第37話:限界
「資金が、消えていく」
その現実から、二日。
街は――明確に変わった。
◇
朝。
市場は開いている。
だが、音が違う。
呼び込みの声は小さく、
笑い声は消え、
代わりに――
「……今日は仕入れ、やめる」
「売れても意味ねぇ」
「赤字だ」
そんな言葉が、あちこちから聞こえる。
商品はある。
人もいる。
だが。
(回っていない)
数字は動いているのに、意味がない。
それが、空気に出ている。
◇
「報告です」
執務室に、次々と人が入ってくる。
「資材、未払いが三件」
「人件費、遅延発生」
「一部店舗、営業停止」
淡々と並べられる言葉。
だが、その一つ一つが重い。
「……増えてるね」
エリシアが呟く。
「ええ」
俺は頷く。
「加速しています」
止まらない。
もう“傾向”じゃない。
“流れ”になっている。
◇
「ねえ」
エリシアが机に手をつく。
「これ、どこまで耐えられるの?」
「現状のままなら」
一拍。
「三日」
「……」
「楽観的に見ても、五日」
沈黙。
言葉が出ない。
当然だ。
それはもう、“限界宣言”に等しい。
「止める?」
エリシアが聞く。
声は低い。
「全部止めるなら、被害は限定できます」
「でも」
「街は終わります」
機能が止まる。
人が離れる。
二度と戻らない。
「続ける?」
「このまま続ければ」
一拍。
「中から崩れます」
「……どっちも終わりじゃん」
「はい」
即答する。
逃げ道はない。
◇
そのとき、扉が開いた。
「……すみません」
入ってきたのは、若い商人だった。
顔色が悪い。
「どうしました?」
エリシアが聞く。
「今日で……店、閉めます」
静かな声。
だが、重い。
「もう無理です」
「仕入れても赤字で」
「働いても金が残らなくて」
「家族、養えません」
誰も何も言えない。
言えるわけがない。
それが現実だからだ。
「……すみません」
もう一度頭を下げて、男は出ていった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
◇
「……始まったね」
エリシアがぽつりと呟く。
「ええ」
否定しない。
これは“最初”だ。
一人が抜ければ、次も抜ける。
連鎖する。
止まらない。
「どうするの?」
エリシアがこちらを見る。
その目は、もう誤魔化せない現実を見ていた。
「何か手は?」
沈黙。
すぐには答えなかった。
答えがないわけじゃない。
だが――
(重すぎる)
選べば、何かが壊れる。
必ず。
俺はゆっくりと息を吐いた。
そして、静かに言う。
「……限界です」
エリシアの肩が、わずかに揺れる。
「このままでは」
一拍。
はっきりと言い切る。
「もう、持ちません」




