第67話:最終策
「間に合わない」
その言葉は――現実だった。
◇
止めることはできない。
もう、崩壊は始まっている。
◇
王都の外では、暴動。
中では、信用崩壊。
市場は停止。
物流は断絶。
◇
すべてが、同時に落ちている。
◇
「……どうするの」
エリシアの声。
静かだ。
だが、その奥にあるものは――覚悟だ。
◇
逃げる、という選択肢はない。
もう。
そんな段階は過ぎている。
◇
(勝つか、終わるか)
◇
思考を切り替える。
止めるな。
追うな。
◇
(逆だ)
◇
「……止めません」
俺は言う。
◇
「え?」
エリシアが目を見開く。
◇
「この崩壊は、止められない」
「だから」
一拍。
「利用します」
◇
沈黙。
◇
「利用って……」
◇
「相手は、“全部を動かす”と言った」
「なら」
資料を広げる。
◇
「動かしてもらう」
◇
「……どういうこと?」
◇
「市場を壊すには」
「流す必要がある」
「止めるには」
「切る必要がある」
◇
「つまり」
◇
「“動き”が必ず発生する」
◇
エリシアの目が、わずかに変わる。
理解が追いつき始めている。
◇
「その動きを――」
指で一点を叩く。
◇
「誘導する」
◇
「……誘導?」
◇
「はい」
「崩壊の流れを、制御する」
「完全には無理でも」
「方向は変えられる」
◇
「でも、それって……」
◇
「危険です」
即答する。
◇
「失敗すれば」
「完全に終わる」
「取り返しがつかない」
◇
エリシアは、黙る。
逃げない。
◇
「具体的には?」
◇
「三段階です」
◇
「第一に」
「“偽の安定”を作る」
◇
「一部の市場を、意図的に回復させる」
「限定的に、信用を戻す」
「そこに――」
◇
「資金を集中させる」
◇
「……罠?」
「はい」
◇
「第二に」
「流れを固定する」
◇
「そこを“安全地帯”だと思わせる」
「資源も、人も、信用も」
「すべてを集める」
◇
「そして」
一拍。
◇
「第三に」
◇
「切る」
◇
空気が止まる。
◇
「……切るって」
◇
「流れを、断つ」
「相手が動かしたものを」
「一気に止める」
◇
「そうすれば」
◇
「反動が、すべて相手に返る」
◇
沈黙。
◇
それは――
今、やられていることと同じだ。
ただし。
◇
(逆方向に)
◇
「……それ、成功するの?」
エリシアの問い。
◇
「分かりません」
正直に答える。
◇
「ただ」
続ける。
◇
「これしかない」
◇
他に選択肢はない。
守ることはできない。
なら。
◇
奪うしかない。
◇
「……やるんだね」
エリシアが、静かに言う。
◇
「ええ」
頷く。
◇
すべてを賭ける。
街で学んだこと。
村で試したこと。
ここまで積み上げたすべてを――
◇
この一手に。
◇
俺は、はっきりと告げた。
「やります」




