第59話:リディアの政治
「それでも、見捨てない」
その言葉は、理想だった。
だが――
現実は、動かなければ変わらない。
◇
王都、貴族院本会議。
高い天井。
重厚な机。
整然と並ぶ貴族たち。
その中心に――リディアは立っていた。
◇
(逃げない)
あの時、決めた。
守られる側ではなく。
動かす側になると。
◇
「発言を許可する」
議長の声。
視線が、一斉に集まる。
◇
「……リディア・エルフォードです」
静かに名乗る。
だが、その声は揺れない。
◇
「本日、提案するのは――」
一拍。
「税制および流通制度の改革案です」
ざわめき。
当然だ。
この状況で、“変える”と言ったのだから。
◇
「現行制度は、限界に達しています」
「民は疲弊し」
「市場は停滞し」
「国家財政は崩壊寸前」
「……言い過ぎだな」
どこかから声が飛ぶ。
だが。
「事実です」
リディアは即座に返した。
◇
「だからこそ」
資料を広げる。
「三つの柱で、再構築します」
◇
「第一に」
「税の再定義」
◇
「税は、徴収のためではなく」
「循環のために使う」
「……何を言っている」
「徴収した資金を」
「即時に現場へ戻す仕組みを構築します」
「インフラ」
「生活基盤」
「最低限の保障」
「これを優先する」
◇
「そんなことをすれば」
「財政が持たん!」
「持たせます」
即答。
◇
「第二に」
「流通の開放」
◇
「特定商会への依存を排除」
「複数ルートの確保を義務化」
「取引の透明化」
「……商人が反発するぞ」
「ええ」
「ですが」
一拍。
「従わない場合は、取引停止とします」
◇
空気が、張り詰める。
強制。
それは、明確な権力の行使だ。
◇
「第三に」
「監査権限の拡張」
◇
「税の使用先」
「契約内容」
「すべてを開示対象とする」
「違反があれば」
「即時介入」
◇
「やりすぎだ」
「権限が強すぎる」
反発の声が上がる。
当然だ。
既得権益を、直接切りに来ている。
◇
だが。
リディアは、一歩も引かない。
◇
「今回の崩壊は」
静かに言う。
「“見えなかったこと”が原因です」
「だから」
「見えるようにする」
「それだけです」
◇
正論。
だからこそ、重い。
◇
「……誰の入れ知恵だ」
低い声が飛ぶ。
探るような視線。
◇
一瞬だけ、思い浮かぶ。
あの街。
あの男。
◇
だが。
リディアは首を振る。
「私の判断です」
◇
嘘ではない。
これはもう――
自分の意志だ。
◇
「……通ると思っているのか」
議長が問う。
◇
リディアは、まっすぐに前を見る。
逃げない。
揺れない。
◇
「通します」
静かに。
だが、確実に言い切った。




