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ミステリー短編集  作者: 倉木元貴


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鍵のない密室 第3話

 空気が凝り固まっている中で、佐伯は静かに言った。


「そしてその夜。神崎さんは死んだ」


 太陽の頭の中で、何かがつながり始めた。

 大学時代の事故。

 神崎の疑い。

 昨日の通話。


 そして――密室の死。


 太陽はふと、あることに気づいた。


「……待って」


 三人が太陽を見る。

 太陽は言った。


「昨日の通話、最初に神崎がいたよな」


 三上が頷く。


「いた」


 太陽は言った。


「神崎、なんて言って抜けた?」


 三人は少し考えた。

 そして、森川がゆっくり言った。


「……確か“少し用事がある”」


 太陽の背筋が寒くなる。

 用事。もしそれが、誰かと会うことだったら?

 そして、太陽の頭に、もう一つの疑問が浮かんだ。


「……佐伯さん」


 刑事が見る。


「なんでしょう」


 太陽は言った。


「神崎が死んだ部屋。鍵がないんですよね」


「はい」


 太陽はゆっくり言った。


「じゃあ、誰が鍵をかけたんですか」


 佐伯は答えなかった。

 ただ静かに言った。


「それを、今から考えるんです」


 太陽は思った。

 この事件には、まだ何かある。


 密室のトリック。

 消えた鍵。

 そして――神崎が残した言葉。


 犯人は、この中にいる。

 太陽は四人を見た。そして、はっきり感じた。

 この中の誰かが、嘘をついている。

 リビングの空気は、重く沈んでいた。


 誰もが同じことを考えている。

 犯人は、この中にいる。


 太陽はテーブルの上に置かれた封筒を見ていた。

 神崎が残したもう一つの手紙。


「もし私が死んだら、この手紙を友人たちに読ませてほしい」


 そして。


「犯人は、この中にいる。」


 太陽はゆっくり言った。


「佐伯さん」


 刑事が顔を上げる。


「なんでしょう」


 太陽は聞いた。


「神崎って、いつ死んだんですか」


 佐伯は答えた。


「司法解剖の結果では、昨夜の九時から十時の間」


 やはり同じだ。

 太陽は続けて聞く。


「死亡時刻の誤差は?」


「一時間ほど」


 太陽は頷いた。

 つまり、九時前後。そのとき神崎は、通話にいた。だがすぐ抜けた。

 そして死んだ。


 太陽は言った。


「毒は睡眠薬ですよね」


「はい」


「それって、すぐ効きますか」


 佐伯は首を振る。


「いいえ。通常は三十分以上」


 太陽は息を止めた。


 三十分。

 それはつまり、飲んですぐ倒れるわけじゃない。


 太陽は言った。


「つまり神崎は、薬を飲んだあとしばらく動けた」


 佐伯は頷く。


「そう考えられます」


 三上が言った。


「それがどうした」


 太陽はゆっくり言った。


「密室」


 三上は顔をしかめる。

 太陽は説明する。


「もし自殺なら、薬を飲んで鍵をかけて倒れる。普通はそうですよね」


 佐伯は頷く。


「はい」


 太陽は言った。


「でも、鍵がない」


 沈黙。

 森川が小さく言う。


「確かに」


 黒田が言った。


「ポケットにもなかったんだろ」


 佐伯が答える。


「ありませんでした」


 太陽は考えた。

 鍵が消えた密室。この時点で可能性は三つ。


 ①犯人が鍵を持ち去った

 ②神崎がどこかに隠した

 ③鍵は最初から存在しない


 太陽はふと聞いた。


「佐伯さん」


「はい」


「ドアの鍵って、どういうタイプですか」


 佐伯は答える。


「普通のシリンダー錠です。内側から回すタイプ」


 太陽は言った。


「オートロックじゃない?」


「違います」


 太陽はドアを思い出した。


 つまり、内側から鍵を回さないと施錠されない。


 太陽は言った。


「じゃあ、誰かが部屋を出たあと。外から鍵はかけられない」


 佐伯は頷く。


「その通りです」


 森川が言った。


「じゃあ完全に自殺じゃない?」


 三上も頷く。


「そうなるな」


 太陽は言った。


「でも、神崎は」


 太陽は手紙を見た。


「私は殺された」


 太陽は言った。


「この手紙」、神崎は嘘を書いたんでしょうか」


 誰も答えない。

 佐伯が言った。


「神崎さんは、かなり計画的な人物だったようです」


 太陽は頷く。

 大学時代もそうだった。頭がよく、冷静。


 そして――妙に執念深い。


 太陽は言った。


「もし、神崎が本当に殺されたなら」


 三上が笑う。


「どうやって?」


 太陽は言った。


「犯人は、部屋の中にいた」


 黒田が言う。


「そりゃそうだろ」


 太陽は続ける。


「そして。犯人は外に出た」


 森川が言う。


「でも鍵」


 太陽は言った。


「そう。鍵」


 全員が黙る。

 太陽はゆっくり言った。


「鍵がない密室。これってつまり」


 太陽の頭の中で、何かが形になり始めた。


 鍵がない。それは、鍵が消えたからじゃない。


 太陽はふと聞いた。


「……神崎の妹さん」


 佐伯が答える。


「はい」


「鍵を持ってたんですよね」


「ええ」


 太陽は聞く。


「何本?」


 佐伯は答える。


「二本です」


 太陽の心臓が強く鳴った。


「二本?」


「はい」


「一本は妹さん。もう一本は」


 佐伯は少し間を置いて言った。


「神崎さん」


 太陽は言った。


「……それだけ?」


「はい」


「スペアは?」


「ありません」


 太陽の頭の中で、ピースが動いた。


 鍵は二本。

 一つは妹。

 一つは神崎。


 だが、部屋には鍵がない。


 太陽はゆっくり言った。


「つまり」


 三人が太陽を見る。

 太陽は言った。


「神崎は、鍵を持っていなかった」


 沈黙。

 三上が言う。


「……は?」


 太陽は続ける。


「だって部屋にない。ポケットにもない。机にもない」


 黒田が言う。


「じゃあどこいった」


 太陽は静かに言った。


「最初から持ってなかった」


 森川が言う。


「でも鍵かかってたんでしょ」


 太陽は頷く。


「そう。そこなんだ」


 太陽の背筋が冷たくなった。


 もし本当に、神崎が鍵を持っていなかったとしたら、この密室は自殺でも殺人でもない。もっと奇妙な構造になる。


 佐伯が静かに言った。


「どういう意味ですか」


 太陽は言った。


「もし、神崎が鍵を持ってなかったなら誰が鍵を持ってる?」


 三人が固まる。

 太陽はゆっくり言った。


「答えは一つです」


 誰も動かない。

 太陽は四人を見回した。

 そして言った。


「この中の誰か」


 空気が凍る。

 三上が笑った。


「馬鹿言うな」


 太陽は言った。


「神崎は、犯人は密室を作れないって書いた」


 森川が言う。


「そう」


 太陽は頷く。


「つまり密室は……」


 太陽の声が低くなる。


「神崎が作った」


 全員が息を止めた。

 太陽は続ける。


「神崎は、犯人を知っていた。だから」


 太陽は手紙を見た。


「もし私が死んだら」


 太陽はゆっくり言った。


「この事件。最初から、神崎の仕掛けだった」


 そのときだった。

 黒田が突然言った。


「……おかしい」


 全員が黒田を見る。

 黒田は言った。


「太陽。お前、なんで鍵の話をそんなに詳しく知ってる?」


 太陽は一瞬固まった。

 黒田は続けた。


「鍵がポケットにないとか、俺たちさっき初めて聞いたはずだろ」


 太陽の背筋に冷たいものが走った。

 確かに、誰も言っていない。

 ポケットを調べたことは。


 それを知っているのは――警察だけ。

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