第40話:喪失
」
その決断から、半日。
街は――二つに分けられた。
◇
「対象区域、確定しました」
静かな声で、エリシアが言う。
机の上の地図には、一本の線が引かれていた。
内側と、外側。
残す場所と、切る場所。
「……」
俺は何も言わず、その線を見る。
これが境界だ。
生きる側と、捨てられる側の。
◇
「通達、出します」
「ええ」
短く頷く。
それで、終わる。
いや――
始まる。
◇
数刻後。
街中に、通達が回った。
『本日をもって、一部区域の機能を停止する』
『対象区域の住民は、速やかに退去を――』
◇
「ふざけるな!」
怒号が響く。
「なんで俺たちなんだ!」
「こっちはずっとやってきたんだぞ!」
「今さら切るのかよ!」
当然の反応だ。
受け入れられるはずがない。
だが――
決定は変わらない。
◇
「……すみません」
エリシアが、何度も頭を下げる。
「本当に……すみません」
謝っても意味はない。
分かっている。
それでも、頭を下げるしかない。
◇
「お願いだ、残してくれ!」
「ここで暮らしてるんだ!」
「どこに行けって言うんだよ!」
声が刺さる。
一つ一つが、重い。
だが――
止めない。
止めれば、全部が崩れる。
◇
門が閉じられる。
内側と外側が、完全に分断される。
その瞬間。
音が、変わった。
外側は、混乱と怒号。
内側は――
静寂。
◇
「……これで」
エリシアが、かすれた声で言う。
「止まるの?」
「ええ」
俺は頷いた。
「出血は止まります」
資金の流出も。
機能の崩壊も。
最低限は守れる。
だが――
代償は明確だ。
◇
数時間後。
報告が上がる。
「資金流出、停止しました」
「流通、安定化」
「内部機能、維持確認」
すべて、予定通り。
完璧な処理だ。
合理的に見れば。
◇
「……成功、だね」
エリシアが呟く。
だが、その声に喜びはない。
「ええ」
俺は答える。
「成功です」
嘘ではない。
街は、まだ生きている。
だが――
◇
窓の外を見る。
門の向こう側。
人が、いる。
立ち尽くしている。
怒りも、叫びも、もうない。
ただ――
そこにいる。
居場所を失って。
◇
「……ねえ」
エリシアが、ぽつりと言う。
「これでよかったのかな」
答えは、出ない。
いや――
出ている。
だが、口にするものではない。
◇
俺は静かに目を閉じた。
そして、開く。
状況は、安定している。
街は、延命した。
それが事実だ。
だが。
そのために、何を失ったかも――
分かっている。
だから。
ただ一言、呟く。
「守れなかった」




