第61話:裏の支配
「認められるか」
その一言で、会議は終わった。
◇
結論は出ている。
通らない。
どれだけ正しくても。
どれだけ必要でも。
◇
「……ダメ、だったね」
廊下を歩きながら、エリシアが小さく言う。
「ええ」
短く答える。
予想通りだ。
だが――
(違和感がある)
◇
「何か、変じゃない?」
エリシアも同じことを感じていた。
「反対が多いのは分かるけど」
「揃いすぎてるっていうか……」
「ええ」
頷く。
「統一されすぎています」
◇
利害が違うはずの貴族たち。
それなのに。
全員が、同じ方向を向いていた。
◇
(偶然ではない)
◇
「調べます」
そう言って、資料室へ向かう。
◇
王都の記録庫。
古い契約書。
取引履歴。
資金の流れ。
すべてが、ここにある。
◇
「……量、多すぎない?」
エリシアが苦笑する。
「ええ」
「ですが」
「見えます」
◇
帳簿を開く。
契約書をめくる。
そして――
“繋ぐ”。
◇
金の流れ。
権限の移動。
契約の偏り。
◇
一つずつは、小さい。
だが。
全体で見ると――
(一本の線になる)
◇
「……これ」
エリシアが息を呑む。
「全部、繋がってる?」
「ええ」
◇
複数の貴族家。
複数の商人。
複数の契約。
それらが――
同じ先に流れている。
◇
「この商会……」
エリシアが呟く。
その名前は。
あの時、戦った相手。
◇
「ここが中核です」
◇
だが。
そこで終わらない。
◇
「……いや」
手が止まる。
違う。
まだ、奥がある。
◇
さらに資料を重ねる。
裏契約。
非公開の資金移動。
名義の分散。
◇
「隠してる……」
「ええ」
明確に。
意図的に。
◇
「ここを見てください」
指で示す。
「この契約」
「表では別商会ですが」
「資金の最終到達点は同じです」
「……全部?」
「ええ」
◇
複数の商会。
複数の名前。
だが。
実態は一つ。
◇
「じゃあ……」
エリシアが言葉を探す。
「今までのって……」
◇
「はい」
答える。
「競争ではありません」
「統制です」
◇
市場は、自由ではなかった。
最初から。
◇
「……じゃあ、貴族たちも?」
「支配下です」
◇
完全ではない。
だが。
影響は受けている。
資金。
契約。
利害。
すべてが絡んでいる。
◇
「だから……反対した」
エリシアが呟く。
「ええ」
「自分の意思ではありません」
「構造として、逆らえない」
◇
沈黙。
重い沈黙。
◇
これはもう。
単なる政治の問題ではない。
◇
国家の上にある、何か。
◇
俺は資料を閉じる。
結論は出た。
だが。
それは同時に――
問題の規模が、さらに上がったことを意味する。
◇
静かに、言う。
「まだ上がいる」




