第39話:決断
「終わりです」
その言葉から、半日。
街は、完全に機能を失っていた。
◇
暴動は広がり、
店は閉まり、
人は去る。
残っているのは――
混乱と、不信と、疲労だけ。
◇
執務室も、静かだった。
報告は、もう来ない。
来る意味がないからだ。
すでに“結果”は出ている。
崩壊。
それが現実だ。
◇
「……どうするの」
エリシアが、力なく聞いた。
声はかすれている。
目も赤い。
「まだ……何かできる?」
沈黙。
すぐには答えなかった。
答えはある。
だが――
(選びたくないだけだ)
それでも。
選ばなければならない。
◇
「……一つだけ、あります」
静かに言う。
エリシアが顔を上げる。
「本当!?」
「はい」
だが、その目は――
期待してはいけない、と告げていた。
「ただし」
一拍。
「全員は救えません」
「……え?」
「選びます」
「何を?」
「残すものと、捨てるものを」
空気が止まる。
◇
「ちょっと待って」
エリシアが立ち上がる。
「それって……どういう意味?」
「そのままの意味です」
淡々と答える。
「この街は、もう維持できない」
「だから」
「切り分けます」
「維持可能な部分だけを残す」
「それ以外は切る」
「……そんなの」
言葉が詰まる。
「見捨てるってこと?」
「はい」
はっきりと肯定する。
「見捨てます」
「……っ」
エリシアの顔が歪む。
「そんなの……」
「他に方法はありません」
遮るように言う。
「全体を守ろうとすれば、全部失う」
「なら」
「一部を捨てて、一部を守る」
それが、最適解だ。
「でも……!」
「感情の問題ではありません」
きっぱりと言い切る。
「構造の問題です」
沈黙。
重い沈黙。
◇
「……誰を、残すの」
しばらくして、エリシアが聞いた。
声は震えている。
「機能です」
俺は答える。
「人ではなく」
「機能?」
「はい」
「生産」
「流通」
「管理」
「この三つ」
「それが回る最小単位だけを残す」
「……それ以外は?」
「切ります」
容赦なく。
完全に。
◇
「……無理だよ」
エリシアが首を振る。
「そんなの、できるわけない」
「できます」
「できない!」
声が強くなる。
「人だよ!?」
「分かってます」
「じゃあなんで!」
「やらないと、全員死ぬからです」
静かに言う。
だが、その一言で――
全部止まった。
「……」
反論はない。
できない。
事実だからだ。
◇
「……最低だね」
エリシアが呟く。
「ええ」
否定しない。
「最低です」
「でも」
一歩も引かない。
「必要です」
これが現実だ。
優しさでは救えない領域。
だから――
切る。
◇
俺は机の上に、紙を広げた。
街の構造図。
人の配置。
機能の流れ。
すべてを見ながら――
線を引く。
残す場所。
切る場所。
容赦なく。
正確に。
◇
「……ほんとにやるの」
エリシアが、最後に聞いた。
俺は答える。
迷いなく。
感情を排して。
ただ、合理だけで。
「……捨てます」




