この中に、魔女が一人紛れています
※ラデルによる翻訳・通訳前提の文章です
街外れの廃ビルにてーー。
コンクリートで出来たその廃ビルの下で待っていたのは、そこら辺のお爺さん。その横の柱には雑にペンキで『さくらホテル』と書かれていた。
この、桜の咲かない砂漠地帯で何故こんな名前のホテルを経営しているのだろうか。
「魔女探偵事務所の事務所長兼探偵のアルテミスと申しますっ、その〜、聞き込み調査をお願いしたいのですか……」
するとおじいさんは「ちっ」と舌を鳴らす。それからこう言った。
「まずは、金を払ってからにしろ」
「その、あいにく私も金欠でして……。ステンレス硬貨1枚でも……」
恐る恐る、アルテミスが尋ねると、そのお爺さんはアルテミスを睨みつける。
「そのローブ、相当良い物だな……なのに」
「いや、嘘偽りなく金欠なんです!それにこれは、お婆ちゃんから貰ったもので」
「じゃあ、そのローブを……」
「それだけは絶対嫌です!」
そう言ってアルテミスはおじいちゃんから一歩ひき下がる。
「じゃあ、何円なら良いんです?」
アルテミスの隣に立っていたラデルがお爺さんに尋ねると、お爺さんはニヤけた顔で言う。
「銀貨15枚かな」
すると、ラデルはためらいもなく、机の上に銀貨15枚を差し出した。
それを見たお爺さんは目を見開いた。まさか、本当に貰えるとは思っていなかったのだろうか。
「そそそそ、それでどんな情報が欲しいんだ?」
「えーっと、このホテルに魔女……じゃなくって、青髪のお姉さんが泊まってたり」
お爺さんは少し考え込んだ後、口を開く。
「見てないな……」
「ですねよ」
まぁ、そう簡単に魔女が見つかるだなんてアルテミスも側から思っていなかったし……。
「では、中に入らせて頂いても?」
丁寧にラデルが尋ねると、お爺さんは快く受け入れてくれた。
* * *
「アルテミスさん、変装を解かせられる呪いとかないんですか?」
「うーん、服を透かせる呪いとかならあるけど……」
「普通に変態です」
ラデルはアルテミスを睨みつける。
「そもそも、変装とか魔女の得意分野中の得意だし……」
アルテミスは吐き捨てるように言った。
「でも、変装を見破るのは探偵の得意分野中の得意なんじゃないんですか?」
「確かに」
* * *
ーー数時間後、ホテルのロビーにて。
「簡潔に言いますっ!」
アルテミスはロービー全体に響くくらいの声量で言う。
「この中に、一人魔女が紛れています」
もちろん、それはアルテミスを除いた話である。
アルテミスの言葉に、ロービーにいた宿泊客は騒然とし始めた。当然の反応だ。
すると、ラデルがアルテミスにこう耳打ちする。
「こんな、簡潔に魔女が居るだなんて言ったら逃げられちゃいますよ?」
「でも、逃げた客が魔女で確定になるじゃん」
それから、アルテミスはこう言う。
「この、魔女探偵事務所事務所長兼探偵、いや、名探偵のアルテミスさんがこの謎を解決してみましょう」
でも、アルテミスのカッコつけたかっこいいポーズもカッコいい台詞も誰にも届くことは無い。
何故ならその隣で、ラデルが行列を作っていたから。
「アルテミスさん、皆さんこちらにいらっしゃるのでぱっぱと魔女を探してやってください」
でも、その列は尋問の列などでは無い。列に並んでいた一人がこう声を上げた。
「あのお姉さん、カッコいい!」と……。




