黒歴史
それから、消えた少女を探す依頼はどこへいったのやら、魔女探偵事務所は多忙を極めていた。
占い師の親族を探すための文献を集め、調査していたのだ。
そんなの、どうだって言いわけない。だって、アリスはあの日から事あるごとに背筋が凍って、今すぐここから引っ越したいのだから。
この間なんか、アルテミスがコーヒー豆を挽く音だけで気絶しかけた。
毎晩毎晩、占い師に呪われるのではないかと、不安で仕方が無いのである。
よく思えば、アルテミスがこんなに頭がおかしいのだって、それが原因なのでは……。
「は?今、何か私に良くない考えを持ったでしょ。そんなの、窓の外に、投げ捨てておいて」
部屋を箒で綺麗に掃き掃除していたアルテミスは、アリスを睨みつけた。なんで、こういう時だけ、勘が働くのか、意味が分からない。
「そんなこと、ありません……。それよりも、それ、飛行用の箒じゃありません?」
「そうだけど……。何が問題なの?」
まぁ、言われてみれば、特に問題は無いのだが……。
「なんか、気持ち悪いなって……」
その時、部屋の角でシュラインが叫んだ。
「あった!ありましたよ」
シュラインは、文献調査を始めてから3分でそれを見つけ出した。どうやら、魔女暗殺屋で身につけた反射神経は立てじゃ無いようだ。
「どれですか?」
恐る恐る、本の中を覗き込むと、そこにはこう書かれていた。
『占い師である呪13N〈本名:リット・シアトル〉はーー〉
(呪13N…のろいさん…)
その言葉をアリスは何回も頭の中で反復した。
名前が、おかしくて、もしかしてNはずっと続いていき、無量大数までの呪いをかけられるんじゃないのか……。
そうしている内に、いつの間にか固まっていたアリスを、シュラインは叩き起こす。
「大丈夫ですか?」
「だだだだだだいじょうぶ……ででででです」
これは絶対に大丈夫などではない。
シュラインもそんなこととっくに分かってたし、最近夜中にトイレに行けなさそうにしているのも目撃していた。
何故、シュラインがそんなことを知っているのか。それは、誰にも分からない。
「シアトルって、もしかして、あのシアトル財閥じゃないの?」
と、アルテミスが呟く。
シアトル財閥は、アルテミスの住む地域でも最も見識の高い財閥であり、その名を知らぬ者など居ない。
「そういえば、あそこの娘さん。占い好きだったような……」
アルテミスは思い出すように天井を見上げた。
ーーそれは、大昔。シアトル財閥の専属の魔女として働いていた時のこと。
「ねぇねぇ。魔女さん」
「娘、僕は魔女だ。そう容易く話しかけるんじゃ無い」
そこまで、思い出したところで、アルテミスは胃を痛めた。なにせ、大の黒歴史なのだから。
グレた時代など思い出したいものでは無い。
「どうかしましたか?」
アリスが、心配そうに尋ねるとアルテミスはごまかして笑った。
「いや、行くなら二人で行ってきなよ。私は、家で留守番してるから……ね?」
「その言動、怪しい……アルテミスさん、なにか隠してるでしょ」




