつ、エドガーは小声で「はい」と答えた。


「ディルハルトからの提案は了承したのか?」

「‥‥暗殺者(アサシン)になる件のことでしょうか?」

「そうだ」

「いえ‥‥まだ‥‥です」

「そうか。だが、お前に拒否権はない」


 きっぱりと言い切られ、呆気にとられたエドガーに向かってアウレリウスが哂い注ぐ。


「当たり前だ。借金を隠し、斜陽の貴族であるという事実を隠蔽した上、魔法学校時代に王子と仲良くしていたという理由だけで王直属魔法使いになるなど、この国始まって以来の珍人事だ。ディルハルトの詰めが甘いことがそもそもの発端ではあるが、嘆願書の量からして、お前に非がないとも肯定し難い」


 手元に置かれた膨大な資料をめくり上げながら忌憚なく告げる。アウレリウスの言葉を遮るのは勇気が要ったが、意を決したエドガーが口を開く。


「しかし、わたしには実績があります。この10年の間、陛下と親族を守ってきました。事実、10年前まで頻繁に起きていた派閥争いや、王室貴族たちにより諍い、そして夜盗などの襲撃なども治まっております」

「だが、妃は臥せった」


 険しげに細められたアウレリウスの目に射貫かれたエドガーは、言いかけた言葉を喉奥へと押し戻した。押し黙るエドガーへと向く12人の賢者たちの目は、鋭い。


「それは‥‥」

「四六時中、王族の人間と行動を共にしながら、妃の異変に気が付かなかった」

「‥‥陛下から、王子と弟君の護衛を強化しろと言われていたからで‥‥」

「妃の傍には、エリオン宰相がいる。だから自分は、妃の機微には疎かったと?」

「そのようなつもりは!!」

「だがおまえは、妃を守れなかった。これは、重大な責務違反だ」


 擁護する者はいない。むしろ、徐々に冷ややかになる場の空気に堪えられなかった。エドガーは、賢者たちの顔色を窺う余裕すらない頭を振り絞り、この場における「王」アウレリウスへと向き直る。


「わたしには、発言する権利すらないのですか?」

「ない。場合によっては、この場でお前を処してもいいと、王から許しも得ている」


 絶句と共に沈黙した。悲壮に染まるエドガーの顔を見守るように眺めているのは、魔法学校時代に講師たちだけだった。しかし彼らの視線の中にさえも、同情の色は感じられない。


「妃にかけられたのは、魔法ではあるが呪いの類だ。呪いは、術をかける相手の一部を、術者が手に入れなければ行えない。つまり、おまえがそばに居ながら、妃の髪、体、皮膚に触れたならず者がいたという証拠だ」


 アウレリウスの言葉にエドガーの血の気が引いていく。指の先が氷のように冷たくなるのがわかった。辛うじて立ちすめている両足に力を入れ、なんとか正気を保たんとするエドガーの体を支えようと、イマの細い指が伸びる。今にも泣きそうな顔で自分を見やるエドガーに、イマが優しく微笑み返した。


「今回は、運が、なかっただけ。また、がんばれば、いい」

「‥‥‥はい」


 とんとんとあやす様に腰辺りを優しく叩いてくれる。イマの不器用ながらの優しさが、今のエドガーにとっては骨身に染みわたるほどありがたかった。だが、イマ以外の賢者たちの視線は鋭さを増していた。


「エルンストン。セオドア。外交守護であるお前たちの見解を聞かせろ」


 エルンストは、色違いの目でエドガーを射貫きながら頷くと、ぎらりと光る金の瞳へ目配せした。気怠げな身体を椅子から持ち上げると、セオドアが手元の紙へと目を落した。


「諜報活動の結果報告をしまーす。耳の穴かっぽじってよく聞いてくださーい。とりあえず、多国籍軍が動き出しているのは事実でしたー。彼らを焚きつけた原因も、妃が病に臥せったことが好機と読まれたことが理由っぽいでーす。それを先導しているのは、蛇竜(ファフニール)であることも裏どり完了してまーす。ここで、エドガーさんにお聞きしまーすー‥‥はい、返事」

「は‥‥はい!」

「おまえ、カサンドラ一族と通じてないだろうな?」


 ドスの効いた低い声で凄んだだけでエドガーの体が反射的に震えたのを見て、セオドアが薄哂いながら問う。


「通じてないってことで、よろしいですかー?」

「はい」

「ここで嘘ついたらおまえ、即死だからな?」

「‥‥はい」

「だとしたら、エドガーの国家転覆説は薄いと見ます。以上でーす」


 ドカリと座るセオドアと入れ替るように立ち上がったエルンストンは、机の上に指を滑らせる。流れるようにエドガーの手元に届いたのは、数枚の写真だった。


「その写真に写っているのは、あなたの派閥に入っている魔法使いですね?」

「はい。ヴァルティニウスと、エリオンです」


 銀色の髪に紫の瞳の男と、蜂蜜色の瞳と髪色を持つ男の間で、エドガーが楽し気に話す様子が写されていた。


「これは、盗撮‥‥ですか?」

「その通り。遺憾の類は後で正式に訴えていただいて結構ですよ」


 感情の無い声音に告げられ気圧されたエドガーへ、エルンストンが小さく哂い注ぐ。


「エリオンは宰相の傍らで妃の側近も勤め上げる男。対してヴァルティニウスは、城内でも見目麗しい高嶺の花とも評される貌をもちながら、賢者に匹敵する魔力を持つ男。彼らの存在はこの国には必要不可欠です。それぞれが派閥を創ってもおかしくはないはずですが、あなたに従っている。それはなぜですか?」

「‥‥幼馴染だから、ですかね‥‥」

「それだけ?」


 おまえの本心か?と探られているのがわかる。明確な差別の視線にエドガーの喉奥がからからに乾いていく。だが、何も悪いことはしていないという自負が彼を前へ通し戻す。


「幼い頃から、彼らは率先して誰かの前に立つようなことがなかったので。気質として、城内での立ち居振る舞いも、目立ったことを嫌った結果だと思います」

「ほぉ。そんな彼らは、あなたをこう形容していました。守銭奴。顔だけが良い守銭奴。一族揃って守銭奴」

「‥‥はぁ」


 次から次へと上がる言葉にこめかみがずきずき痛み出す。本格的に痛み出す頭を抱えるエドガーに対して、容赦ない罵声が注がれていく。


「一族の借金を返済するために、おまえは給金すべてを返済にあてていた。使用人に暇を出し、一族の維持費も削る始末。存続すら危ぶまれる一族のありながら、その内証を隠して城内に入った。これは、偽証罪に値する。即日絞首刑。もしくは、この場で斬首とある」


 ぺらぺらとめくり終わった大典の表紙を撫でながら、アウレリウスの訝しげに細められた目を真っすぐに見られないでいるエドガーの傍で咳払いの気配がした。


「きみの立場は本来、冷酷非情な人間が勤めるべきだと我々は考える。王や王妃の傍にいるだけの置物では、未曾有の事態に対応できない。その自覚はあるよね?」


 ギラリと光るベルトラムの茶色の瞳に射貫かれながらも、エドガーは胸を張る。


「武や攻の才がなくても、わたしは十二分に王室を守ってきました」

「自負するだけの実績があると」

「はい」

「それは、あなたの派閥全員の総意?」

「そう信じています」

「では、この署名はどう説明しますか?」


 滑るようにエドガーの前へとたどり着いた書類は何かの同意書の様だった。細かく刻まれた文字に目を走らせながら、右下に書かれた署名を見た途端、息を飲み。


「あなたの勤めに対する疑義書です」

「なぜ‥‥こんな‥‥」

「ヴァルティニウスと、エリオンの署名が入っていることをご確認ください」

「誘導したんですか?!」


 淡々と語るベルトラムを他所に声を荒げた。エドガーの姿を見ても微動だにしない賢者たちの中で、頭を掻きつつ立ち上がったマティアスの目がエドガーを捉えながら。


「んなめんどくせぇことするかよ。こいつらが勝手に持って来たんだよ」

「そんな‥‥」


 頭がぐらりと揺れた気がしてそのまま椅子へと腰を落とし項垂れるエドガーに、誰からともなく囁く様な嘲笑が注がれていた。反発する気力すら失ったまま、彼らの笑い声を聞くしかない哀れな姿を眺めながら、アウレリウスはほくそ笑むと。


「エドガー・クレメンツ。おまえは、本日付で暗殺者(アサシン)とする。十二分に国の為に働け」


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