表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
税は未来のために ― 崩壊国家を再構築する経済戦記 ―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/70

第35話:罠

 「勝てるかもしれません」


 その言葉から、二日。


 街は――順調に見えた。


 取引は戻り、

 市場は安定し、

 空気も軽くなっている。


 まるで、何もなかったかのように。


 だが――


(おかしい)


 違和感は、消えなかった。


 ◇


「順調だね」


 エリシアが書類をめくりながら言う。


「契約も増えてるし、価格も安定してる」


「ええ」


 俺は頷く。


 だが視線は、別の数字を追っていた。


【契約数:増加】

【流通量:回復】

【価格:正常化】


 表面は、完璧だ。


 だが――


【利益率:低下】


「……」


 指が止まる。


「どうしたの?」


「利益が落ちてます」


「え?」


 エリシアが身を乗り出す。


「どれくらい?」


「じわじわと」


 数値を指でなぞる。


「契約は増えているのに、利益が減っている」


「そんなのある?」


「あります」


 即答する。


「条件です」


 ◇


「……これか」


 契約書を広げる。


 先日取り返したはずの契約。


 その細部。


 細かい条文。


 そこに、違和感があった。


「何これ」


 エリシアが眉をひそめる。


「“調整条項”? こんなのあった?」


「ありました」


 静かに答える。


「ただし、軽く見ていた」


 そこに書かれているのは――


 価格変動に応じた“再調整”。


 一見、合理的だ。


 だが。


「これ、向こうに有利じゃない?」


「ええ」


 頷く。


「暴落時は守られる」


「だが回復時は、利益が吸われる」


「……そんな」


「つまり」


 一拍。


「回復するほど、こちらの取り分が減る」


 沈黙。


 空気が一気に冷える。


「でも、それって……」


「はい」


 エリシアの言葉を引き取る。


「“最初から仕込まれていた”」


 ◇


 別の書類を開く。


 次の契約。


 その次。


 ――全部同じだ。


「全部、同じ構造です」


「……嘘でしょ」


「偶然ではありません」


「全部、繋がってる」


 市場回復。

 契約増加。

 価格安定。


 全部――


(誘導されている)


「ねえ」


 エリシアの声が、わずかに震える。


「これって……」


「はい」


 俺は静かに頷いた。


「罠です」


 ◇


「じゃあ、この回復は……」


「“回復させられている”」


 即答する。


「こちらが立て直したんじゃない」


「向こうが、“立て直させた”」


「……なんでそんなこと」


「利益を吸うためです」


 単純な話だ。


「崩壊させるより、効率がいい」


「回して、吸い続ける」


「……最悪」


「ええ」


 同意する。


 しかも。


「こちらは気づかない」


「むしろ“勝っている”と思う」


 その状態が、一番危ない。


「……」


 エリシアが言葉を失う。


 当然だ。


 今までの手応えが、全部ひっくり返った。


「じゃあ、どうするの?」


 ようやく出てきた言葉。


 だが――


「簡単ではありません」


 俺は正直に言った。


「すでに契約は結ばれている」


「流れもできている」


「ここから崩すには」


 一拍。


「相当な犠牲が出ます」


「……」


「しかも」


 視線を落とす。


「まだ全部じゃない」


「え?」


「この構造、もっと広がってます」


 市場全体に。


 街全体に。


 じわじわと。


「つまり……」


「まだ深いです」


 沈黙。


 完全に、状況が変わった。


 これはもう――


 “対抗”じゃない。


 “掌の上”だ。


 ◇


 俺はゆっくりと息を吐いた。


 そして、書類を閉じる。


 理解した。


 全部、繋がった。


 あの男の余裕。

 あの言葉。

 あの視線。


 全部、これだ。


 最初から。


 ずっと。


 俺たちは――


 誘導されていた。


 だから。


 はっきりと言い切る。


「……やられましたね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ