第32話:反撃開始
「これは……厄介ですね」
その結論から、一晩。
状況は変わらない。
むしろ、じわじわと悪化している。
客は減り、
取引は鈍り、
空気は重い。
だが――
(止まるわけにはいかない)
ここで止まれば、本当に終わる。
◇
「全体、集めてください」
朝一番、俺はエリシアに言った。
「全体って……」
「管理層です」
「現場の責任者も含めて」
「……分かった」
エリシアはすぐに動いた。
迷いはない。
いい判断だ。
◇
しばらくして、執務室に人が集まる。
倉庫管理。
流通担当。
市場の責任者。
それぞれの顔に、疲れと不安が浮かんでいる。
「……現状は分かってますね」
俺は短く言った。
誰も答えない。
だが、全員が理解している。
「じゃあ結論から言います」
一拍。
「このままだと、崩れます」
重い空気。
否定は出ない。
出せない。
「だから」
視線を一人ずつに向ける。
「やり方を変えます」
空気が、わずかに動く。
「変えるって、何を……」
一人が恐る恐る聞く。
「外部依存を減らします」
即答する。
「具体的には」
指を立てる。
「代替ルートの構築」
「内部生産の強化」
「そして」
一拍置く。
「情報の遮断」
「……遮断?」
ざわ、とざわめきが広がる。
「はい」
「外からの情報を、そのまま受け取らない」
「確認されていない噂は、扱わない」
「内部で整理する」
「それで信用が戻るのか?」
別の男が言う。
疑念は当然だ。
「すぐには戻りません」
俺ははっきり答えた。
「でも、崩壊は防げます」
それが今の目的だ。
勝つことじゃない。
“生き残る”こと。
◇
「まず、流通」
机に地図を広げる。
「既存ルートは使えません」
「なら?」
「細かく分けます」
「小規模で、複数」
「……効率悪くないか?」
「悪いです」
即答する。
「でも止まらない」
それが重要だ。
「次に生産」
「内部で作れるものは増やす」
「量は少なくてもいい」
「完全に止まるよりマシです」
頷く者が出てくる。
理解し始めている。
「最後に信用」
一瞬だけ、間を置く。
「全部、見せます」
「……全部?」
「はい」
「収支」
「流通」
「契約」
「隠さない」
ざわめきが広がる。
「そんなの、危なくないか?」
「危ないです」
「でも」
視線を上げる。
「今は“隠してると思われてる”方が危ない」
沈黙。
誰も反論できない。
事実だからだ。
◇
「……やるしかないか」
誰かが呟く。
「このままじゃ終わりだしな」
「なら動くしかない」
一人、また一人と頷く。
空気が変わる。
不安から、覚悟へ。
いい流れだ。
◇
会議が終わり、人が出ていく。
部屋に残ったのは、エリシアだけだった。
「……ギリギリだね」
「ええ」
正直に答える。
「余裕はありません」
「勝てる?」
「分かりません」
嘘は言わない。
だが――
「ただ」
視線を外さずに言う。
「まだ詰んでない」
それが全てだ。
エリシアが小さく笑う。
「それ、前向きなの?」
「ええ」
軽く頷く。
「十分です」
完全に崩れる前なら、手は打てる。
なら――
やるしかない。
俺は小さく息を吐き、静かに言い切る。
「まだ、終わってません」




