第55話:民の限界
「税じゃない、搾取です」
その言葉は、確かに会議室を揺らした。
だが――
外は、もっと先に壊れていた。
◇
「……様子、おかしいね」
王都の外縁区画。
エリシアが、周囲を見渡しながら言う。
人はいる。
だが――動きが鈍い。
声が低い。
そして。
(余裕がない)
◇
露店に並ぶ商品は、少ない。
質も落ちている。
それでも――
「高い……」
エリシアが呟く。
「これじゃ、買えないよ」
「ええ」
頷く。
理由は分かっている。
供給の不安定。
信用の低下。
そして――重税。
すべてが価格に乗っている。
◇
「……売れない」
店主がぽつりと漏らす。
「仕入れは高いのに、誰も買わない」
「どうすりゃいいんだ……」
その声は、小さい。
だが――重い。
◇
さらに奥へ進む。
人だかりが見える。
ざわめき。
怒号。
「何だろ」
エリシアが足を速める。
◇
そこには――列があった。
長い列。
配給所。
「次の方!」
係員が叫ぶ。
「一人一袋まで!」
「そんなの足りるか!」
「家族がいるんだぞ!」
声がぶつかる。
押し合う。
崩れそうな秩序。
◇
「これ……」
エリシアが息を呑む。
「もう限界だよ」
「ええ」
否定しない。
◇
「税を払え!」
突然、別の方向から怒鳴り声が飛ぶ。
徴税官だ。
数人の兵士を連れている。
「今月分、未納だな!」
「払えないって言ってるだろ!」
男が叫ぶ。
「仕事もねぇ! 食い物も足りねぇ!」
「それでも義務だ!」
「知るかよ!」
◇
空気が、張り詰める。
一瞬。
静まる。
そして――
「……もういいだろ」
誰かが呟いた。
小さな声。
だが。
それが、引き金になる。
◇
「もう無理だ」
「払えねぇよ」
「なんで俺たちばっかり」
「上は何してる!」
声が重なる。
広がる。
止まらない。
◇
「……まずいね」
エリシアが小さく言う。
「ええ」
分かっている。
これは、ただの不満じゃない。
(限界だ)
◇
徴税官が一歩前に出る。
「静まれ!」
「これは国のためだ!」
その言葉に。
――誰も、従わなかった。
◇
「国?」
「どこがだよ」
「俺たち何ももらってねぇぞ」
「取られてばっかりだ!」
怒りが、形になる。
視線が変わる。
恐れから――敵意へ。
◇
「下がれ!」
兵士が叫ぶ。
だが、その声はもう届かない。
◇
「……行こう」
エリシアが腕を引く。
「ここにいたら危ない」
「ええ」
頷く。
ここはもう、“分析する場所”じゃない。
◇
離れながら、振り返る。
人の波。
崩れかけた秩序。
そして――
積み重なった感情。
◇
(これが現実か)
帳簿では見えない部分。
だが、本質だ。
◇
税が重い。
市場が崩れている。
それは分かっていた。
だが。
(ここまでとはな)
◇
そして、最後に。
はっきりとした声が、響いた。
押し殺すこともなく。
遠慮もなく。
ただ、真っ直ぐに。
限界として。
叫ばれる。
「もう、払えません」




