第58話:ヒロインの答え
「全員は、無理です」
その言葉は、静かに落ちた。
◇
否定はない。
反論もない。
ただ――
誰もが理解してしまっている。
それが現実だと。
◇
だからこそ。
誰も、動けない。
◇
「……じゃあ」
その沈黙を破ったのは――エリシアだった。
◇
「その“無理”ってさ」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「本当に、全部試した後の“無理”?」
◇
視線が集まる。
貴族たちのものではない。
――俺の視線だ。
◇
「どういう意味ですか」
静かに問う。
◇
「だってさ」
エリシアは一歩前に出る。
「効率案も」
「公平案も」
「“今の仕組み”の中で考えてるよね?」
◇
空気が、わずかに揺れる。
◇
「税の取り方も」
「お金の流れも」
「前提は変えてない」
「だから」
一拍。
「どっちも限界があるんじゃないの?」
◇
言葉が、突き刺さる。
◇
「……前提を変えると?」
◇
「現場から変える」
即答だった。
◇
「上から全部動かそうとするから、無理なんだよ」
「下が死んでるのに、上だけ整えても意味ない」
「だから――」
息を吸う。
そして、はっきりと言う。
◇
「“生きてるところ”を起点にする」
◇
「……具体的に」
◇
「回ってる場所はあるでしょ?」
「まだ商売が成り立ってるところ」
「まだ人が動いてるところ」
「そこを中心にして」
「周りを支える」
◇
「つまり」
俺が言う。
「部分的な再生ですか」
「うん」
頷く。
「でも、それだけじゃない」
◇
「支援を“分配”じゃなくて」
「“接続”にする」
◇
「接続……」
◇
「余ってるところと」
「足りないところを繋ぐ」
「無理やり均等にするんじゃなくて」
「流れを作る」
◇
それは――
どこかで聞いた考えだ。
いや。
(使ってきた)
◇
「それでも」
俺は言う。
「全員は救えません」
◇
「うん」
エリシアは、あっさり頷いた。
◇
「知ってる」
◇
その一言に、わずかに言葉が止まる。
◇
「全部は無理」
「でも」
一歩踏み込む。
「だからって、“切る前提”で考えるのは違う」
◇
「違う、とは?」
◇
「救える範囲を広げるために考える」
「最初から減らすんじゃなくて」
「増やす方向で考える」
◇
理想論だ。
だが。
(現場の言葉だ)
◇
「効率だけなら」
「半分でいいかもしれない」
「でも」
「それってさ」
少しだけ、声が強くなる。
◇
「“最初から半分見捨てる”ってことでしょ?」
◇
沈黙。
◇
誰も、否定できない。
◇
「私は」
エリシアは言う。
まっすぐに。
逃げずに。
◇
「そこから考えたくない」
◇
短い言葉。
だが、強い。
◇
「……非効率です」
俺は言う。
「ええ」
「時間もかかる」
「ええ」
「失敗する可能性も高い」
「うん」
全部、認める。
その上で。
◇
エリシアは、はっきりと答えた。
「それでも、見捨てない」




