第66話:崩壊再び
「全部、動かします」
その一言は――予告ではなかった。
◇
現実だった。
◇
王都の空気が、変わる。
目に見えないが、確実に。
◇
まず、止まったのは――物流だった。
◇
「……届かない?」
エリシアが報告書を握りしめる。
「地方からの荷が、全部止まってる」
「ええ」
俺は頷く。
予想通りだ。
◇
だが。
(早すぎる)
◇
国内の主要ルート。
街道。
水運。
すべてが、同時に機能不全に陥っている。
◇
「契約が……」
別の書類を確認する。
「一斉に破棄、もしくは停止」
「そんなこと、できるの?」
「普通はできません」
一拍。
「普通なら」
◇
つまり。
普通ではない。
◇
◇
次に起きたのは――信用の崩壊。
◇
「この手形、無効ってどういうことだ!」
「払えないって言ってるだろ!」
「約束が違う!」
叫び声が飛び交う。
◇
支払いが、止まる。
信用で回っていた経済が――
根本から崩れる。
◇
「連鎖してる……」
エリシアが呟く。
「一つ崩れたら、全部……」
「ええ」
◇
これは、個別の問題ではない。
構造の崩壊だ。
◇
◇
さらに――
人が、動かなくなる。
◇
「もう売らない」
商人が言う。
「次が読めない」
「仕入れても意味がない」
◇
労働も止まる。
◇
「賃金が出ないなら働けない」
「明日どうなるか分からないのに」
◇
消費も止まる。
◇
「今は使えない」
「何が起きるか分からない」
◇
すべてが――
止まる。
◇
(完全停止……)
◇
これはもう、悪化ではない。
崩壊だ。
◇
◇
「……数字、出たよ」
エリシアが、震える手で資料を差し出す。
◇
確認する。
◇
税収――急落。
市場取引量――ほぼゼロ。
流通量――停止寸前。
◇
「……ここまでか」
思わず、言葉が漏れる。
◇
「まだ、何かできるよね?」
エリシアが問う。
その声は――
強い。
だが。
わずかに、揺れている。
◇
考える。
必死に。
◇
だが――
(手が足りない)
◇
規模が違う。
速さが違う。
◇
すべてが同時に崩れている。
だから。
どこから手をつけても――
追いつかない。
◇
「……」
言葉が出ない。
◇
その時。
外から、悲鳴が聞こえた。
◇
「暴動だ!」
「配給所が襲われてる!」
「止めろ――!」
◇
限界だ。
完全に。
◇
人が壊れた。
市場が壊れた。
信用が壊れた。
◇
すべてが、同時に。
◇
そして。
俺は、ようやく理解する。
◇
(これは……)
◇
止める段階じゃない。
◇
もう。
◇
崩れる。
◇
口から、静かに言葉がこぼれた。
◇
「間に合わない」




