鍵のない密室 第4話
佐伯がゆっくり太陽を見る。
部屋の空気が、一気に変わった。
太陽の頭の中に、最悪の可能性が浮かぶ。
もし、もし本当に、神崎が犯人を知っていたなら。
そして、密室が神崎の仕掛けなら。
太陽は、気づいてしまった。
この事件には、まだ一つ。決定的なトリックがある。
黒田の言葉で、部屋の空気が凍りついた。
「太陽」
黒田はもう一度言った。
「なんでお前、鍵がポケットにないって知ってる?」
太陽は一瞬、言葉を失った。
確かにそうだ。さっき佐伯は言っていない。
ポケットの中を調べたことは。
それを知っているのは――警察か、犯人か。
佐伯の視線が太陽に向く。
「多田さん」
静かな声だった。
「説明してもらえますか」
太陽は深く息を吐いた。
「……推測です」
黒田が言う。
「そんなわけあるか」
太陽は言った。
「普通調べるでしょ。ポケット」
三上が言う。
「確かに」
佐伯は少し考えてから頷いた。
「……まあ、その通りですね」
部屋の空気が少し緩んだ。
だが、太陽の頭の中では、別のことが動いていた。
神崎の仕掛け。
太陽はゆっくり言った。
「この事件、たぶん、神崎が仕組んだものです」
三上が言う。
「自殺ってことか?」
太陽は首を振る。
「違う。神崎は」
太陽は机の手紙を見た。
『犯人はこの中にいる』
太陽は言った。
「神崎は」
「犯人に復讐しようとした」
森川が言う。
「復讐?」
太陽は頷く。
「大学の事故」
三人の顔が変わる。
黒田が言った。
「……あれか」
太陽は言う。
「神崎は、あれが殺人だと思っていた」
佐伯が聞く。
「どういう事故ですか」
三上が答えた。
「大学三年のとき、帰り道の交差点で車が人をはねた」
佐伯は言う。
「犯人は?」
黒田が答える。
「捕まってない」
森川が小さく言う。
「神崎は、ずっと犯人探してた」
太陽は頷いた。
「そして昨日」
太陽は黒田の言葉を思い出す。
「真実を知った」
太陽は言った。
「神崎は、犯人が分かった」
沈黙。
三上が言う。
「だから?」
太陽は言った。
「だから、犯人を呼び出した」
森川が言う。
「誰を?」
太陽は四人を見回した。
そして言った。
「この中の誰か」
空気が張りつめる。
黒田が言った。
「証拠は?」
太陽は言う。
「神崎は通話に少しだけ参加した」
三上が頷く。
「九時前」
太陽は言った。
「そして、用事がある」
森川が言う。
「それが?」
太陽は言った。
「その用事。犯人と会うことだった」
佐伯が聞く。
「どこで?」
太陽は言った。
「書斎」
黒田が言う。
「じゃあ犯人は」
太陽は頷く。
「神崎と二人きりで会った」
三上が言う。
「でも密室」
太陽は静かに言った。
「そう。密室」
太陽はゆっくり説明する。
「神崎は、犯人を部屋に入れた。話をした。そして」
太陽は机を見た。
「睡眠薬」
森川が言う。
「まさか」
太陽は言った。
「神崎は、わざと毒を飲んだ」
沈黙。
三上が言う。
「……は?」
太陽は続ける。
「神崎は犯人を追い詰めた。大学の事故の証拠を見せた」
黒田が言う。
「証拠?」
太陽は言う。
「たぶん、写真か何か」
佐伯が頷く。
「机のパソコンにデータがありました」
三人が驚く。
太陽は続ける。
「神崎は言ったはず。お前が犯人だ」
森川の顔が青くなる。
太陽は言う。
「でもわ神崎は警察に言わなかった」
三上が言う。
「なんで?」
太陽はゆっくり言った。
「もっと確実にするため」
佐伯が目を細める。
太陽は言った。
「神崎は、自分が死ぬことで犯人を暴こうとした」
黒田が言う。
「意味が分からん」
太陽は言った。
「密室」
「それが?」
「神崎は言った」
太陽は手紙を指す。
「犯人は密室を作れない」
三上が言う。
「そうだ」
太陽は頷く。
「つまり」
「密室は神崎が作る」
森川が言う。
「どうやって」
太陽はゆっくり言った。
「神崎は、毒を飲んだでもすぐ死なない。三十分は動ける」
佐伯が頷く。
「そうです」
太陽は言った。
「その間に、神崎は犯人を帰した」
三上が言う。
「帰した?」
太陽は頷く。
「犯人は、神崎が死ぬとは思ってない。普通に帰る」
森川が言う。
「でも鍵」
太陽は言った。
「そのあと、神崎が自分で鍵をかけた」
三上が言う。
「……それなら。自殺じゃないか」
太陽は首を振る。
「違う」
太陽は言った。
「神崎の目的は、犯人を特定すること」
佐伯が聞く。
「どうやって?」
太陽は答えた。
「条件」
三人が太陽を見る。
太陽は言った。
「犯人だけが神崎の部屋に行った」
森川が息を止める。
太陽は続けた。
「つまり、神崎と最後に会った人物。それが犯人」
黒田が言う。
「証拠は?」
太陽は言った。
「ある」
三人が固まる。
太陽は佐伯を見る。
「通話」
佐伯が頷く。
太陽は言った。
「昨日の通話。四人でしてた」
「そうだ」
「でも」
太陽はゆっくり言った。
「一人だけ」
三人の視線が集まる。
太陽は言った。
「途中で、五分ほど消えた人がいる」
沈黙。
森川が言う。
「……え?」
太陽は言った。
「通話ログ」
佐伯が頷く。
「確かにあります」
三上が言う。
「誰だ」
太陽はゆっくり四人を見回した。
そして言った。
「神崎の家はここから歩いて五分」
三人の顔色が変わる。
太陽は言った。
「通話しながら外に出て、神崎に会って戻る」
太陽は静かに言った。
「できる」
黒田が低く言う。
「……誰だ」
太陽はゆっくり言った。
「通話中、一度だけマイクが完全に無音になった人がいる」
佐伯が頷く。
「ログに残っています」
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