一人目の依頼主候補『レウス』。
「それで、アルテミスさん。率直に尋ねます。この方が例の依頼人なのですか?」
席についたアリスはそう言って、真剣な眼差しでこちらを見てきた。
「うーん」
アルテミスは考え込む。
正直言って、あの日は珍しく雷雨だった。そのためか、あまり顔を良く覚えていないのだ。
そこで、シュラインは真面目な顔をして言った。
「そんな、変装もしないでどうどうと出てくるバカがどこにいますか。考えが甘すぎますよ」
それを聞いた、例の村長の義理の孫と言う人は気まずそうに告げた。
「ちょっと、まずは状況と自己紹介をしませんか?」
確かに、名乗るのも忘れていた。
せっかく、魔女探偵事務所組と、村長の孫だけという時間を作って頂いたのにーーそれも、子育ても忙しい中。
そして、ローブから名刺を取り出したアルテミスは、元気よく「魔女探偵事務所の事務所長兼探偵のアルテミスです」と言った。
「それで、そちらのお二人は?」
「ツンデレとスパイです」
笑顔で言うアルテミスに、彼はすごく困った顔をした。そして、ヒア汗の止まらないシュラインと、イライラとした感情が抑えられないアリス。
ーーもう少し、空気を読んでほしいところである。
「すみません。うちのバカが……私の名前はアリス。魔女探偵事務所の探偵です」
隠しきれない怒りを抑えながら、微笑みかけてアリスは言った。
「そして、私は新人探偵のシュラインです。どうぞ、お見知り置きを」
「あれ、てっきり私はアルテミスさんが新人探偵なのかとーー」
と、彼は言う。ちょっと鼻につくような……。
「私は、村長の義理の孫。という肩書きであってますよね?レウス・グリッジと言います。レウスとでも呼んでください」
それにしても、アルテミスは正直。レウスの人間性に驚いていた。
家庭内暴力というのは魔女の世界では良くあるもので、アルテミスの知り合いなんかにも何人か居た。そういう子は結構、攻撃的だったり、逆に内向的すぎる子が多い印象があったのだが、それは魔女だけに共通するものなのだろうか。
村長の話によれば、父親が暴力的なせいで、内向的という話だったがーー全然そういう風には見えない。まぁ、社会的に作られた偽りの性格だろうか。
「そういえば、結婚されているのですね。私が聞いた時には、そんな話は出てきてなかったので」
「あ、結婚はしていませんよ。夫婦別姓ですし……」
「やはり、幼少期のことが原因で?」
アリスがそう尋ねるとレウスは苦笑いして答えた。
「そこまで、ご存知なんですね。でも、正解みたいなものですよ。幼少期父から受けた暴力を、自分も同じくやってしまうのではないのかって……。ですから、籍は入れてません。もし、自分が何かをしてしまったときに、すぐ動けるようにしているだけですので……ちゃんと家族としては機能していますよ」
それを聞くと、レウスの人格がなんとなく見えてきた気がする。とはいっても、今のところ怪しい要素は一ミリも感じられない。
ーーそして、色んな質問をしている中、レウスとこんな会話をした。
「そういえば、今夜。どうするんですか?」
「近くの宿にでも泊まろうかと」
もう、日が暮れてきていて魔女探偵事務所に戻るのも遠いので、アルテミスは宿に泊まろうと決めていた。
「それなら、近くのメボラスホテルが良いんじゃないでしょうか。少しだけ距離はありますが、コスパが良くて綺麗なホテルですよ」




