表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
税は未来のために ― 崩壊国家を再構築する経済戦記 ―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/70

第53話:国家財政

王都貴族院、第二会議室。


 机の上には――山のような帳簿が積まれていた。


 ◇


「これが、国家財政の全資料だ」


 老貴族が静かに言う。


「見たければ見ろ」


 試すような視線。


 だが、その奥には別の感情がある。


 ――どうせ分からない。


 そういう確信。


 ◇


「ええ」


 俺は席に着き、帳簿を開いた。


 瞬間。


 世界が変わる。


 ◇


 数字が、浮かび上がる。


 収入。

 支出。

 流れ。


 それらが線となり、構造となる。


 複雑に絡み合い――


 そして。


(歪んでいる)


 一目で分かる。


 ◇


「……どう?」


 エリシアが小声で聞く。


「見える?」


「ええ」


 短く答える。


「全部」


 ◇


 ページをめくる。


 一枚。

 二枚。

 三枚。


 速い。


 だが――


 雑ではない。


 必要な情報だけを、正確に拾う。


 ◇


「……おい」


 誰かが呟く。


「早すぎるだろ」


「流し見しているだけでは――」


「違う」


 別の貴族が低く言う。


「あれは……読んでいる」


 ◇


 俺は手を止めない。


 収入の流れを追う。


 税収。

 関税。

 特別徴収。


 そして――


 支出。


 ◇


 そこで、止まる。


(ここだ)


 軍事費。


 異常な塊。


 ◇


「……見つけた」


 小さく呟く。


「何が?」


 エリシアが覗き込む。


「これ」


 指で示す。


「軍事費」


「……多いね」


「ええ」


「ですが」


 一拍。


「“多い”では足りません」


 ◇


 俺は紙を数枚抜き出し、並べた。


 年度別の推移。


 配分比率。


 そして――


 隠されていた内訳。


「見てください」


「……え?」


 エリシアの目が見開かれる。


「これ……増え続けてる?」


「はい」


「しかも、加速している」


 ◇


「必要だからだ」


 即座に声が飛ぶ。


「国防は最優先事項だ」


「ええ」


 頷く。


「それ自体は否定しません」


「ですが」


 視線を上げる。


「“限度”があります」


 ◇


「限度だと?」


「はい」


「現在、この国は」


「収入の半分以上を軍事に使っています」


 ざわめき。


 だが――


 反論は弱い。


 数字は、誤魔化せない。


 ◇


「問題は、それだけではありません」


 さらに紙を重ねる。


「補給費」


「維持費」


「そして――」


 一拍。


「未使用の備蓄」


「……未使用?」


「はい」


「消費されていない資源が、積み上がっている」


「なぜそんなことを」


「“備え”です」


 誰かが答える。


 だが、その声は自信がない。


 ◇


「備えは必要です」


 俺は言う。


「ですが」


「過剰な備えは、ただの滞留です」


「資源が死ぬ」


「資金も死ぬ」


「……」


 沈黙が広がる。


 ◇


「さらに」


 俺は最後の資料を出す。


「これを見てください」


 収入と支出の差。


 年ごとの推移。


 明確な――


 赤。


 ◇


「……これは」


 誰かが呟く。


「赤字……?」


「はい」


 はっきりと答える。


「継続的な赤字です」


 ◇


「そんなはずはない!」


 強い声が飛ぶ。


「国家に赤字は存在しない!」


「徴収すればいい!」


 ◇


「ええ」


 俺は静かに頷く。


「徴収は可能です」


「ですが」


 一歩も引かずに言う。


「その結果が、これです」


 ◇


 重税。


 市場の停滞。


 信用の低下。


 すべてが繋がる。


 ◇


「誰も……」


 エリシアが小さく呟く。


「全部見てなかったの?」


「ええ」


 短く答える。


「部分最適です」


「軍は軍の理屈で動く」


「財務は財務の理屈で動く」


「貴族は貴族の理屈で動く」


「結果――」


 一拍。


「全体が壊れる」


 ◇


 沈黙。


 完全な沈黙。


 誰も、もう軽くは扱えない。


 ◇


 俺は帳簿を閉じた。


 結論は出ている。


 迷う必要はない。


 だから。


 静かに、だが確実に言い切る。


「収支、崩壊してます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ