魔女っぽくない魔女
それから、連れてこられたバイトは思っていた以上に退屈で、過酷だった。
思わずアルテミスはため息を吐く。
「何これ……」
「魔石を綺麗にカットするバイトです。これは、魔法が必要なので結構給料良いんですよ」
でも、本当の問題はそんなんじゃない。
「ほら、アルテミス休まないの!さっさと働きなさい」
「……ここの店長、怖い」
アルテミスはボソッと愚痴を漏らした。
「は?なんて……」
店長は怒り気味に机を叩く。
「な、何でもありません……」
いじけたようにアルテミスは返事をする。
「それに、いつも仕事中は私語厳禁と言っているでしょ、アリス」
「はい、申し訳ございません」
アルテミスは、ちらっとアリスの顔を伺う。でも、ビクともしていなその平然な顔を見て、アルテミスは不思議に思った。
なぜ、こんなにも慣れた様子なのだろうか。
ーー魔法石専門店。
ここは、魔女の住む地帯と人間の住む地域の中間点にある、魔法石店。外見は、白い木の板と植物で構成されていて、すごくおしゃれだ。
勿論。店長は魔女である。
こういう人のせいで、きっとアルテミスは批判を浴びてるのだ。
でも、給料はすごく良い。時給はなんと、銀貨5枚。
アルテミスの住んでいる街なら、一週間は何もせずに暮らせる額だ。
人間で、魔法を扱えるものは少ないし、魔女は大体契約しているおかげか、これだけ給料が高いらしい。
店長さんがもっと優しければもっと良かったのに……なんて、つくずく思う。
作業の行程はこうだ。
まずは、魔法石を特殊な液体に浸す。その時、手を入れたら溶けるらしいので、魔法で慎重に扱わなければならない。
それから、魔法石を風の魔法を使ってカットする。一ミリでもずれたら店長に怒られるので、手が震えて逆に危ない気がする。
それを、もう一度違う液体につける。
ただそれだけ。なんと、簡単なバイトなのだろうか。
6時間働き終えた二人は、店長にお辞儀をし、その店を後にする。
* * *
「もう、これで二ヶ月は働かずに暮らせるね」
そんなアルテミスの呑気な言葉を聞いて、アリスは不思議そうな顔をする。
「何言ってるんですか……半分以上は広告費に使いますので、明日もまたバイトですよ?」
「え、……嘘でしょ」
「何、この世の終わりみたいな顔してるんですか」
「だって、あの店長さん怖いんだもん……。なんで、アリスはあんな平然な顔をしていたの?」
その質問にアリスは少し考える。それから、間を置いて口を開いた。
「なんというか……自分のお母さんもあんな感じでしたから。アルテミスさんってあんまり魔女っぽくないですよね」
「だから、貧乏なんだよ……」
「でも、私は悪くないと思いますよ。アルテミスさんみたいな人が世界を良くしていくんだと思います」
それを聞いたアルテミスは少し、頬を染める。
「何、照れてるんですか?」
「何でバレたの?」
「本当顔に出やすいんですね……」
* * *
魔女探偵事務所に無事帰ってきた二人。
しばらくして、アリスは、事務椅子に座りながらくるくる回っているアルテミスに向かって言った。
「それで…。広告のことですが」
アリスがそう言うと、アルテミスは椅子の回転を辞めて、アリスの方を向く。
「ん?」
「方針はどういったものなのです?」
「だから、看板に書いてあるじゃんようこそ魔女探偵事務所へ。お支払いは寿命か記憶、何でも依頼は引き受けます。この名探偵アルテミスにお任せあれ♪って」
「何でも引き受けるって……」
「事件性があるものでも、何でも……。この間、探した女の子は、依頼主さんに誘拐されたっぽいし……」
「そこは、魔女って感じなんですね」
呆れたように、アリスは言った。
「どこが?」
「なんと言うか……人の命を甘く見ているところが」
アリスの言葉に、アルテミスはイマイチ理解できなかった。
でも、アリスは特に何も言わない。
「私は一応人間ですから、事件性の高い依頼はなるべく避けたいんです。人間はそういう生き物、分かりました?」
それから、アルテミスは一生懸命考えようと、黙り込む。
「……ごめん。全然っ、分からない」
「ですよね。じゃあ、分かりました。私、この事務所辞めます」
真顔で事務所を出て行こうとするアリスを、アルテミスは手を引っ張って止める。
「なんだか、既視感がありますね」
「分かった。分かったから……頑張って理解するから、出ていかないでー」
アルテミスはアリスに泣きついた。




