第57話:選択②(公平)
「半分は救えます」
その言葉の余韻は、重く残っていた。
◇
誰もすぐには口を開かない。
合理的だ。
理解できる。
だが――
受け入れられない。
◇
「……他はないのか」
老貴族が、低く問う。
期待ではない。
だが、諦めでもない。
◇
「あります」
俺は答えた。
「もう一つ」
視線が、再び集まる。
「ただし」
一拍。
「こちらは、非効率です」
◇
「構わん」
「聞かせろ」
◇
「全員を救う案です」
◇
空気が、わずかに揺れる。
さっきとは違う意味で。
◇
「具体的には」
資料を差し替える。
「税の即時軽減」
「最低限の生活保障」
「流通の強制再分配」
「そして」
「全域への資源分散」
◇
「……理想だな」
誰かが呟く。
「ええ」
否定しない。
「理想です」
◇
「だが、それで回るのか?」
◇
「短期的には、持ち直します」
「民の負担は減る」
「消費も回復する」
「反発も収まる」
「つまり」
「“今”は救えます」
◇
「なら、それでいいではないか!」
声が上がる。
だが。
俺は首を振った。
◇
「問題は、その後です」
◇
「資源は有限です」
「分散すれば、一点あたりの回復力は落ちる」
「結果」
「回復が遅れる」
「そして――」
一拍。
「再び不足が起きる」
◇
「さらに」
続ける。
「支出は増えます」
「ですが」
「収入はすぐには戻らない」
「つまり」
「赤字は拡大する」
◇
「……それでも」
誰かが言う。
「民は救われる」
◇
「一時的に、です」
はっきりと答える。
◇
「長期では?」
◇
「持ちません」
即答する。
◇
沈黙。
重い沈黙。
◇
「……では」
老貴族が問う。
「この案の結末は?」
◇
「全体の崩壊です」
◇
誰も、否定できない。
理屈は通っている。
だからこそ、重い。
◇
「つまり」
静かにまとめる。
「この案は」
「“全員を一度救って”」
「“全員で沈む”形になります」
◇
エリシアが、拳を握る。
分かっている。
それでも――
納得できない。
◇
「……でも」
小さく言う。
「見捨てるよりは……」
◇
「ええ」
俺は頷く。
「その通りです」
「だから」
一拍。
「これは“正しい案”です」
◇
だが。
続ける。
逃げずに。
現実として。
◇
「同時に」
「成立しない案でもあります」
◇
理想と現実。
その衝突。
◇
どちらも正しい。
どちらも間違っている。
だから――
選ばなければならない。
◇
俺は静かに結論を置く。
誰もが理解しながら、目を逸らしていた答えを。
「全員は、無理です」




