第56話:選択①(効率)
「もう、払えません」
その叫びは、耳に残っていた。
◇
王都、臨時会議室。
空気は重い。
誰もが、現実を理解している。
だが――
誰も、答えを出せない。
◇
「……状況は把握しているな」
老貴族が低く言う。
「民は限界だ」
「市場も崩れかけている」
「ならば問う」
視線が、こちらに向く。
「どうする?」
◇
答えはある。
だが。
(軽く言うものではない)
◇
「案は、二つあります」
静かに言う。
場が、わずかに引き締まる。
「一つ目は――」
一拍。
「効率を優先する案です」
◇
「効率?」
「はい」
「救えるものを、確実に救う」
「その代わり――」
言葉を切る。
そして、はっきりと言う。
「救えないものは、切り捨てる」
◇
空気が、凍る。
◇
「……正気か」
誰かが呟く。
「見捨てると言ったのか」
「はい」
否定しない。
「全員は救えません」
「だから」
「選ぶ必要があります」
◇
「ふざけるな!」
強い声が飛ぶ。
「民を選別するなど――」
「既にしています」
静かに遮る。
◇
沈黙。
「……何?」
「現状の政策は」
「結果的に、選別しています」
「気づいていないだけです」
◇
「重税によって」
「払える者だけが生き残る」
「払えない者は、脱落する」
「それが、今の構造です」
「……」
「違いますか?」
誰も、答えない。
答えられない。
◇
「ならば」
続ける。
「無自覚に選別するより」
「意図して最適化した方がいい」
「それが、この案です」
◇
机に資料を広げる。
地域別の生産性。
回復可能性。
資源量。
「優先順位をつけます」
「回復が早い地域」
「生産性が高い層」
「そこに資源を集中する」
「その他は――」
一拍。
「切る」
◇
「……どれくらい救える」
老貴族が、低く問う。
感情ではなく、現実として。
◇
「試算では」
紙を指で叩く。
「資源を集中すれば」
「経済は短期間で回復します」
「税収も戻る」
「市場も安定する」
「つまり」
「国は維持できる」
◇
「だが」
誰かが絞り出すように言う。
「切られた側は……?」
◇
「崩壊します」
はっきりと答える。
◇
空気が、さらに重くなる。
だが――
それが現実だ。
◇
「……なぜそこまで割り切れる」
老貴族の声。
責めるでもなく。
ただ、問う。
◇
「簡単です」
俺は答える。
「目的が違うからです」
「目的?」
「はい」
「この案の目的は」
「“全員を救うこと”ではありません」
一拍。
「“国家を残すこと”です」
◇
誰も、言葉を返さない。
それは――
理解してしまうからだ。
この案が、合理的であると。
◇
だが。
同時に。
受け入れがたいとも。
◇
エリシアが、横で黙っている。
何も言わない。
だが、その表情は――
明らかに、納得していない。
◇
それでも。
俺は、言い切る。
これは一つの答えだ。
冷たくても。
現実的な答えだ。
◇
「半分は救えます」




