慰めの肉球
魔道具と魔導所に埋め尽くされた部屋、一応事務所として機能してはいるが、いまだ従業員はゼロ。
そんな魔女探偵事務所のオフィスチェアに座り、机に足を載せたまま呑気に考え事をしているのは、事務所長兼探偵であるアルテミスだった。
それを叱るように、ルシフェルはアルテミスの頭を踏みつける。
「痛ったた……分かったって……ちゃんと仕事するから。ね?」
アルテミスはルシフェルを目で追い、そのまま捕まえる。
今回の依頼は、写真に写っている六歳くらいの女の子を探せというもの。
オレンジの建物の奥に薄らと海が映っており、後ろには大きな時計台がある。
街の背景を見るに、港の方だろうか。
「ルシフェル。行くよ」
善は急げと言うし、アルテミスはその場所を探るべく、ルシフェルを抱えて箒を飛ばす。
そして、看板を「close」に変えるのもお忘れなく。
ーーアルテミスの長い髪が風になびかれ、段々と潮の香りが近づいてくる。
近くの港に着地したアルテミスは、ルシフェルを下ろし港町をしばらく進んだ。
途中、アルテミスは通行人に場所を尋ねたりもした。
「あの、すいません…この写真に写ってる場所。知りませんか?」
「知らないな……」
そんな会話を何回繰り返しただろうか。
休憩に立ち寄ったカフェで、ガラス越しに外を眺める。それから、アルテミスは思わずため息をこぼした。
アルテミスが港町だと推測した理由はこれだ。
・オレンジ造りのレンガの建物が多い
・薄らと後ろに海が映っていた
やはり、これだけの情報では絞り込もうにも絞り込めない。
ただ、依頼主によると、これが近辺で撮られた写真であることには間違えないらしい。
この都市にあるのは、湖、山、砂漠。アルテミスは少し悩んだが、もう少しここを探索してみることにした。
「おまたせしました。特製いちごパフェでございます」
机の上に置かれたいちごパフェを見て、アルテミスは目を輝かせる。スプーンでクリームを掬って豪快に口に放り込んだ。
「美味しすぎる……ほっぺたがとろけちゃう」
太陽が照らし、クリームはより一層輝く。それは、まるで雲のようだった。
すると、そのパフェにかぶりつこうとルシフェルが飛びかかる。それを、アルテミスは片手で受け止めた。
「ダメ。これは私のパフェなんだから」
怒り気味にアルテミスは言った。
ーー「ごちそうさまでしたっ」
アルテミスは無事、一人でパフェを完食。可哀想だったので、特別にルシフェルにもパフェを少し分けてあげた。
店を出たルシフェルは、大きく背伸びをする。
それから向かった先は、近くの役所。目的は、地図を入手するためだ。
* * *
「あの、地図ってありますか?」
「もちろんでございます」
職員は棚の中から地図を一枚取り出し、アルテミスに渡した。
「それから……あのっ、この写真の場所って分かりますか?」
その職員は、これまでと同様に首を横に振る。
「ここには、時計台なんてありませんよ。海があるので……国外ではないでしょうか」
そんな純粋な職員のアドバイスに、アルテミスはため息を吐いた。
街の商店街を歩きながら、色んな人に聞いて周ってみたが、結局なんの成果も得られず、その日は終わってしまう。
* * *
「ねぇ、ルシフェル……どう思う?」
涙目で、アルテミスは尋ねた。
でも、ルシフェルは喋れるはずもなく……でも、アルテミスを慰めるように肉球を顔に押し付けた。
「痛い……でも、ありがとう」
結局候補として、一番大きいのは、ここ港ではなく砂漠のようだ。
あの時計台が、ちょうど砂漠にあるという情報を入手したのだ。




