第54話:重税の理由
「収支、崩壊してます」
その一言で、会議室の空気は完全に変わった。
◇
誰も軽口を叩かない。
誰も笑わない。
ただ――沈黙。
◇
「……では」
老貴族が、ゆっくりと口を開く。
「なぜ、ここまで税が重くなったのか」
「貴様には分かるのか?」
試すような問い。
だが。
「ええ」
俺は即答した。
「原因は単純です」
◇
机の上に、三枚の紙を並べる。
支出。
徴収。
そして――配分。
「まず前提として」
「税は“結果”です」
「結果?」
「はい」
「支出が先にあり、それを埋めるために徴収する」
「つまり」
「重税の原因は、“支出側”にある」
◇
「当然だ」
貴族の一人が頷く。
「だからこそ、必要なだけ取る」
「ええ」
否定しない。
「ですが」
一拍。
「その“必要”が問題です」
◇
支出の内訳を指で叩く。
「軍事費」
「過剰です」
「備蓄」
「過剰です」
「そして――」
一枚を引き抜く。
「ここ」
「……これは?」
「儀礼費です」
◇
豪奢な建設。
過剰な宴。
無意味な装飾。
すべてが、そこに並んでいる。
「……必要だ」
誰かが言う。
「権威は国の基盤だ」
「ええ」
頷く。
「否定はしません」
「ですが」
「“規模”が問題です」
◇
「これらを合計すると」
「国家支出の三割を占めます」
「……三割だと?」
ざわめき。
だが、否定は出ない。
◇
「つまり」
「税の三割は」
「維持ではなく、“演出”に使われている」
◇
「それが何だ」
強い声が飛ぶ。
「国を保つためには必要だ」
「民はそれを理解している」
◇
「いいえ」
首を振る。
「理解していません」
「……何?」
「正確には」
「理解できない構造になっています」
◇
「税がどこに使われているか」
「誰も知らない」
「見えない」
「だから」
「ただ“取られる”だけになる」
◇
「それの何が問題だ」
別の貴族が言う。
「払うのは義務だ」
「ええ」
頷く。
「義務です」
「ですが」
一歩踏み込む。
「納得がなければ、続きません」
◇
「納得など不要だ」
「力で――」
「違います」
遮る。
静かに。
だが、はっきりと。
「短期なら可能です」
「ですが」
「長期では崩れます」
◇
「なぜなら」
「税は“循環”だからです」
「……循環?」
「はい」
「徴収して」
「使って」
「また戻す」
「それが本来の形です」
◇
「ですが今は」
「一方通行です」
「上に吸い上げて」
「戻らない」
「結果――」
一拍。
「下が枯れる」
◇
静寂。
誰もすぐには言葉を返せない。
理解してしまったからだ。
◇
「……では」
老貴族が低く言う。
「貴様は、どう定義する」
「今の税を」
◇
俺は、迷わなかった。
ここは曖昧にする場所ではない。
はっきりと言うべきだ。
◇
視線を上げる。
全員を見渡す。
そして――
結論を置く。
「税じゃない、搾取です」




